第12話 バベル揺れる
作戦会議室には、バベル・エデンの主要幹部が集まっていた。壁一面の巨大なモニター窓からは、要塞外縁部の灯りと遠い恒星のきらめきが見える。
青いホログラムを調整しているのは人翼種の青年ニネベイサ・アクエル法務参謀だ。
彼の優雅な翼は半ば広げられ、法条文を整理する指先とは対照的に、羽毛が時折緊張で震えていた。
「コロンブス共和国に対する対策会議にお集まりいただきありがとうございます。」
ニネベイサの声が静寂を破る。
ゴア副社長が厚い眉を上げ、竜人種特有の鱗が興味を示すように微かに輝いた。
その傍らでは、リアム副官がタブレットを指で弾き、次々と情報を表示させている。
「今回の関税問題は、拡大派の商人を通すことで脱税による利益を得ることが可能となりました。これにより、現状の関税問題についてはひとまずの解決と見てよいでしょう。」
リアム副官が補足する。
「印象操作についても、拡大派がコロンブス共和国国内で力を持ち始めれば、そちらの対処で手一杯になるはずです。燃料の追加がなければ、今の炎上もいずれ自然に沈静化するでしょう。」
外交職員が、迷惑な臨検に対してもアメリゴ連邦軍経由で警告を出したと報告する。
「アメリゴ連邦軍がバベル・エデンのバックに付いたと判断してくれるでしょう。」
情報部の担当者が、臨検を行った艦隊の一部の将校に不審な送金記録がある証拠を掴んだと報告する。
「これを有効活用すれば、しばらくは同じことは起きないはずです。」
「関税の抜け穴を利用したこの手法は、短期的には利益確保に有効です。ただし、拡大派の勢力拡大を促すことにもなります。コロンブス共和国の派閥争いへの影響は、今後も注視が必要です。」
パラパラと軽い拍手が会議室を包んだ。
窓の外では、補給船のライトが点滅し、要塞の外縁部で夜間作業が続いている。
そんな中、オーナーは机に広げられた星図を見つめていた。
彼の視線は、コロンブス共和国とアメリゴ連邦、そしてバベル・エデンの勢力圏を繋ぐラインを何度もなぞる。
自分がこれまで歩んできた道、多種族の共同体をどう導くべきか、それとも自分のための未来を考えるべきか――、
会議は、コロンブス共和国に正式に加入するか否かという議題に移っていた。
「今回バベル・エデンに接触してきたのは拡張派閥」
「後発組と言うだけあって新しい商売のタネに貪欲なようだな」
丸々と恰幅の良い竜人種の老人が葉巻を嗜みながら感想を述べる。
「コロンブス共和国に加入するのが穏当だと思います。」
人間種の若い職員の発言に一部の職員が眉をひそめる。
「穏当、ですか?」
それを察知した獣人種の公安総監・平道捕吏がその若い職員に低い声で問い返す。
その鋭い目が、発言者を静かに見据える。
「ええ……現状、拡大派との連携も進んでいますし、関税問題も抜け道が確保できた。アメリゴ連邦との関係も安定している。今ここでコロンブス共和国に正式に加入することで、バベル・エデンの経済活動もより円滑になるかと……」
「だが、“穏当”というのはどういうことですかな?」
平道捕吏の声には、どこか釘を刺すような響きがあった。
「つまり、現状維持で波風を立てないという意味です。コロンブス共和国に加入すれば、保守派の監視も受けますが、表向きは敵対を避けられる。異種族への風当たりも弱まるはずです。」
「それは人間種にとっての“穏当”では無いのかと言っているのだ。」
竜人種の財務職員が声を荒げ、平道捕吏が思わず顔に手を当てる。
オーナーは考えていた、自分の気持ちに整理をつけようとしていた、だから動いた。
議論が崩れようとしていた時、一人の男の声が全てを遮った。
「一つ良いか?」
オーナーの声が静かに響き、作戦会議室のピリピリとした雰囲気が一瞬で消し飛んだ。
全員の視線が、星図を見つめるオーナーに集まる。




