第17話 崩壊前のグレーライン
俺は執務室の椅子に深く腰掛け、宙に浮かぶ経済データを見つめていた。
まるで一度投げたサイコロが、自分の意思とは関係なく次々と目を決めていく—そんな感覚だった。
「経済崩壊を引き起こすのか……」
呟きながら、オーナーは額に手を当てる。
「リーマンショック、通貨危機、日本に生きていればバブル崩壊と言う言葉は習う……どれほどの人々が職を失い、路頭に迷うことになるのか。」
彼の胸には重い罪悪感がのしかかっていた。バベル・エデンの繁栄の裏で、数えきれない人々の生活が崩れ去るかもしれないという恐怖。コロンブス共和国の中小企業が倒産し、労働者たちが家族を養えなくなる未来が、リアルに想像できてしまう。
だが、これはいずれ起こることだ。ならば、制御された崩壊の方が被害は少ない—そう自分に言い聞かせても、胸の重さは消えなかった。
「世界征服宣言は必要だった」
オーナーは自分に言い聞かせる。
「外に力を向けなければ、この要塞の人材を持て余してしまう」
バベル・エデンがコロンブス共和国に加入した事で、拡大派閥との取り引きは合法ではあるがグレーな脱税へと変化した。
今回の脱税について簡単に説明すると、このアメリゴ連邦とコロンブス共和国には厄介な税がある。
それが物品税、「他国の海賊行為で国全体が苦しいのに贅沢をするのは何事じゃ〜」と物品に対し税金が課せられた。
この物品税の影響を強く受けるのは製造業、それも複雑な物ほど材料や部品の購入に物品税が課され、二重三重の税金を背負って消費者に届けられている。
だが税金にも抜け道がある。税制とは儲けるための物、また宇宙船を造れるのも国営企業ぐらいしか無く、外国と宇宙船を売買するほどの信頼度も無い時代、制定するにもコストがかかり取れても国営の企業の購買力を落すだけの宇宙船には物品税がかけられてなかった。
しかし宇宙船の購入には金がかかる、現在でもタンカーをポンポンと発注してくれるところは少ない、そこで考えたのが貨物室に物品の入った宇宙船を売る事である。
中古船買い取りと宇宙船販売を繰り返し、差額と言う名の商品代を回収するなど、バベル・エデンの容赦ない合法行為などもあり、コロンブス共和国に加入したバベル・エデンは順調に外貨を獲得していた。
「これは、コロンブス共和国首都への影響力拡大の為に必要な資金集めだ」
資金と買収予定の中小企業がリスト化される毎に、バベル・エデンの計画が進んでいるのが解かる。
「これが俺の決断だ」
バベル・エデンという巨大な組織を率い、混沌の中で新たな秩序を築くために。拡大派との取引、保守派への影響力拡大、そしてコロンブス共和国首都の実質的な支配—すべては計画通りに進んでいる。
窓の外では、補給船が静かにドックに着岸していく。その船倉には、また新たな「商品」が詰め込まれているのだろう。
「この要塞の力を正しく使えるとは思わないが……」
机の上のデータパッドには、法務部からの最新報告が表示されている。コロンブス共和国の経済指標はわずかながら下降線を描き、逆にアメリゴ連邦の経済成長の予兆が見えた。
まだ始まりに過ぎない。だが、確実に歯車は回り始めている。
「すまない、俺がサイを投げた。」
誰に向けたものかもわからない謝罪の言葉が、静寂の中に消えていった。




