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第25話 灰色の現場に柱が立つ

バベル特区建設予定地の仮設事務所は、活気と緊張が入り混じる独特の雰囲気に包まれていた。 


巨大な青写真が壁に貼られ、作業員たちが絶え間なく出入りする中、一人の男がひっそりと隅のデスクで書類を精査していた。


「第一基礎建築予定より二日早く完了しました」


バベル・レバノン建材建築(株)の現場監督の報告によそから引き抜かれた同僚が驚きの表情を浮かべる。


「ああ、いずれなれる。バベル本社の担当だ。」


好奇心からか、職人気質の何人かが作業の合間に覗きに来る。


「パネル構成でこの設計自由度か?」


「合金骨組みの様だが何でこの工期で進められるんだ?計画表見せて見ろ。」


「詳しく調べるなって言われてるだろ段階的に共有されるらしいから今は工期通りにすすめろ。」


タブレット端末を片手に、機械の挙動や進捗を監視しつつ軽く釘をさす。


陽炎の立ち上る広大な建設現場。朝靄の中、巨大なクレーンがゆっくりと鉄骨を吊り上げ、無骨なアームを伸ばして所定の位置に据え付けていく。


「相変わらず辛気臭い顔をしてるなコーター」


大型の航空機が連なって止まる。ドローンと作業機械が荷物を降ろすなかスキンへットの男がコーターに話しかける。


「しっかしよくもまあ上を口説き落としたもんだ、あそこの製造工場と何処で知り合ったんだ?」


「古い同僚の転職先でね、会食では良くしてもらってるよ」


コーターはただ肩をすくめた。


「それに昨日のゴルフで航空運輸省の次官とラウンドしてね。18番ホールで彼にバーディを取らせてやっただけさ」


「ああ、道理で管制官の愛想がよかったわけだ、あんたとの仕事はやりやすくていい」


「また暇な時でも子供の話を聞かせてくれよ」


コーター・B・ゴッタルド、働いていた会社がバベル・レバノンに統合される前は現場上がりの役員として活躍、メディアシティ建設の功績で物資調達部門の長に上り詰めた。


「ついて来い忙しくなるぞ」


資材の搬入を確認し部下をつれ事務所に戻る


「あ、それから明日の夜は市の建設委員会のメンバーを招いた晩餐会だ。おまえも来い、俺のカードでスーツをそろえろ」


「そんな悪いですよ、それに俺なんかが言っても」


「若いうちに顔を見せとけ」


どれ程合理化しようと最後に物事を判断するのは人だ、誰が言おうと良い取引は良い取引、そう言える程世の中は単純化し無いし、感情が優先される。


「そうそう、都市計画委員会のブランソン議長には例のスコッチを送っておいてくれ。夫人へのプレゼントも忘れずに」


電話を置くと、部下がレポートを持って入ってきた。


「バベル・エデン本社からの監査チームが明日到着するそうです」


コーターの表情が一瞬こわばった。


「了解。最高のおもてなしを準備しよう。VIPルームの予約と…」


縁を大事にするのは俺のポリシーだがそれが良縁となるかは分からない。


「それが先方は事務所に直接来るそうです」


「そうか、君は日程の調整を、俺も準備をする」


現場に響くのは、エンジン音と電子音、そして人々の短い指示や確認の声、人と大型建設機械が一体となって、未来の都市の骨格を形造る中、見慣れぬ航空機が止まる。


コーターの事務所は、建設現場が一望できる仮設ビルの最上階にあった。


「コーター部長……財務書類の完全開示を要求しています」


コーターは眉をひそめた。


「どの範囲の?」


「全て、だそうです」


静寂が事務所を満たした。コーターは立ち上がり、窓の外を見つめた。


「わかった。準備するよう伝えてくれ」


秘書が去った後、コーターは秘密の金庫を開け、分厚いファイルを取り出した。それには「特別会計処理」と記されていた。


監査チームのリーダーは30代半ばの女性で、冷静な目と落ち着いた物腰が印象的だった。


「コーター部長、お時間をいただき感謝します」


彼女は丁寧に挨拶した。


「早速ですが、いくつか確認したい事があります」


コーターは気さくな笑顔で応じた。


「なんなりと」


会議はしばらく続き、自分だけが会議室に残される。


「率直に申し上げます」


彼女は声を落とした。


「我々はすべて把握しています」


コーターは動揺を見せなかった。


「はて、工事の進捗でしょうか?」


「C地区の許認可取得費用。公式には2500万クレジット。実際の申請費用は300万。差額の2200万の行方」


彼女は淡々と続けた。


「労働者名簿の水増し。資材品質の虚偽報告。そして『特別会計処理』と呼ばれる裏金の流れを把握しております」


何処でもやってることだがその発言を求めているわけでは無いだろう。


何が狙いだバベル本社、正直底が知れず恐ろしい相手だ。


「ビビらせすぎだ」


会見で見た事がある、バベル・エデンの所有者オーナー。


「政治家や企業の重役にばら撒いたおこずかい、その使い道を考えさせたいがその情報を共有する人間には立場が足りないな。」


「いったい何を……」


「半数は君の関係者を中心に、残りはそれぞれの経営陣から、それぞれのプロフィールや性格分析を張っている」


インターネット上の浅い繋がりの人間も浅い


「これからは君がバベル・レバノン建材建築(株)の代表だ、君の事務能力を評価している。だが今度からは君が呼び出す立場になる。やってみるか?」


「……やらせていただきます」


「よろしい、接待費用も役員毎に設定する、それこそ重役のパーティー費用から現場監督にレクリエーション費用まで、しばらくはほこりには眼を光らせるが自由度は増えるはずだ、監査部門は他と独立して君の直轄になる。」


建設業界は裏金の宝庫、何千万とかけて仕入れた木材がただの木だったり、労働者の頭数を数千単位で水増し報告したり。


だがだからこそ後ろ暗い金を手にした時は心強い、バベル・エデンはコロンブス共和国に中堅大企業を軽くこえるバベル・レバノン建材建築(株)を設立した。


そして人事権とシステム監視をチラつかせることによる引き締めと彼、コーター・B・ゴッタルドを中心とした上層部の設置が完了した。

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