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第1話 アンルール情報参謀

時は遡りバベル・エデンがアメリゴ連邦使節を受け入れる前、バグワーム間引き作戦『クレンジング・ランス』後、バグワーム領域を通りササーン神聖帝国の背後に到達できる事がわかり対応が考えられていた。


「フォフォフォ紹介しよう、バグズ戦役の生き地引こと元ササーン俗世主義者の神官にして魚尾種、タンジ・アンルール情報参謀だ、彼女は魚尾種的価値観ではシュルル殿より階級が高かったりする。家柄とか言った方が分かりやすいかのう?」


白い分厚い毛皮に覆われた白老参謀総長の大きな体が、ゆったりと揺れる。その分厚い肉球のような手で、ゆっくりとタンジの肩を叩く様子は、まるで孫を可愛がる祖父のようだ。


「いや大丈夫だ、白老参謀総長、よろしく頼むアンルール情報参謀。」


「よろしくお願いしますオーナー総司令官。」


タンジ・アンルールは敬礼すると、首周りの青いヒレを少し広げた。


魚尾種が緊張したときの習性だ。


「はい!現在の『海賊戦争』について歴史的見地から説明します。」


彼女は頭上にホログラムを展開した。


「このいわゆる『海賊戦争』は表向きは無法者の取り締まりですが、実際は三大勢力による代理戦争です。」


ホログラムには三つの異なる色の領域が表示された。


「人間種、獣人種、魚尾種の3種族の間にある空白セクター区域、そこへの領土拡大を狙うのが次の3勢力です。」


アメリゴ連邦

民主主義を掲げる人間種の国家

コロンブス共和国と言う同種族の事実上の従属国と共同で参戦


宋星獣王朝

血筋を重要視する獣人種の国家のうちの一つ

ゲートウェイ機能停止による分離から、瑞獣王朝から分離した拡張主義国家。


瑞獣王朝と正統を争っているが政治的な抗争に収まっている


ササーン神聖帝国

数学と幾何学を信仰する魚尾種の神権国家、宇宙嵐の影響で大パンテオン家と聖戦士団が独立小戦争状態と問題を抱えているが、この世界最大の勢力


白老将は資料を確認しつつ、小さな耳を動かしながらゆっくりと頷いた。その瞳には長年の智慧が宿っている。


「わしが若かりし頃からの話じゃがな、アメリゴ連邦にバグワームが出現する事で宋星獣王朝とササーン神聖帝国は感覚的な戦争状態に陥った。」


「しかい今では3勢力の小競り合いは続き、『海賊討伐』という名目で勢力拡大を図っておる。それぞれ獲得した領土の扱いは違うが、特に資源豊富な小惑星帯やコロニーが標的じゃな。」


雪のように白い毛に覆われた肉球で、静かにホログラムの一点を指し示す。その温厚な物腰の背後に、獣人族特有の鋭さが垣間見える。 


「アメリゴ連邦が海賊戦争から完全に撤退するのが1年後、アメリゴ連邦の我々に対する警戒を考慮すれば1年と数カ月は歴史通りに事態は推移するでしょう。」


アンルール情報参謀は頷いて続けた。


「実際の戦闘は、表向き海賊と呼ばれる勢力が行っていますが、その正体は各国が非公式に支援する私掠船や、軍の将兵が変装して操る『偽装海賊艦隊』です。」


「なるほど」俺は頷いた。


「艦船のサイズから見ても、この時代の海賊には維持できないはずです。」


「その通りです!」アンルール情報参謀は興奮気味に言った。


「特に駆逐艦や戦艦クラスの主力艦は、エンジニアの教育が必須、軍の人間が操縦しています。海賊の仮面をかぶった軍同士の戦いなんです。」


白老将はしわがれた声で、ゆったりと続けた。


「若いもののことじゃがな、アワイコロニーに駐留していたサリエリ少佐の艦隊も、元々は海賊戦争のために編成された部隊じゃよ。彼の父親がコロニー議長という政治的背景もあって海賊戦争を武勲の稼ぎ場と認識しているのじゃろう。」


白い眉をしかめながら、大きな体を揺すって考え込む姿は、古き良き時代の武人を思わせる。


「アメリゴ連邦は、海賊戦争を民官一体となって行っている。手に入れ領土の活用は宋星獣王朝だが、大半の貴族は領土確保より政治的な工作を優先、優秀な独裁者が領土確保を主導しても総力としてアメリゴ連邦有利、ササーンのやり方では統治の長続きし無い……」


ゲートウェイの再起動に意図があるなら、アメリゴ連邦が空白セクターを確保する可能性が高いからバグワームをぶつけた?


勢力均衡と最終的知的種族の繁栄を望むなら良さそうに見える。


「この戦争の構図自体は十分に記録として残っています。」


アンルール情報参謀が説明を続けた。


「宋星獣王朝とササーン神聖帝国の泥沼の大戦争、それに引きずられ種族間戦争にまで発展したのが。これが後のバグズ侵攻を許す要因になったと分析されています。」


「それは知らなかった」と俺は話に聞き入る。


アンルール情報参謀は声を潜めた。


「そして現在の最も重要な動きは...ササーン神聖帝国内部での動乱です。」


彼女は自分の首元のメダルに触れた。


「先程シャルル殿より家柄が上と言う話がありましたね、魚尾種社会では名前の最後に『ルール』が神官階級、『ルル』が貴族、『ルー』が一般市民という厳格な階級があります。」


ペンダントを握りしめながら前を向いて話を続ける。


「この階級制度が生み出した不満や怒りが様々な利権と混ざり、俗世主義と言う大義名分のもと反乱を起こしました。」


白老将は大きな肉球でアンルール情報参謀の頭をなでながら穏やかに語った。


「情報部の分析情報からも歴史通りに動いている。そして老いたわしの目にも、だがアメリゴ連邦が脱落してない今ササーン神聖帝国が傾きかねん、宇宙の何処がハゲタカになるかもわからん。」


アンルール情報参謀は静かに頷いた。


「はい...私の情報網によれば、ササーン俗世主義者の分離独立運動は、あと数ヶ月以内に本格化するでしょう。」


私は思索に浸りながら言った。


「ありがとう、アンルール情報参謀。君の知識は我々にとって貴重だ。」


タンジは静かに敬礼した。彼女の青い肌が、決意の表れか、わずかに輝いていた。白老将は温かな目で彼女を見つめ、年季の入った肉球で優しく肩を叩いた。その大きな白熊のような姿は、頼もしくも慈愛に満ちていた。

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