第9話 アメリゴ・バベル関税 下
アメリゴ連邦使節団の旗艦がバベル・エデンのドックに接舷した瞬間、エアロックから漏れる空気がほんのり甘い香りを漂わせた。それはアメリゴ上流階級が好む香水「セイレーン」の香りだ。
鏡のように磨かれた床に、銀の鷲章が刻まれた黒いブーツが音もなく着地する。
「ようこそ、ライトハイザー大使」
バベルの外交職員が頭を下げ握手を求めるも、ライトハイザー大使はさりげなく視線をそらし無視する。彼の銀髪は完璧に整えられ、黒いスーツの胸には連邦の鷲章が輝いていた。
「初めまして私がオーナー・Y・メッセンジャー、このバベル・エデンを所有しています。」
「これはオーナー様、御挨拶出来て光栄です」
ライトハイザー大使は冷たい笑みを浮かべ、握手を求める手を差し伸べた。その掌には、アメリゴ連邦の紋章が刻まれた指輪が光る。
彼の目は冷徹で、既に交渉の駆け引きは始まっているかのようだった。
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場所はバベル中央会議室に移る。
ガラス張りの壁の向こうには宇宙が広がり、無数の星々が冷たい光を投げかけていた。長い楕円形のテーブルを挟み、アメリゴ連邦の使節団とバベルの代表団が対峙する。
「……以上がアメリゴ連邦の正式な見解です」
ライトハイザー大使が身を乗り出すと、ホログラムが空中に浮かび上がった。バベルの領有権を示す星図が青く染まり、その周囲を赤い境界線が取り囲む。
「貴組織の戦略的重要性と経済力を高く評価し、独立した主権勢力として承認いたします。ただし――」
彼はわざと間を置き、オーナーの瞳を鋭く見据えた。
「コロニー間条約の批准と、アメリゴ連邦との軍事同盟の締結を公式記録として残す必要があります」
「ごもっともです」
オーナーは静かに頷いた。
「またバベル・エデンを同盟国家として扱う以上、限定的ながらアメリゴ連邦域内での活動を認める一方、適正な関税の設定が必要となるでしょう」
やはり来たか――、経済的な首輪を嵌めにきたのだ。
「我々はバグワームの脅威に対抗し、共に戦う覚悟があります。そして戦闘には資金が必要な事も理解しているつもりです。」
関税を肯定しつつもバグワームとの戦争を盾に比率を交渉する。
「なぜなら我々バベルの戦力を維持するために多数の資源が消費されているからです。」
会談が終了し、使節団が退室すると、オーナーは一人窓際に立った。星々の輝きを見つめながら、彼は確信を深めていた。
「内容は予想通り、関税も20%に抑えられたか耐えれるか?」
「問題ないでしょう、現状でも十分な外貨を獲得出来ています。」
アメリゴ連邦と言う国に認められた気がした。
バグワームと戦い、金を稼ぐ――この方針は間違いないはずだ。
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事態の急変がバベル・エデンに伝わったのは、その2週間後のことだった。
「緊急事態です!コロンブス共和国の哨戒艦隊に異常な動きが!」
情報部の緊迫した声が執務室に響く。オーナーは眉をひそめ、デジタルホログラムの前に立った。
「現場エージェントから艦船の情報収集装置によるデータが送られてきました」
空中に浮かぶホログラムには、コロンブス共和国の艦隊が民間の商船に臨検を行う様子が表示されていた。
「オーナー!大変です!コロンブス共和国のメディアによる反異種族、反バベル報道が行われています。」
現地メディアを監視していた情報部から報告が上がる。
「オーナー、この動きはあまりに早急すぎます、ですが何処か生ぬるいような」
リアム副官はこの動きの違和感に困惑している。
「これはアメリゴ使節団との会談内容が漏れていると考えるべきでしょう」
情報参謀はアメリゴ連邦すらバベルを貶めようとしているのではないかと最悪の状況を想定している。
「これはあれか?」
状況が読めないからわかっている風に振る舞いつつ思考を続ける。
コロンブス共和国は何を目的に動いている?……一つ心当たりが、いや知って居るぞこの雰囲気、学校でイジメの対象が無視される現象だ。
「アメリゴ連邦(先生)の目を気にして嫌がらせをしている――、空気をつくられる前に動く必要があるな」




