第10話 伝統と革新の宴
バベル・エデンの執務室。深夜、オーナーは一人ティーカップを握りしめていた。
「何が間違っていたんだ……」
コロンブス共和国からの嫌がらせ報道、違法スレスレの民間船舶への臨検、反バベル・反異種族の世論操作。心臓がキリキリと痛む。普段飲むコーヒーを胃が受け付けない。
『ここから意味の無い独り言が続く。』
「緑茶では鎖国的すぎる。紅茶で外交的に考えよう」
そう呟いて給湯室を探る。アメリゴ連邦との友好条約締結からわずか2週間でこの事態だ。
「俺も男だ。認められれば嬉しいし、人に指示を出すのは楽しい」
でも、不安になるんだ、だが家臣に横暴な態度を取る王子の様になっては行けないと仏様も言っていた、ウォッカ(パラノイア)は良くない。
酒に逃げるわけにはいかない。
「甘い」
お茶受けのエクレアを口に含む。バベルの時代には失われたお菓子。アワイコロニーから取り寄せたそれを楽しむ。
「エクレア、フランス語で『稲妻』……」
深夜テンションで様々な連想が浮かぶ。
「落ち着け。人間は意外と単純だ。今回は『出る杭は打たれる』、ただそれだ」
歴史は繰り返さないが陰を踏む
「紅茶(英国)を飲め(キめれ)ば頭もさえるだろう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「金と権威の力だコロンブス商人を探る、以前から接触しようとしていた拡大派閥の重役を招待して欲しい」
バベル要塞の執務室で、コロンブス共和国からの客人を出迎えていた。
オーナーは窓から見える宇宙の暗黒を眺めリアム副官の方を向く。
「ええ、やはりこちらから提案するべきかと思いまして、よろしいですかオーナー。」
「確かにそうだ、先に我々の船体部品工場を見ていただこう。」
「会食用に用意した艦を回して置きました、お食事をお楽しみください。我々バベルの味付け、気に入ると思います。」
リアム副官の言葉に俺は頷きコロンブス共和国の客人の方を向く。
「会食用に用意した艦に案内します。よろしいですな?」
ドッキングベイでは、改造された「ケルベロス級」中型艦が待機していた。標準的な武装は取り外され、代わりに広大な展望窓と優雅な内装を施したダイニングルームが設置されていた。艦体側面には「星界の宴」という名が記されている。
回想:事前打ち合わせ
会食の数時間前、オーナーはリアム副官と打ち合わせを行っていた。
「会食の為のマナーの確認をしたいとの事ですが商務部長より今回の会食案を頂いております。」
リアムがデータパッドを操作しながら言った。
ホログラムテーブルには複雑な食事マナーの図解が次々と表示される。ワイングラスの持ち方から複数のフォークの使い分け方まで、細かな作法がリストアップされていた。
「改めて、食事の中にも外交プロトコルと言うのがあります。」
リアムは厳かな表情で解説を始めた。
「特にコロンブス共和国の上層部は伝統的なマナーを重視し、それをビジネスにおける適性判断の基準としている傾向があります。」
「腹芸と伝統、当然知ってるべきプロトコル、パーティーでのワインの選び方などそう言った説明も行いますがオーナーはあえて無視していただきたい。」
オーナーは眉を上げた。
「ほう?資料を見て、こちらとして正直覚えれる気がしないから助かるが、元外交畑の君が言うんだどう意図があるんだリアム副官」
リアムは微かに微笑んだ。
「コロンブス共和国の保守派は伝統や形式に固執し、革新的事業に懐疑的です。一方、拡張派や実利派はそうした古い価値観より経済的合理性を重視します」
「今回の件に関わっているかどうかで相手の受け取り方は変わる⋯⋯見極めようというわけか!!」
「ええ、バベル・エデンに造船能力があると知り真っ先に動いた相手です、手を組めるかどうか確かめれるでしょう」
ケルベロス級艦内の特別会食室は、スターダストの明かりに照らされていた。
長いテーブルの両側に、オーナーとリアム副官、対面にコロンブス共和国の客人が着席している。
給仕が次々と料理を運んでくる。豪華なクリスタルのテーブルウェアと銀製のカトラリーが並び、贅沢な食事風景が目の前に広がる。
「最初に出されたのがこれか、若いワインだなバベル・エデンと言うのも見かけだおしらしい」
コロンブス共和国の客人の一人が眉をひそめながらワインボトルのラベルを確認する。彼の語調には微かな落胆が混じっている。
