第21話 権力の壁とバベルの手
バベル・エデンのコロンブス共和国現地企業が大企業として認められ、その実績を元にバベル・エデンはコロンブス共和国に加入した。
この政治的成果は表向きには大きな勝利だったが、同時に新たな駆け引きの始まりを含んでいた。
「会見の方お疲れ様でした。」
リアム副官がオーナーに水の入ったグラスを差し出した。全身の疲れが一気に押し寄せてくる。二時間に及ぶ記者会見で、同じような質問に何度も答え続けるのは想像以上に消耗する仕事だった。
メディアはバグワームから人類種を守る盾ともてはやし、アメリゴ連邦軍とバベル・エデンの繋がりをアピールし、「人類の守護者」「新時代の防衛産業」といった美辞麗句がニュースフィードを埋め尽くしていた。
「軍がバベル・エデンに首輪を付けにかかり、保守派の大企業が拡大派の勢いをそぐために動いたという状況です。」
メディアの論調はあまりにも一貫していた、明らかに誰かが裏で糸を引いている。
「想定よりバベル・エデンの扱いが良いように感じるが?」
「ええ、交渉が上手く行きました」
政府関係者や保守派の大企業との飲み会の日々が続く。
今夜も高級レストランでの会食だ、クリスタルのシャンデリアの下高価なワインが注がれ、オーナーは様々な人物との会話を交わしていた。
「新たに参入してくる市場では取り引き一つ取っても大変な苦労があると思います。ええ、私の様な政治家がコロンブス共和国の新たな風となるバベル・エデンを手助け出来たらと……」
コロンブスの上院議員は、笑顔で握手を求めながらも、目は冷たいまま語る。
オーナーはその表情から本心を読み取った。彼は自分で設置する障害を大袈裟に語り、それをどかして欲しければ自分の力を貸してやると言っているのだ。
「上院議員のご協力は非常にありがたいですね。バベル・エデンは新参者にすぎません、力ある存在の手助けがあればより良い未来をつかみ取れるでしょう。」
オーナーは敢えて頭を下げ、謙虚な姿勢を見せる。上院議員の顔に一瞬満足げな表情が浮かんだのを見逃さなかった。
「酒の席で無粋な話をするべきでは無い、バベル・エデンは宇宙での活動がメインと聞いております、お互い異なる分野で協力しましょう」
今度は大手グループ企業の会長、大企業の中でも上位の彼が口を挟んだ。
彼の表情には警戒心と、ある種の侮蔑が混ざっていた。
上院議員が顔を青くするあたり力関係がうかがえる。
今回釘を刺したのは上院議員に対してだが、それをバベル……、俺に見せる事で変な事をしたら解っているなと釘を刺しているのだ。
「おっしゃる通りです。バベル・エデンの強みは宇宙空間での活動にあります。地上での事業展開は最小限に留めるつもりです」
別の分野だろうと隙があれば奪い取ると言う野心を感じる。
脂ののった中年と言う雰囲気だが、しばらくはその牙がバベル・エデンに向くことは無いだろう。
「オーナー様ですね、私投資ファウンド『イカロス・キャピタル』を経営してますジャック・O・ウィズナーと申します、今後お見知り置きを」
突然、背後から声がかかった。
振り返ると、洗練されたスーツに身を包んだ青年が立っていた。瞳は鋭く、まるで相手の価値を即座に算出する計算機のようだった。
「初めましてお噂はかねがね」
オーナーは微笑みながら握手に応じた。
オーナーは微笑みながら握手に応じた。だが内心では警戒心を高めていた。ジャック・O・ウィズナーは最も謎めいた人物の一人だった。
彼の投資ファンド「イカロス・キャピタル」は、政府と大企業の間で巨額の資金を動かしていたが、その実態は不明瞭だった。
「バベル・エデンの成長戦略には大変興味を持っています。特に『モジュール』と呼ばれる船体部品の製造技術は革新的ですね」
ウィズナーの言葉に、オーナーは内心で驚きを隠せなかった。
『モジュール』はコロンブス共和国の拡張派との特別取引の一環で、公には出ていない情報のはずだった。
この男は相当な情報網を持っている。
「ウィズナーさん、良ければ私の連絡先をお渡ししましょう」
イカロスは微笑み、名刺を差し出した。
「先に出させてしまい申し訳ありません、いつでもご連絡ください。バベル・エデンのような……革新的な組織への投資は、私のファンドの重要な戦略の一つです」




