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第6話 サリエリ少佐

アメリゴ連邦第七艦隊旗艦 「アマデウス」 のブリッジでは、未確認要塞 「仮称X」 の動向を注意深く監視していた。


未確認要塞「仮称X」から敵意のない簡易通信が届いたが、圧倒的な戦力を前に警戒を解くわけにはいかない。


「各艦、通信封鎖を解除。大破した艦船の人員を至急収容せよ」


ダグラス大佐は戦況モニターを見つめながら指示を出した。


バグズ艦隊は壊滅し、戦場には一時の静寂が訪れている。


「しかしあの要塞面倒ですな。」


「いや、艦隊がこうなった以上海賊戦争に参加する事は不可能だろう。」


「あれがバグワームの居る宙域と繋がったって言うのも不運な話です。おや動きがありましたな、映像を回せ。」


オペレーターが即座に映像を転送する。


映し出されたのは、未確認要塞 「仮称X」 の艦隊が、戦場を漂う 脱出ロケット や 船外スーツを着た生存者たち を回収している姿だった。


「回収状況を監視しろ、それと出来る限りこちらで回収するんだ、あー相手を刺激しないように注意しろよ。」


ダグラス大佐は眉間にしわを寄せ、オペレーターに低い声で指示を飛ばす。


「了解」


本国からの指示も無いが「仮称X」もまた沈黙している。


「敵対的でないのがせめてもの救いか」


気がつけば、無意識に足を揺らしていた。ダグラス大佐は小さくため息をつき、腕を組み直した。


「ダグラス大佐、戻りました。」


サリエリ少佐がブリッジに現れる。


「長かったな、サリエリ少佐。……いや、初陣なら無理もないか。」


どう声を掛けるべきかと振り向いたダグラス大佐の視線の先、凛とした眼差しと乱れのない軍服、着こなしから気品が漂う。

初陣とは思えない落ち着きで、静かに大佐の前に立った。


「いえ、父――レニャーゴ議長と話してきました」


ダグラス大佐の表情が一瞬だけ引き締まる。新兵をどう励ますかを考える上官としての態度から、補佐官の作戦案を受ける指揮官として目の前の男の言葉に耳を傾ける。


「お父上は、たしか……」


「はい。夕暮れの星セクター・アワイコロニー議長、アントニウス・レニャーゴです」


この状況を動かせるかもしれない。


「そうだな、有人コロニーの人命保護の為であればアメリゴ連邦軍に要請を行う事も、本国の判断を待たずに外交交渉を行う事も可能だ。」


ダグラスはサリエリ少佐の顔を睨むように見る。


「……ならば、という訳です。」


「良いだろう未確認要塞『仮称X』へ通信を試みる。」


オペレーターが即座に作業に入る。


「こちらアメリゴ連邦第七艦隊旗艦『アマデウス』。」


「未確認要塞『仮称X』、応答せよ。」


ブリッジに緊張が走る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


戦闘が終わり次第に落ち着きを取り戻すアメリゴ連邦艦隊に反し、バベルはオープン通信から手に入る情報に混乱を増していた。


「対バグズの戦闘記録を洗え、星の位置、艦隊の設計からオープン通信何でもいい、今の年代をすぐに特定し法務部長にお知らせしろ。」


法的に問題かな?そんな自分の言葉一つでこの組織は動き出す。


これが事前に練り上げた企画プランとかなら嬉しいのだが、ああ成程ゲームで出せる指示には限りがあった、細かく説明なんてできないからその名残か? 


「だが、相手の法に従う相手を即座に攻撃しようとはならないだろう⋯⋯」


「オーナー、幾つか攻撃に使えそうな法的根拠を用意しました」


ん?


首をかしげそうになるのをこらえる。


警察とかを相手にするみたいに下手に出て、攻撃されないように振る舞うのではだめなのだろうか


「軍ではないと主張し、コロニー間条約の交渉の枠に持ち込めば、軍の直接介入は避けられるでしょう。」


「……つまり、軍の介入を避ければ良いって事だね?」


「はい」


端的な返事、


「交渉役は⋯⋯、俺か?」


「はい」


二度目のそれでいやでも期待を向けられている事に気が付く、クソ、バベルを護るためだ、俺はもうバベルの一員――いや、オーナーなのだ。

そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着ける。


「⋯⋯、」


未だ実感が沸かないが俺はバベルの人間だ、そう言い聞かせて自分を落ち着ける。


そうだ、バベルを観よう。


ポチポチと端末を開いてバベルの立体図を表示する。


全長約12㎞、大規模な居住区画のある武装コロニーと言っても差し支えない代物だ。


現在のバベル・エデン所属人数13万9820名⋯⋯、え?


画面に表示された数字を二度見する。


「現在のバベル・エデン所属人数、13万9820名……転移者」


画面に映る「13万9820名」という数字が、現実味を持って胸に迫る。

これだけの人々の命と生活が、今、俺の手に委ねられている。

その重さに、思わず肩が震えた。


「オーナー、私は副官として、バベルの情報封鎖を続けるべきだと具申いたします。」


「ああ、そうしよう。この状況だ、混乱は防ぐべきだがこちらの意識は統一するべきだ、何か方法はあるか?」


「⋯⋯、意識の統一、必要でしょうか?いえすみません、でしたら運営臨時会を開くべきかと。」


記憶にそれに該当するものがあった、文字通り臨時に開けて内容を完全に秘匿する事も可能な会議、ってことは秘匿しない会議も、時間経過で内容公開される会議もあるって事か……、何か国っぽいな。


「わかった。救助活動と情報封鎖は任せた」


俺は深呼吸して、ノイズキャンセル機能をオンにする。


鏡に映る自分の顔を一度だけ見て、身だしなみを整える。


時間は待ってはくれない、これから13万人の代表として、初めての交渉に臨むのだ――。



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