オーナーはグラスをほぼ満杯まで注ぎ(明らかにマナー違反)、時間をかけて一口を堪能すると一気に半分ほど飲み干した。
「よく見ろわが社の設立年のワインだ、他のワイン一覧もコロンブス共和国で設立した企業の年代」
「我々を試し飲み干すと言うのか豪胆な。」
リアム副官が軽く咳払いをしながら、状況を取り繕う。
「このワインセレクションは、我々の歴史的つながりを祝すものとして特別に選定いたしました。」
「成る程アワイコロニーの食品だが料理はコロンブス風、先に来た前菜は初めて人類種と接触した獣人種の星で生産される穀物と葉野菜を使ったサラダ」
コロンブス共和国の客人は興味深そうに食事を味わう。
その後、給仕が薄く切り分けた赤身の肉料理を運んでくる。
俺は食事のマナーは守りつつ豪快にメインの肉料理を味わった。
「どうですかなバベル・エデンのメイン料理は、アワイコロニーの農産物は質が良い。」
俺は食事を続けながら話しかける。
「オーナーと言う者最低限のマナーは理解しているようだがいささかこちらの合図を無視しているように見える。」
「副官のリアム殿はしっかりしているのに上に立つものがあるとは」
こちらに小声が聞こえる様に話す辺り、京都ポイが直接的だな位で俺は食事を続ける。
「そろそろデザートを出さねば、船体部品工場の映像を出してくれるかな?」
テーブル中央に埋め込まれたホログラム投影装置が起動する
「おお、これがバベルの製造工場」
「こちらでは金属の錬成から加工、船体部品の製造や各種モジュールの組み立て等も行っています」
リアム副官が説明を引き継ぎ、専門的な解説を始めた。
「特に注目すべきは、完全垂直統合された生産ラインです。これにより、金属錬成から加工までを統合効率化しております。」
簡略化した工場モデルで説明を行う。
「生産物は船体部品や電子機器部品等、リストを端末に送るので確認してください。」
コロンブス共和国の客人側から歓声が漏れる。
「そろそろ良いでしょ、俺があえて合図やルールを無視して食事をしている事を理解している筈だ」
オーナーが突然、静かな声で言った。
室内が一瞬静まり返る。
「昔からのルールを無視している事を理解していただければ、利益の話の方が重要でしょう。」
その言葉には二重の意味があった—食事マナーという小さなルールと、宇宙経済における既存のルールの両方を指している。
「まだ食事の途中だと言うのに、随分と急に話を切り出す物ですね。」
向こうの客人は不快だと暗に伝えて来る。
「トイレですか?鏡ならあります、安心してください、鏡にも俺と同じ人間種の顔が映るはずです。」
俺は挑戦的な微笑みを浮かべた。
室内に奇妙な緊張が走る。
「同じ人間種…」
思索するような呟き。
「同じ価値観を持つ者同士ということですね?」
オーナーは頷いた。
コロンブス共和国の客人は無言で互いに合図を出し合い、最終的に彼らは無言で頷き合った。
「コロンブス共和国に参……」
その言葉を手で制止した。
「軍人からの発注を受けるようになってから考えましょう。」
オーナーの声は冷静だった。
「さっそくですが我々バベル・エデンには十分な生産能力があります。どの様なモジュールをつけても貨物船は貨物船、貨物室にどの様なモジュールを山程積み込みますか?」
貨物室に積み込んだ商品をモジュールと言い張る。
宇宙船には税金がかからない、そのモジュールにも……
「ではこちらの取引で」
しばらくして契約が纏まった。
「ええ良い取引でした」
最後の方の値段交渉では、これなら自分でも使えそうな外交プロトコルだなと思った物を混ぜてみた
使えないのではなく使わないと思わせなきゃ行けないからだ。
読者にとっては馬鹿らしい行為と思うかな?
俺もそう思う、それに古い伝統は無能が自分より優れた人間を追い落とす為の物とも何処かの漫画のキャラクターも言っていた
だが天邪鬼な私はこうも思うのだ、古い伝統や仕来りは無能や価値観の異なる相手を足切りするためのものではないかと
同じ価値観、同じ合理で動く合理的な相手となら、こうしてスムーズに取引が出来るのだから十分実用的な手段だ
「形式より実利だ等と言って、なろう貴族のパーティーや会社の意味のなさそうな山間研修を、思考停止して無駄な事をやってると言うような人間にはなりたくない。」
今日は紅茶がとても美味しい。




