第十三話
第67回星花祭の日を迎えた。一日目は限定公開とはいえ、そこそこ人が入っている。
中庭はグルメコーナーになっており数々の屋台が出ているが、高等部1年3組の出し物は焼き鳥である。
「焼き鳥いかがですかー! 塩、タレ、どれも絶品ですよー!」
千宙は自慢の大声で客を呼びこんでいる。すると深緑色のジャンパースカートの制服を着た三人組がやってきた。
「すみませーん、塩とタレをそれぞれ三人前くださーい」
「ありがとうございまーす! 塩とタレそれぞれ三人前入りまーす!」
焼き係の生徒が焼き鳥を容器に詰めている間、千宙は「どちらからから来たんですか?」と尋ねた。ジャンパースカートを採用している学校は近隣には無い。
「岡山から来ました」
「お、岡山からですか!?」
「私たち、生徒会なんです。このたび星花女子さんの生徒会からお招き頂きまして」
「遠いところからありがとうございます……」
生徒会ということだが、言われてみれば三人とも聡明そうな顔つきをしている。
さらに後ろからセーラー服を着た二人連れが来た。
「はい、らっしゃっせー!」
「塩を二人分、お願いいたします」
「ありがとうございまーす! 塩二人前入りまーす!」
紺色のセーラー服そのものはオーソドックスなものだが、襟に十字架をあしらった校章らしき徽章がついている。県内にミッションスクールはあるものの、これもまた近隣の学校ではない。
「お二人はどちらからから来たんですか?」
「兵庫からです。私たちも星花女子様からお招き頂きましたの」
「兵庫……」
岡山の隣県からだった。しかし千宙は悲しいことに地理が得意ではないため、どっちが東側でどっちが西側なのか全く覚えていなかった。とにかく西の遠い方から来たことはわかった。
「いろんな学校が招待されているんですね。知らなかったな……」
「星花女子学園さまのご高名は西の方でも聞かれております。そのような素晴らしい学校からお招き頂いて光栄ですわ」
「噂通りの良い学校ですね。よそから来た私たちにもフレンドリーに接してくれるし、みんなイキイキしているし」
後から知ったことが、星花女子学園は全国津々浦々の有名女子校の生徒会を招待し、大半が受諾して遠く空の宮の地までやってきてくれた。星花女子もいまでは全国区の知名度を誇る有名女子校となり、その影響力を見せつけた格好だ。
他校の生徒たちが褒めてくれるのは社交辞令もあるだろうが、それでも千宙は悪い気分ではなかった。むしろこっ恥ずかしさを感じるほどである。
「はい、岡山と兵庫の方お待たせしました!」
焼き鳥が招待客たちの手に渡る。みんなは「ありがとうございました」と丁寧にお礼を言って後にしたが、岡山から来た生徒の一人が早速手をつけているのを見た。
「ぼっけぇうめぇ!」
岡山の方言らしいが、「うめぇ」ぐらいはわかった。千宙はガッツポーズをした。鶏肉は冷凍ものだが、塩とタレはそれぞれアンデス産の岩塩と、秘密の黄金比で調合されたタレで、実家からおすそ分けしてもらったものである。さらに千宙は実家での焼き方を焼き係にみっちりレクチャーしている……というのはさすがに言い過ぎで基本の焼き方を教えた程度だが、それでも成果がありありと表れていた。
味の割に列の長さはそれ程でもないが、他の屋台も同じような感じである。まだ昼時ではない上、魅力的な出し物がたくさんあるからそっちに人が行き、いい感じに分散されているのだろう。
やがて列の中におなじみの顔が見えた。
「お姉さま!」
「おっ、ちかちーいらっしゃい! 塩とタレどっちにする?」
「どっちも頂きます!」
「いいねえー、塩とタレそれぞれ一人前入りまーす!」
ちょうど焼き上がったばかりのものが千佳に行き渡った。
「頂きまーす」
まずは塩から頂く。
「わ、美味しい!」
「タレもどうぞ」
タレに口をつけると、「んんんー!」と唸った。
「濃厚なのに全然しつこくない……これ、素人の出し物のレベルじゃないですよ!」
「ガスコンロでこれだけの味が出せるんだもん、プロが炭火で焼いたらすっごいよ?」
「どんな味なんだろう……」
行儀の悪いことに千佳の口からよだれが垂れていた。ハッとした千佳はこれまた行儀の悪いことに手で拭い取った。
「そうだ。わたしのクラスの出し物も準備できたんで、お姉さまの都合がよろしければ顔を出してください」
「わかった。もうちょっとしたら交代だから」
と言った側から、美都が声をかけてきた。
「ちょっと早いけど交代しよっか。今から一緒に行ってあげなよ」
「いいの?」
「妹ちゃんの面倒みてあげな」
「じゃ、お言葉に甘えるね。サンキュー!」
千宙はエプロンを脱いで美都に渡し、千佳のクラスである中等部2年3組に足を向けようとしたが、千佳に「こっちです」と違う方向に誘導された。
「あれ、教室じゃないの?」
「教室も使ってますけど、お客さんは外なんです」
駐輪場の方に出てしまったが、人だかりができている。その原因ははっきりと見て取れた。
「うわっ、何これ!?」
千宙が驚いたのは無理もなかった。三階にある中等部2年3組の教室の窓から地上に一本の巨大な竹が降ろされていたからだ。
「これがわたしたちの出し物、超高速流しそうめんです!」
千佳は胸を張った。