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第9話 オーナーという男の評価

「……恐ろしい相手だったな、サリエリ少佐。」


メリゴ連邦第七艦隊旗艦アマデウスのブリッジ。静まり返った空間に、ダグラス大佐の低い声が響いた。


サリエリ少佐は椅子に深く腰を沈め、わずかに肩を震わせていた。


「……会話の主導権を握られていた、手のひらの上と言う感覚でした。」


ふっと乾いた笑みをこぼしながら、サリエリは己の手を握りしめた。冷たい汗がじんわりと滲んでいる。


「そこは問題無いと思うぞ、落としどころも問題ないし、お前も会話で相手の情報を引き出していただろう。」


ダグラス大佐は静かにサリエリの肩を叩く。その厚い手のひらには、戦場を渡り歩いた者の余裕と励ましがあった。


「……最後の最後で畳みかけられました、相手に弁名させると言う形を取れたのは良かったのですが情報の開示によりその流れを断ち切られた。」


サリエリ少佐は奥歯を噛みしめる。


「ふむ、お前なにか狙ってたな?」


「はい、軍が主導でアワイコロニーとの交渉の場を用意すると言う方向に話を進める予定でした。」


少し考えてダグラス大佐目を見開く。


「バベルの手伝いをすると言いながら、アワイコロニーの棍棒になろうとしたってことか、軍の顔を立てされると言う圧力で親父さんの交渉を有利に――、成程よく考える物だ。」


「しかし、相手の方が上手でした、軍の干渉を防ぎつつコロニーとの交渉を行う正当性を一気に示してきた、双方に悪くない条件出されていたと言うのも大きく⋯⋯」


悔しさを滲ませた声に、ダグラス大佐は微かに口角を上げた。


「お前の成果は十分、これをよかったじゃねぇか、とほめてやりたいところだがどうしたもんか。」


大佐は腕を組み、椅子にもたれかかる。


「そもそも軍人の権利で相手に譲れる物もたいして無かった、それを見越して即座に交渉を畳みアワイコロニーとの直接交渉を誘導した、オーナーって奴は切れ者だな。」


三十代位の男の顔を思い出す。


無茶はしないが抜け目ない、若さを感じるが歳は重ねている。そんな印象を感じた。


「よしサリエリ少佐、次は考える時間だ、次は相手の開示した情報を分析する何か思いつく事はあるか?」


サリエリは静かに目を閉じ、頭の中で情報を整理する。


「……相手は企業で、多種族を抱える大規模コロニー。今の情勢下でそんな勢力が表立って存在できるとは思えません。つまり、国家から独立した海賊的な組織——」


「違うな」


ダグラス大佐が言葉を遮った。


「俺はあいつらから、海賊の雰囲気は感じなかった。むしろ、長い年月をかけて築かれた共同体って印象だ。」


「共同体、ですか?」


「最初に艦隊の修理を持ち出して来たあたりから商人って感じはするだろ、それに国家間で敵対していた種族がオーナーって言う一番偉いやつの部屋で一緒に働いてた。」


「よく見てますね。」


「軍人って言っても色々あるが、俺はこの観察眼で生き残って来たからな。」


そういって軽く軍人時代の武勇伝を漏らし、笑うダグラス。


「これは俺の想像だが、バグワームの勢力圏で孤立し、何世代もかけて独自の文化と経済圏を築いたんだろう。だからこそ、種族の違いを超えた統治が可能になっている。」


サリエリは驚いたように目を見開いた。


「ああいわれてみれば、それなら重武装の説明も、良く思いつきますねダグラス大佐。」


「惑星出身でな、宇宙に憧れて想像ばかりしていた、それに俺は本もよく読む。」


「人は見た目によらないとはこのことですか、本国には海賊と交流があったであろう国家圏外の独立勢力、人口を抱えているが種族的に統治は難しいと報告しましょう。これにアワイコロニーが友好的な条約を結べば本国は見逃す判断をするはずです。」


そうだなと頷きつつ、人は見た目によらないとはどういう意味だと睨むダグラス大佐を無視して報告内容を纏め始める。


「それが良い、軍人としてあれと戦うのは面倒だ、サリエリ少佐いい仕事をしたぜ。」


「ありがとうございます。」


緊張と駆け引きの末に得たこの結果——果たして、本当に正解だったのか。


答えは、まだ分からない。

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