第10話 運営臨時会
バベル・エデン中央管理棟、会議室フロア。
「プロジェクタの接続は完了しました、次は資料データの同期です！」
人間種の若い職員が端末を抱えて廊下を駆け抜け、その後ろから、獣人種のスタッフがスケジュールの調整を行っていた。
「資料配布用の端末、各席に設置完了です。あとは飲料の準備だけ……」
魚尾種の清掃員が机を丁寧に拭き、竜人種の技術職員がホログラム投影装置の動作チェックを行う。
「やはり、タイムスリップと言うやつでしょうか？」
「冗談じゃない、起こるわけないじゃないっすかそんなの」
「だがお偉方はその方針で動いてますよ、うちの部署なんかは歴史資料のリスト化で大忙しですよ。」
職員たちの小声の会話が、会議室の隅々で交錯する。
人翼種の女性が、窓際で通信機のチェックを終え、深呼吸してから席に着いた。
「通訳端末、全台動作確認済みです！」
魚尾種のスタッフが報告し、会議室の中央テーブルに種族ごとの飲料カートリッジを並べていく。
壁際には、警備担当の宇宙海兵が控え、警戒の目を光らせている。
「もうすぐ開始だ。全員、最終確認を！」
主任クラスの職員が声を上げると、スタッフたちはそれぞれ自分の端末を手に持ち、緊張した面持ちで最後の準備に取りかかった。
やがて、各部門の代表者たちが続々と会議室に入ってくる。
その姿を見て、現場のスタッフたちは一斉に背筋を伸ばし、静かに頭を下げた。
バベル・エデン宙間企業所有者（総司令官）
【人類種 オーナー・Y・メッセンジャー】
「緊急事態だから呼び出した、各自の端末に送ったのはここが過去である状況証拠、今日がエイプリルフールでも、大嘘つきの日でも無い事は確認済みだ。」
現在確認されている知的生物種は五種、人間種、獣人種、竜人種、魚尾種、人翼種、そう言った種族の垣根を超え、バベル・エデン宙間企業は人材を収集していた。
居住区画の人数増加を判断するのがその種族がどれ程満足しているかで判断され、居住区画の数は人口上限に達しない限り影響しないため、人間種の居住区画を五つ作るよりも、全種族の居住区画を一つづつ作る方が人口増加速度が速いというゲーム的仕様の名残でもある。
他にも優秀人材の亡命イベントや、特定の人物雇用の条件とかも達成しやすくなるなどのメリットもあるため、一種族に拘らず効率を求めればこうなる。
軍事防衛委員会キャメロット
副官（軍務執行官）
【人類種 リアム・G・フィアナ】【竜人種 計蒙の血族・ゲルラッハ】
参謀総長（統括責任者）
【獣人種 黒髭・白老将】
及び各種一般参謀（行政参謀・情報参謀【魚尾種 タンジ・アンルール】・作戦参謀・後方参謀 ・通信参謀 ・工兵参謀・輸送参謀・監察参謀・広報参謀・会計参謀・法務参謀【人翼種 ニネベイサ・アクエル】）
直掩艦隊指揮官（旗艦）
【竜人種 狗頭鰻の血族・クロード】
宇宙海兵長官（総合指揮官）【人翼種 シャルル・ラグエル】
アケブラ・ナガスト総合交易会社
社長（経営統括責任者）【人翼種 メネリク・バラキエル】
副社長【人類種 ゴア・D・ゲオルギウス】
及び各部門担当部長（財務部長・商務部長・採掘部長・法務部長）
バベル・カナンコロニー運営議会
コロニー市長（コロニー議会議長）【魚尾種 アッカド・シュルル】
公安総監【獣人種 泰山・平道捕吏】
及び各管理部門局長（福祉生活局長・インフラ管理局長・資源管理局長・研究学術局長）
「まず初めに感謝を、宇宙嵐後のバグワームの大規模襲撃でありながらこのバベルを守る事が出来たのは一人一人がこの緊急時に適切な対応をしたからだと確信している。ありがとう。」
俺の言葉の後に、モニターごしに拍手の音が聞こえてくる。
「次にカナンコロニー運営議会には引き続き情報封鎖をお願いしたい、コロニー市長アッカド・シュルル殿、平道公安総監、引き続きコロニーの運営と治安維持を頼むここまでが決定事項だ。」
異星人のキャラも多いが、何処かデホルメされて見えるせいか表情は読みやすい、シュルル殿は青い肌にサメの尾と首元のえらが特徴的だが、容姿は人間と近いしえらが膨らむ事からやる気十分と感じられる。
平道捕吏はそのまま狼の人だが、耳の動きや口角の動きで表情から感情は読みやすい、それこそ前世の人間よりも。
その上でここにいるメンバーは表情を保っている。上に立つ人間として突拍子もない今に耐えている、そう思うと心に来る物がある。
「今は初期バクズ戦役時代、夕暮れの星セクターゲートウェイ起動事件、あるいはアワイコロニーの虐殺、起きるはずの惨事は起きなかった。」
「オーナー！？」
私の言葉に、控えていたリアム副官が小声で叫ぶ。
「資料としてバグワームと対峙する人間に見せられる資料にでかでかと載せられる破壊され改造されたアワイコロニー。」
自動車免許の事故映像と同じ様に、対バグワームの教本に載るアワイコロニー、その健全な姿がモニターに表示される。
「これが我々が防いだ歴史だ、我々がこの時代に来たからこそ変えてしまった世界だ、喜べ歴史は変えられる。変えられるんだ。」
事前打ち合わせと違う事言い出してごめんと思うが、驚くほどスラスラ言葉が出てくる。
「先ずはバベルを守ろう、このバベル・エデンの生活を守る事を第一に、その為に何をすべきか思いついた奴から案を出せ、バベル・エデンは何から始めれば良い？」
