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第27話:Hello, Again~昔からある場所~07


「お帰りなさいませご主人様! こちらの席でおくつろぎくださ~い」


 それで笑顔プライスレスで突発的なメイドを演じることになる。


「ご主人様のオーダー受け付けます。メイドに何でもお申し付けくださいね」


 キャピッと笑って僕はオーダーを取る。


「おお。見ないメイドさんでござる。新入りでござるか?」


「はい。可愛がってくださいね」


 キュンと僕は笑みを作った。こういう対処にはコスプレで慣れている。


「ではエッキー氏の萌えキュンオムライスをいただこうかな……」


「はーい。精一杯ご奉仕します」


 なわけで萌えキュンオムライスについてもそれなりにやってできないことでは無いわけで。ぶっちゃけ男子の理想については女子より余程理解もしている。


「エッキー氏推しになっても宜しいか?」


「わー。嬉しいです。でもあまり近付くと火傷しますよ?」


「エッキー氏の愛で灼かれるなら望むところ!」


 いや。それ以前に穴埋めのバイトなんですけどね。


「スーミン殿。愛らしいでござるな。推せる!」


 墨州だからスーミン。源氏名だ。僕のエッキーもそうだけど。


「その。あまりご奉仕とかは出来ないんで」


「うむうむ。その純情さがむしろ推せるのであるのだよ」


「はあ? どうも?」


「ここで出逢っていなければSNSのIDを交換していたところ。某はどうだろう? アレならば君を幸せにする」


「ナンパは他でやってください」


 そもそもそういう店じゃないから。


「エッキー氏?」


 ミシィと伝票を握りしめる僕に、応対していたご主人様が困惑している。


「なんでもございません。萌えキュンオムと超神水でよろしいですね?」


「お願いするでござる」


 メガネのツルをスチャッとあげてご主人様がオーダーを終了する。


「では承りました~」


 僕も墨州も奔走する。メイド服はスミスに良く似合っていたけど、多分あんまり人のことは言えない。トランスベスタイトな僕でした。


「お待たせしましたご主人様。では美味しくなる呪いをかけさせていただきます!」


「ほう。呪いと来る」


「美味しくな~れ! 美味しくな~れ! 萌え萌えキュン! これでご主人様は萌えキュンオムライスを食べる度に僕の呪いがちらつくようになりますよ」


「本気で可愛いでござる! 某また貴殿を求めてお帰りするもので!」


 まぁバイトは今日だけなんですけど。


「しからば呪いのオムライスを頂くとするか」


 どうぞご賞味してください。


「マリア尊師~!」


 で、そんなバイトを続けていると、やっぱりそこは夢と理想の感覚が狭まったが故か。


「?」


「???」


「マリア尊師! 愛しているでおじゃるよ!」


 別の問題も発生するわけで。


 メイド喫茶メイクイーンで一番人気のメイドさんが刃物を突き付けられて青ざめてさせていた。相手は理性を失ったオタク男子。


「マリア尊師はこちらを愛している! だから他の男に媚びを売る必要はあり申さん!」


 いわゆるサービスの範囲を越した夢見る男子なのだろう。そのごっこ遊びを超えた所に男子は妄念を見ているらしかった。


「ピリオドの向こうに行きましょうぞ! こちらは愛に応えること万事良し!」


 メイドさんの首筋に刃物を押し当てて暗い光を宿した瞳が何を映しているのか。


「ヒッ!」


「キャア!」


「ガチで……」


 店内は一瞬で緊張感に包まれた。刃物を差し出してメイドさんの愛を買おうとするオタク男子と、その以上極まる求愛行動に恐れおののくメイドさん。そして冗談では済まないナイフの金光りが、この場の張り詰め方を引き締める。


「マリア尊師。こちらだけのメイドさんになってくれだお。もう他の客に接待する必要はないんだお」


 ギラリと金属光が照る。


「お客様。落ち着いて……」


「お客様じゃない! こちらはマリア尊師のご主人様だお! そんなこともわからないのか! こちらはマリア尊師を愛しているだお!」


「しかし刃物はいきすぎです……」


「マリア尊師がこちらに頷いてくれれば取り出す必要もなかったお!」


 あー。つまり。


「喪男か」


 僕の言葉がボソリと空気を打つ。


 ギラリとオタク男子がこちらを睨む。


「貴殿。今何を言ったお?」


「いえ。別に」


 パッと両手を開いて僕は当惑を示す。


「ただまぁモテないんだろうなと」


「ケンカ売ってるんだお!」


 そんなつもりもないですけどね。


「この店の責任者を出せ! マリア尊師をこちらに渡して貰うだお!」


 普通に刑事事件な気もする。


「で、どうするので?」


「警察には既に」


 僕と店長はそんなヒソヒソ話。とかく人の暴走の念よ。


「忘れじの行く末まではかたければけふを限りの命ともがな……か」


「馬鹿にしてるんだお! 刺してもいいのでよ!」


「ヒッ!」


 マリア尊師が青ざめる。


「おち……落ち着いて……」


「こちらは本当に本気だお!」


「だからって……」


 ギリッと歯を噛む音がした。墨州だ。


「だからって刃物で脅して得る恋愛に何の意味があるんです!」


「墨州?」


 困惑。当惑。なにか何とも言えない疑問が張り叫ぶ墨州を穿つ。


 自己の憐憫を誘う様な、その声質に僕は懐疑を覚えた。


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