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第29話:Hello, Again~昔からある場所~09


「他人の意見で自分の本当の心の声を消してはならない。自分の直感を信じる勇気を持ちなさい……とジョブズも言ってた!」


 で、まぁそんな期末考査が終わって、後は成績と冬休みを二律背反に待つだけの学生生活でのこと。期末考査の学年一位はマリンだった。ケアレスミスの一つもなく満点。逆に引く。


 学内での行事はむしろクリスマスパーティーへの熱気に湧いていた。成績が平均七十点以上であれば参加できるとあるが、まぁ仮に超えてなくても参加する人間は居るだろう。


 参加費用は三千円。これでクリスマス用のオードブルやシャンメリーなどの飲み物を買うらしい。仮に予算より下回った場合、後でおつりは返金されるとのこと。


「うーん」


 で、ウチのクラスでやるので準備には成績優良児の僕も参加するんだけど、ちょっと教室がクリスマスの彩に染まるのは冬の行事っぽくて浮かれてしまう。


「墨州さん!」


 で、まぁ、クリスマスを恋人と過ごしたいのは何も僕だけの思想ではなく。


「今度のクリパ! 俺と一緒に参加してください!」


 僕が惚れるほどの女の子だ。そりゃ別の男子も思慕の一つは持って。


「はーっはっは! はーっはっはっは!」


 そんな蜜の味のする告白現場に僕の哄笑が響き渡る。


「僕の目の黒いうちはそんな事はさせないぞぅ! 一人戦隊オレンジャー見参!」


「また両替機は……」


 うんざりだという墨州には悪いけど。


「とう!」


 僕は校舎の屋根から飛び降りる。重力に引かれて落下。


「へぶ!」


 頭蓋から着地する。


「……………………」


「……………………」


 墨州と愛在る男子が絶句する。


「とかく墨州を愛していいのは僕だけだ!」


「そこで復活されると怖いのだけど」


 あれ? ダメだった?


「両替機にはスミスさんが居るだろ!」


「確かに!」


 ソレは否定できない。


「確かになんだ……」


 うんざりと墨州が肯定する。


「それでも僕は墨州が好き!」


「というわけで諦めて?」


 告白してきた男子を穏やかに躱す墨州でした。


「まったく油断も隙もない」


「両替機にスミスさんがいるのは本当だけどね」


「嫉妬してくれる?」


「ナイスショット」


 バキィッとドライバーが僕を打った。実際にクリパまで時間はある。終業式の後の生徒主催のイベントだ。そこで企画力が試される。


「で、両替機は一人一芸考えているの? 五組の生徒は必須よね?」


「まぁそれなりに」


 別段其処は問題もない。というかクリパまでまだ時間在るし。


「じゃあ墨州の恋告白の邪魔も出来たし」


「本当にアンタは……」


 彼女としても疲労らしい。僕はヒラリと手を振った。


「じゃあ寄るとこあるから」


「私も行くわよ。何時もそうだったでしょ?」


「義理堅いね」


「負い目の為せる業よ」


 別に気にしなくて良いのに……。


 毎月のとある日。近場の寺に顔を出す。それが僕の習慣だった。


「両親……かぁ……」


 死と苦を表わすシクラメンの花束を持って今日は墓参りに臨んだ。


 ぶっちゃけしなくてもいいのだ。僕は両親の温情を憶えていない。そうであるが故に過去の量子情報というモノを持っていないことと同義でもある。だから自分が義理で両親の墓参りをするのが酷く滑稽に見える。


「何か思いだした?」


「今のところぜーんぜん。そもそも両親という存在が僕には虚空の彼方」


「でも親が居ないと子どもは生まれない」


「とは言われてもね。じゃあその愛が那辺にあるの?」


「心には存在しないの?」


「何も憶えてないからなぁ」


 結局そこに行き着くのだ。


「じゃあなんで墓参りするのよ」


「義理?」


「私と同じ?」


「墨州と同じ」


 そこに異論は差し挟めない。というかそもそも両親を偲んでいない。墓は存在するけれど、そこから死者を悼むことが僕には出来ない。


 冬の枯れ風。寒い微風を受けて僕は肩をすくめた。


「私が両替機の両親を殺したのよ?」


「それ何時も言ってるよね。で。こう返す。気にしなくていいって」


「私が存在しなければ両替機は幸せで居られたの」


「今も幸せだよ。墨州を想っていられるから」


「そうやって両替機は私を許すのよね……」


「だって恨むべき何者もないし」


「私は……私は……」


 グッと彼女の口元が引きつる。墓前でソレは果たして得手か。


「私は両替機の全てを奪ったの!」


「うん。知ってる」


 そんなことは当然。


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