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第20話 新たな責務と会話

バベル・エデンの執務室。天井高4メートルの空間には、人工的に調整された柔らかな光が満ちていた。オーナーは革張りの高級な椅子に深く腰を沈め、机の上に広げられた報告書の山を見つめていた。


モニター窓の向こうには変わらず漆黒の宇宙が広がっている。遠く、作業用シャトルのライトが蛍のように瞬く。


いま行っている仕事は、この椅子に座り続けること。

分厚い報告書を読み込み、重要な決定に証印を押すこと。


そして最も骨の折れる仕事——外部の人間やバベル・エデンの重役たちとの会食や会合で、相手を立てながら外交を進めることだった。


「はい、ビデオメッセージの作成依頼です」


リアム副官の依頼に、俺は困惑の表情を浮かべる。


「金一封だけで十分だろうに……」


活躍した部下を評価する――それは大切なことだと理解している。だが、自分がビデオメッセージで称賛する必要が本当にあるのか、未だに戸惑いが残る。


「俺のビデオメッセージ、本当に必要か?」


リアム副官の気迫に押され、俺は観念して激励の言葉を考え始める。


そう言えば過酷な国ロシアが国難に陥った時、プーチン大統領が上半身裸になって国民を落ち着かせたという逸話を聞いたことがある。


それを考えれば、ビデオレターにも効果はあるのだろう。


……、俺も何かパフォーマンスを考えるべきか?


「既に機材と撮影スタッフまで抑えられている……、ハァ断れないな」


新しい仕事が増えた、ビデオメッセージの収録だ


ついでにコマーシャルの仕事も増えた


演説依頼も……


仕事が増えた。


「今後ともバベルとの取引をよろしくお願いします」


さらに新しい仕事が増えた。


カメラの向こうで、撮影クルーが手際よく機材を片付けている。オーナーは撮影用の正装から普段着に着替えながら、新しい仕事の増加を実感していた。


ビデオメッセージから始まり、コマーシャル出演、各種イベントでの演説依頼——。


「オーナー、コロンブス共和国案件の準備が整いました」


メネリク社長が、人翼種特有の優雅な羽ばたきと共に執務室に入ってくる。彼女の手には、企業買収と現地雇用に関する詳細な資料が握られていた。


それはコロンブス共和国案件、「企業の買収交渉」と「現地在住者の雇用」だ、ついにオーナーって言って欲しい事言ってくれるよねって話から、表情を読む精度が高いのがバレた。


普通の事だと思っていた事が凄いと言う、「俺なんかやっちゃいました」案件が(相手の表情を読む)という地味な技能である事に未だに思う事がある。


「素晴らしい、貴方の技術は今後十年を変えるどうかその力バベルで生かしていただきたい」


「ほう、新しく輸送業を、ぜひバベルの貨物船を使っていただきたい、自社で艦船の保険を運営するバベルの子会社として出発すれば……」


将来成功するであろう人間が分かっていたり、バベルの支援で成功させれる案件だったりの最後の交渉に呼ばれる。


そこから新規事業への挑戦をバベル・エデンに手伝わせて欲しい、そこで相手が自分の何を認めてもらいたいのか、またなにに不安を覚えているのかをカマかけ相手の表情で答え合わせをしながら信頼を築いた。


最初はラフな品の良い格好で接触、交渉成立後にバベル・エデンの規模を直接見せると相手の意表をつけ、特別感と想定外のチャンスを演出出来る。


また買収した企業を一つにまとめたり、バベル・エデンの技術を一部使用し施設を効率化したり、何かその説明にも連れ出された。


新設・テラフォーミング施設建設現場


「このプロジェクトでは地元住民の皆さんに優先的に雇用機会を提供します。また、地域経済への貢献として、新しい教育施設と医療センターも建設予定です」


巨大なクレーンが唸りを上げ、建設用ロボットが規則正しく動き回る現場で、オーナーは地元の代表者たちに説明を行っていた。


だが説明の合間に、彼は作業員たちの間を歩き回り、温かい飲み物を配りながら一人ひとりと言葉を交わした。


「そうか、やっぱり卵とか高いよね。もうすぐ流通が改善するはずだから、きっと安くなると思うよ」


若い作業員の妻が、買い物の愚痴をこぼす。オーナーは相手の目を見て、真剣に頷いた。


「あんた、それはデスクワークのやりすぎだ。腰を痛めたら何もできない。医療センターにはそういうのも診てくれる専門医がいるから、ひどくなる前に診てもらいなよ」


中年の現場監督が腰を押さえているのを見て、オーナーは心配そうに声をかける。


「息子の進学か……生まれたばかりだと、将来のことが心配になるよな」


新米パパの技術者が、ぽつりと不安を口にする。オーナーは温かく微笑み、教育支援制度について詳しく説明した。


多種族社会での調和

バベル・エデン・コミュニティセンター


獣人種の子供たちが魚尾種の老人から伝統工芸を習い、人翼種の青年が竜人種の料理人から調理法を学んでいる。オーナーはそんな光景を眺めながら、各テーブルを回って人々の話に耳を傾けた。


「翼の手入れが大変で……」


人翼種の女性が困ったような表情を見せる。


「専用のオイルが足りないんですね。来週の補給船で追加発注しておきます」


「鱗の色が最近くすんできて……」


竜人種の老人が自分の体を心配そうに見つめる。


「栄養バランスの問題かもしれません。医療センターで一度検査してもらいましょう」


種族ごとに異なる悩みや要望を聞き、それぞれに適切な解決策を提案していく。オーナーの周りには、自然と人の輪ができていた。


夜が更けた執務室で、オーナーは一日の出来事を振り返る。

机の上には増え続ける責任が書類として広がっていた、新たな企業買収案件、地域開発プロジェクト、人材スカウトの報告書


モニター窓の外では、24時間稼働する工場の明かりが星座のように輝いていた。

バベル・エデンは眠らない。そして、その中心にいる自分もまた、人々の期待と信頼という重い責任を背負い続けている。


「仕事が増えた……」


オーナーは小さくつぶやき、肩を回して伸びを一つ。

そして次の報告書に手を伸ばす。

増えた責任に実感が乗り、不安はやりがいへと変化していた。


明日もまた、多くの人々との出会いと、さらなる責務が待っているのだった。





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