第2話 クレンジング・ランス下
バグワーム占領セクター外延部、ゲートウェイ周辺。
アメリゴ連邦、コロンブス共和国合同艦隊、駆逐艦14隻、戦艦5隻、アメリゴ連邦正規軍の3割に匹敵する戦力、七艦隊を中心とした大規模艦隊。
「全艦、密集陣形を維持!対空防御モードを展開!」
ダグラス大佐が指示を飛ばす中、改装された駆逐艦がバグワームの群れに向けて一斉に砲火を放った。対空仕様に調整された兵装が、小型、中型のバグワームを次々と撃ち落としていく。
「敵群の密度が減少しています!」
オペレーターが報告する。
「大型個体、3時方向に接近中!」
別のオペレーターが警告を発した。
「バベル艦隊、ミサイル攻撃準備!」
リアム副官が即座に指示を出す。ホログラムディスプレイには、バベルの大型駆逐艦から発射されたミサイルが映し出されていた。
長距離精密誘導魚雷として設計されたそれは、220TL(架空の距離単位)以上離れた大型バグワームを正確に捉え、その巨体を爆炎の中に消し去った。
「命中確認!目標沈黙!」
大型を撃破した事に艦橋内に歓声が上がる。おそらくバグズL級1隻とS級2隻、小型中型は合わせて120近く、L級を破壊できたのは戦果として大きい。
「撤収、撤収、順次通常機雷をバラまきながら夕暮れの星セクターに撤収。」
小型艦の殺到は想定外だったが、無人偵察の情報と合わせて各個撃破の形で殲滅出来た、対空改装の有効性の確認も出来たしミサイルの発射により大型艦の撃破も問題ない。
「問題はこのセクターのバグワームの動力反応が多すぎる、予定通り夕暮れの星セクター側に陣を敷く、こちら側には誘導機雷を設置、間隔に気を付けろ。」
「ゲートウェイに転移反応、バグワーム来ます。」
赤く輝くゲートウェイ・リングから、無数の円柱型艦影がにじみ出てくる。
バグワーム艦、小型艦のビートル140隻、中型艦のドラゴンフライ80隻、夕暮れの星セクター側のデータリンクのおかげで正確な数を把握出来る。
「引きつけろ、下手に回避行動を取られてはうち漏らしがでる。」
合図と同時に対空仕様に調整された兵装が、小型、中型のバグワームを次々と撃ち落としていく。
「ゲートウェイに大型艦の反応あり、誘導機雷を起動します。」
小型、中型のバグワームには反応しなかった誘導機雷が次々と爆発を繰り返す。
「バベル側の駆逐艦もミサイルを発射しました。」
「数が違うせいで足止めにしかなりません。」
「なら予定通りバベル要塞に撤退、密集陣を崩さずにだ。」
小型、中型ならこの陣形で対応できる。大型艦であるL、M、S級のバグズ艦はゲートウェイ付近に足止め中、全て予定通りだ。
「単縦陣もどきです、バグズL級を盾にM級をこちらの密集陣に突っ込む動きをしています。」
「追いつかれるな。」
ダグラス大佐の艦隊が密集陣形を維持しつつ後退する中、バグズ艦隊は予想以上の速度で追撃を開始した。
「駆逐艦を後方に、戦艦を前に出せ。」
速度の速い駆逐艦を後方に下げるのは難しくない。
「通常機雷をバラまけ。」
「……了解」
連続的な爆発が敵中型艦を中心に破壊する。
「今のうちに戦艦をX2時方向に、旋回して後方に下がれ、駆逐艦はエンジンを狙うバグズ共を破壊、戦艦の撤退を支援しろ。」
ダグラス大佐の咆哮の様な指示に、巨大な戦艦が一斉に動き出す。
「中型が想定より残っています」
「3番艦中型タレット大破」
「2番艦シールド出力低下」
損害報告と敵の撃破速度、戦艦の旋回状況、そしてバグズ級の大型艦の……、不味いな。
「まもなくL級のバグズ艦の射程圏内です。」
「まだだ、各艦シールド出力に注意しつつ中型艦の撃破を狙え。」
長い、長い数分。だが中型艦の撃破は必須、小型は平気だが戦艦と違い駆逐艦のシールド出力ではエンジンを守れない。
「残存駆逐艦全力回頭、ランダム回避軌道、L級の砲撃が来るぞ。」
「かすった、シールド出力大幅減少、損害状況を送信します。」
「損害状況を」
「バベルのミサイル命中、L級沈黙します。」
「よし、シールド出力に余裕がある艦は背後に回れ、いざという時にそなえて牽引の準備をしろ。」
「了解」
「小型・中型の第二派接近」
「エンジンに無理をさせても速度を出せ」
「バベル要塞射程に入りました、要塞支援圏に入りました。」
「気を緩めるな、戦艦を中心に損傷艦を後方に下げ密集陣を敷く、各艦損害状況を確認しなおせ。」
艦隊が次の動きを始めたことを確認し、ようやくダグラスは息をつく。
「サリエリのやつも生きてるか、対空戦闘用意、この配置なら一方的な殲滅だが油断はするな各員仕事にかかれ。」
バベル要塞から艦載機が発艦する。
「対空弾幕は十分、戦艦は対大型艦に切り替え、敵の殲滅に移る前進開始。」