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第1話 クレンジング・ランス上

アメリゴ連邦第七艦隊旗艦アマデウスの作戦室内。大型ホログラムテーブルを囲むように、アメリゴ連邦とコロンブス共和国の将校たち、そしてバベルからの代表団が集まっていた。


「第一次バグワーム間引き作戦『クレンジング・ランス』の概要説明を行います」


ダグラス大佐がホログラム投影を操作した。バグワーム領域と予定航路が浮かび上がる。


「まず、我々アメリゴ連邦の従来の戦術をご説明しておきましょう」


彼は艦隊編成図を表示させた。


「我が連邦は、他国と比較しても高性能なシールド技術を持っていると自負しています」


海賊戦争の映像だろうか、艦隊が砲撃の中を突き包む映像が映し出される


「このシールドを装備した戦艦や駆逐艦を中心とした正規軍による艦隊を盾、民間協力者を矛として運用するのが基本です」


民間協力者—─いわゆる『ゴロツキ』


金のないゴロツキに補助金を出して安価な小型戦闘機や中型魚雷艦を運用、初撃を訓練された正規艦隊で耐え中小型機のゴロツキの数で相手を上回る。


「しかし、今回の宙域では矛である民間協力者の数が不足しています」


「戦艦によるバグワーム大型艦の破壊は可能ですか?」


リアム副官が質問した。


「可能な能力はありますが時間がかかります、そうした場合の被害はあまり考えたくないですね」


軽い笑いが起きるが強がりの類、随伴艦無しでの大型艦同士の撃ち合いなど考えたくも無いのだろう。


「今回民間協力者が雇えないのは情報封鎖と予算の影響です。本来戦時は国営保険会社が認定するものですが認定が遅れているため今回の戦闘には間に合いません」


予算が足りないと言ったのはゴロツキに民間保険による高騰を含めた報酬は出せないと


「そこで我々は艦隊を対空仕様に改装し、大型艦のみで戦闘を行う戦術を採用することにした」


改装された駆逐艦の姿が表示される。


「密集対空防御戦術です。小型、中型の敵からのバベル艦護衛が今回の基本戦術になります。」


ホログラムが切り替わり、バベルの大型駆逐艦が映し出される。


「次にバベルの独自技術、『ミサイル』と呼ばれる長距離精密誘導魚雷は、バグワームの大型艦破壊に有効です。」


バベルの人員が説明を引き継いだ。


「我々のミサイルは従来の魚雷とは異なり、遠距離から正確に標的を捉えることが可能です。大型バグワームに対しても、400TL(架空の距離単位)以上の距離から致命的な打撃を与えられます」


ホログラムが切り替わり、バベルの大型駆逐艦からミサイルが発射され、バグワーム大型個体を撃破するシミュレーションが映し出される。


「質問よろしいかな?」


コロンブス共和国の将校が懸念を示した。


「対空仕様の艦隊とは言え、バグワームの数の多さは未知数、前回規模の敵襲には耐えられないのでは?」


「その点については二つの対策を用意しています」


オーナーは答えた。


「まず、バベル要塞と周辺人工衛星のデータリンクにより、艦載兵器の命中率を向上させます。次に万が一の場合は全速力での撤退を視野におきつつ、バベル要塞の対空タレット射程圏内にバグワームを誘導する作戦を実行します、相手の陣容により複数パーターン艦隊計画を作成しているで後ほど確認してください」


巨大なバベル要塞の防御範囲を示す円と、艦隊の撤退ルートが表示される。


「さらに」


リアム副官が付け加えた。


「我々はバグワーム殲滅専用の戦闘機隊を編成、伏せ札として地点aと地点iに配置しています。危険な状況になれば艦隊保全の為に攻勢を行う態勢を整えています」


会議は実務的な詳細に移り、両者の役割分担が確定していった。


数日後、アメリゴ連邦第七艦隊旗艦アマデウスのドッキングベイ。


バベルの補給船から青く輝くエネルギーセルの入った特殊コンテナと、バイオ燃料タンクが次々と運び込まれていく様子を、オーナーとサリエリ中佐が見守っていた。


「昇進おめでとう、中佐。前回お会いした時はまだ少佐だったかな?」


オーナーは穏やかな笑顔で声をかけた。


サリエリは軽く会釈した。


「ありがとうございます。海賊討伐での功績と言うことになっていますが、実際はバベルとの連携による評価でしょう」


二人はコンテナの荷降ろしを監督する技術者たちの横を通り過ぎる。アワイコロニーから輸送されたバイオ燃料が大型タンクに移し替えられていく様子も見える。


「そうそう偶然我が艦のエンジニアから話を聞いたのですが、バベルのエネルギーセルを使うとシールドの調子が良いとか、何か秘密でも?」



サリエリが青く輝く結晶体を手に取って観察する。


オーナーは微笑んだ。


「単なる商売人の知恵ですよ。技術的には標準的なものですが、私たちは物質化プロセスに手間をかけている。ブランド化戦略というやつです」


「なるほど」


サリエリ中佐は理解を示す。


「共通通貨として流通するエネルギーセルでも差別化する余地があるわけですか」


光の物質化、効率的なエネルギーとしてもてはやされ、何処でも一定の価値を保障されている物、他国との取引用の通貨替わりになる程度にはありふれた物。


「その通り。品質管理の積み重ねです。」


安く作ろうと考えても、手間をかけようとは思わない、思考の差異だなと思う。


彼らは軽い雑談を続けながらエンジンルームへと向かった。


技術者たちが納品されたエネルギーセルを慎重にエンジンコアに接続、艦の制御やシールドの出力を確認している。

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