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第六話

 星花女子学園目玉イベントの一つである臨海林間学校、通称りんりん学校の日がやってきた。学校とは言うものの実態は自由参加制の二泊三日の小旅行で、海沿いにある学園の管理地を訪れて遊ぶ行事である。宿泊地となるホテルは海と山との間にあり、海水浴とハイキングを楽しめる絶好の環境となっている。


 りんりん学校からお盆休み開けまで、ソフトボール部の活動は無い。大半の部員は練習に疲れた心身を癒やすべくりんりん学校に参加を決めており、千宙もその中の一人だった。今回初参加とあってテンションは高くなっていた。


 荷物を持ってバスに乗ろうとしたところ、中尾翠と遭遇した。彼女はなんとバットケースを持参している。


「中尾さん、バット持っていって何すんの……?」

「練習に決まっているだろう」

「え!? せっかくのりんりん学校なのに!?」

「バットを一日握らなかったら三日分の技術が衰えてしまう」


 翠はそう言って自分のクラスのバスに乗った。


「わけわかんない。これじゃ遊びに行く理由がないんじゃ……」

「おはようございます。お姉さま」


 声をかけられると同時に腕を捕まえられた。


「わっ、ちかちー! びっくりさせないでよー」

「ごめんなさい。でもお姉さまと一緒に遊べるかと思うと嬉しくて」


 千佳もまたテンションが高かった。昨晩、千佳からLANEでメッセージが送られてきたが、彼女も今回が初参加とあって海や山でいったい何をやるのか等メッセージでやり取りしていたため、結局夏休みの課題に手をつけることができなかった(元々する気もなかったが)。


 千宙の課題は、りんりん学校を通して「妹」たる千佳を知ることである。ソフトボールの練習でも話をする機会はいくらでもあったが、部活を離れた半プライベートの場であればより仲を深められるであろう。


「よっ、お姉さま」


 もう一人、お姉さま呼ばわりする者が出てきた。クラスメートの鷹野美都(たかのみと)である。彼女もソフトボール部員であり、投手を務めている。


 千宙が千佳のお姉さまになったことは、すでにソフトボール部内で周知されていた。


「あの、お姉さまと呼んでいいのはわたしだけですからね?」


 千佳はニコニコしながら、先輩に向かって言い放った。


「こら、ちかちー!」


 千宙が叱るが、美都は笑い飛ばした。


「チュー、お姉さまだったらちゃんと妹をしつけないとね?」

「ごめん……」

「まあそれは置いといて、三日間しっかりと妹のお世話してやりなよ」

「わかってる。ほらちかちー、バスに乗りなさい」

「それじゃ、また後で」


 千佳は鼻歌を歌いながら自分の乗るバスに向かった。


「ねえチュー、二日目の夜のアレ知ってる?」

「二日目の夜? えっと、肝試しやるんだよね」

「そう。一応は肝試しということになってるアレ。実態はね、その、暗闇の中で好きあった者どうしが仲を深め合う」

「どういうこと……?」

「あんたマジで知らんの? まあいいや、とりあえずバスの中で話してあげる」


 全員の点呼が終わり、バスが動き出した。


「えっ、えええっ!? 肝試しってもそんなことすんの……!?」


 千宙の顔は真っ赤っ赤になっている。肝試しの実態について、露骨な言葉を用いて説明されたからだ。


「そっ。だから別名『悲鳴と嬌声の夜』って呼ばれてるの」

「そんなことしたら風紀が黙っちゃいないでしょ……特にあのほら、スガ何とかいうヤバいのいるじゃん」

「確かにあいつは厄介だね。あいつが頑張りすぎたせいで昨年の肝試しが台無しになっちゃったし。でも今年は大丈夫。あいつ、国際科の語学研修プログラムでオーストラリアに飛ばされたから夏休みが終わる直前まで帰ってこないんだ。だからアレなことをヤリたい放題よ」


 年上にも関わらずあいつ呼ばわりしているあたり、相当嫌っているらしい。また美都曰く、特にソフトボール部高校二年のカップルたちは肝試しを心待ちにしているとのこと。


「チューもちかちーとペア組んで肝試ししてさ、そしたら姉妹の距離がグッと近づいてアレがアレなことになるよ? うふふふ……」

「そっ、そこまで求めてないから! あくまで私は『お姉さま』だから! てか、美都は参加すんの? 誰かと一緒にその……」

「いいや、私は別の楽しみ方するから」

「?」

「まっ、フツーに肝試しを楽しむだけでもいいんじゃない? ちかちーが怖がってたら助けてやるとか、お姉さまらしいことしてりゃいい感じになるかもよ」

「怖がるどころか何かが歪んでしまわない? もう中二だからそっちの興味あるだろうけど、夜の野外で刺激の強い場面を見せられたらさあ」

「先輩らのアレな様子を見てきてるから慣れてるでしょ。某二遊間のアレとか、某双子のアレとか、某両エースのアレとか」


 某という単語が全く意味をなしていない。


「どっかのプロ野球監督みたいにアレ、アレばっか言って……」

「アレって便利な言葉だよねえ」


 やがてバスがホテルに到着。生徒たちは早速水着に着替えて浜辺に繰り出した。


「わー、私たち以外誰もいない!」

「そりゃ、貸し切りだもん」

「貸し切りねえ……」


 不埒な輩によるナンパや盗撮といったリスクを気にせず遊べるのは贅沢の極みである。さすがはお嬢様学校だなと千宙は感心した。ちなみに二人はタンキニタイプの水着を着ている。


「お姉さまー!」

「おっ、妹ちゃんが来たぞ」


 千宙を見つけた千佳が駆け寄ってくる。彼女は黒のビキニを着ていたが、千宙の視線は胸元に釘付けになった。


「でかっ……」


 ソフトボールのユニフォームや学校の制服を着ているときには目立たなかったものがドンと目立っている。身長は156cmと中学二年の平均ではあるが、それに似つかわぬ立派なモノを持っていた。


 対して千宙は150cmと高校生にしては小さく、胸もそれ相応の大きさである。部活で鍛えた筋肉のおかげで貧相な体格にはなっていなかったが、二人並ぶと否応無しに一部の格差が際立ってしまう。


 千佳は着痩せするタイプ。一つ千佳のことを知った千宙であった。


「さあお姉さま。泳ぎに行きましょう!」

「ちょっ、そんなに強く引っ張らないで!」


 千佳に腕を引っ張られ、美都に敬礼で見送られながら海に向かっていった。

スガなんとか……誰のことやろなあ(すっとぼけ)

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