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第15話 外交と官僚機構

バベル・エデンは新たな方針を胸に、再びアメリゴ連邦の使節を受け入れた。


生産施設は、いつも以上に緊張感が漂っている。


主要な幹部や技術者たちが早朝から準備に追われ、ホログラムで再現された生産ラインの模型が中央ホールに浮かび上がる。視察ルートは何度もシミュレーションされていた。


壁際では、警備担当の獣人種が無言で視線を巡らせ、清掃スタッフの魚尾種が床を磨き上げていた。


視察ルートは何度もシミュレーションされ、要所には案内係が待機している。


「今回はアメリゴ連邦加入申し込みと言うブラフを使い戦う必要があります」


リアム副官が静かに言い、データパッドを指でなぞる。

その横でメネリク社長が、落ち着いた様子でスーツの袖を整えていた。


「この札の効果は大きく多いがひとまずの目的は、アメリゴ連邦軍の要求をこなせる根拠とその生産拠点としての価値を使節団に証明させる事だったな?」


メネリク社長が低く問いかけると、オーナーは小さく頷いた。


「ええ、同時にバベル・エデンがコロンブス共和国の嫌がらせに折れたように見えるでしょう」


オーナーはメネリク社長と短く言葉を交わし、ちらりと窓の外に目をやる。

遠くのドックでは、夜間作業のライトが点滅していた。


「どちらも大企業からの横槍を防ぐために必要な行為だ。」


「ええアメリゴ連邦軍の推薦でコロンブス共和国加入が最終目標、そのためにもヘイト管理は重要です」


メネリクはグラスの水を一口飲み、静かに頷いた。


「前回の使節団受け入れから、視察団の情報がコロンブス共和国の大企業に流れていることが確認できました、使節団の情報でバベル・エデンに対する溜飲が下がり、その上で評価されれば良いのですが」


俺が「人の心等分らぬ物だからな」と呟くと、室内のメンバーが一瞬顔を見合わせる。ゴア副社長が苦笑して肩をすくめ、獣人種の技術主任が不安げに爪をいじった。


「何にしても机上で懸念点を話し合うばかりでは上手く物も上手くいくまい」


ゴア副社長が助け舟を出し、手を叩いて全体の空気を切り替えた。

スタッフたちが一斉に端末を手に、持ち場へと散っていく。


「使節団には、私たちの生産規模と管理体制を余すところなくお見せしよう。ただし、核心技術や工程の要点は慎重に扱うこと。全体の規模と複雑さで十分な印象を与えられるはずだ」


オーナーの声に、リアム副官が真剣な表情で応じる。


「理解しています。特にモジュール生産ラインは迂回ルートを設定しました。船体部品製造コロニーも、全てを公開しているように見せつつ、技術的製造プロセスは秘匿しています。」


バベル・エデン船体生産施設内のメインホールでは、アメリゴ連邦使節団との会見準備が進められていた。生産ラインの模型と映像データが並べられ、視察ルートも念入りに計画されていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


三日後、アメリゴ連邦使節団を乗せた艦船がバベル・エデンのドッキングベイに到着した。

空気が張り詰め、警備担当が一列に並ぶ中、使節団が降り立つ。


使節団は連邦貿易省高官を筆頭に、税務署、軍需監査局からの代表者など35名で構成されていた。

彼らは一様に真剣な表情で、足並みを揃えて会議室へと進む。

オーナーは彼らを温かく迎え入れ、まず会議室でのプレゼンテーションから始めた。


「バベル・エデンへようこそ、諸君。我々は1コロニーとしてアメリゴ連邦への加入すら考えています。そこで実際に施設を案内させてただきたい。」


「「おお!?」」


独立した武装勢力の相手ということもあり、バベル・エデンの資産価値を調べるという上からの命令に対し、どのような抵抗を受けるのかと戦々恐々としていた一部職員は思わず声を上げる。


「ハハハ、透明性こそが疑心を打ち払い、良好な関係の基盤となると私は考えています」


「貴重な機会を感謝します。特に船体部品製造と造船所には興味があります。」


アメリゴ連邦施設の代表は形式的な微笑みを返した。


「もちろん」


オーナーは穏やかに応じる。

リアム副官がさりげなく視線を交わし、案内スタッフに合図を送った。


「全てをご案内します。ただし一部エリアは安全規制のため、観察エリアからのみ見学可能です。ご理解いただけると幸いです」


使節団への案内は計画通りに進んだ。


広大な製造ラインを前に、官僚たちはデータパッドにひたすらメモを取り、時に互いに顔を見合わせては小声で意見を交わしていた。


税務署の女史が鋭い視線で資料をめくり、軍需監査局の若手が、造船区画の洗練された様子に思わず感嘆の声を漏らす


疑念、感心、安心、そして戸惑い――さまざまな感情が交錯する。

案内ルートは巧妙に設計されており、核心部分には決して近づけない。


「……これだけ複雑だと、全体像は把握できそうにないな」


そんなつぶやきが、誰ともなく漏れた。


「安全柵の向こう側からご覧ください。」


「このラインでは一日に800単位の船体部品を……こちらでは完成モジュールを……このように完成した製品を社内使用用と販売用に素早く……」


機械音声の説明文が続く。


「それは誤解です。我々はアワイコロニーとの協定に則り協力体制を築き、軍との対バグワーム防衛協力に従い軍艦を修理し、コロンブス共和国の法律に則り適切に分類された商品を輸出しています。詳細は法務部から資料を提供できます」


質疑応答も問題なく終わらせた。事前に解答を用意していても緊張するものだ。


見学の最終段階で、使節団は明らかに疲労の色を見せていた。訪問は12時間に及び、収集されたデータは膨大だった。


「……正直、これだけの規模と複雑さ、すぐに全てを把握するのは難しいですね」


軍需監査局の代表が苦笑しながら言った。


別の官僚が補足する。


「追加の調査や、専門的な技術者の派遣も必要かもしれません」


オーナーは穏やかに頷く。


「もちろん、必要とあれば何度でもご案内します。」


無論次の調査等行われない、しかしさり気なく軍関係者を贔屓してもてなしはした。


「安全規定と機密保持にはご理解を、我々としてもアメリゴ連邦との良好な関係のために必要ならいくらでも協力しましょう。」


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