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第15話:うるわしきひと04


「クリスマスパーティー?」


「でござる」


 マリンが転校してきてから数日が経った。期末考査目前で、そんな話題が出ていた。色々と周囲の空気に馴染まない僕だけど理解くらいは能う。


「どこで? 誰が?」


「うちのクラスで。クラスメイトが」


 ほう。


 僕は試験勉強をしつつ王子サマーの言動に少し関心を持つ。


「墨州はどう思うので?」


「是非とも誕生日を祝うって趣旨ではないわよね」


 そもそも聖人を信仰している人間がどれだけいるのかってのは議論の余地無く。


「試験勉強は大丈夫?」


「まぁ一応赤点は取らないけどさ」


 さほど器用でもないので、そこは墨州に依存はしている。コヤツはコヤツで勉強が出来るので中学高校ではお世話になっている。


「マリンに頼めば良いのに」


 ボソリと致命的なことを言わないでくださいますか。


「私に惚れてるならマリンにも惚れてるんでしょ?」


 あ。そこは納得するのね。


「してないけど」


 ぐぅ。まこと以て申し訳なく。


「いいんじゃない? 向こうの方がおっぱい大きいし」


「決して卑下できる大きさでも墨州だって無い気もするんだよね」


「私の場合はバランスが良いだけよ。それから両替機。眼がエロい」


「そりゃ僕は性的に墨州が好きだし」


「バルス」


 シャーペンが僕の双眸に突き刺さった。


「そういうことを平然と言ってしまう辺りがアンタの欠点よ」


「まぁ僕の場合は理屈があって好きになったわけじゃないから」


 突発的に過ぎるって言われると其処までなんだけど。


「じゃあ私が好きならスミスを諦めて?」


「ぐ……」


「ほらね」


 ざまぁみろと言わんばかりの墨州だった。


「だって幼い頃に結婚の約束しちゃったし……」


「それが免罪符になると思ってる時点でアレなんだけど。それなら私なんて放っておけば良いじゃない。だからなんでスミスとラブラブしないのよ?」


 ラブラブて。


 死語だと思うよソレ。


「例えマリンと婚約しても、墨州を好きだった時間が消えるわけじゃない。あの頃から今まで……勘違いだったとしても墨州を好きだと思った感情は本物だ。僕は墨州に救われてきた。そのことだけは……忘れちゃいけないと思うから」


「だからここで縁を切れば良いじゃない。都合良く切り捨てて、唯一の思い出たるスミスさんと付き合ってしまえば心残りはなくなるでしょ」


「そんな都合の良い感情じゃないよ。僕にとっての墨州ってのは」


「呪いね」


「恋のおのろい」


 本当に厄介だ。たしかに僕は本気でマリンと結婚したいし、婚約を反故にする気もない。なのにそれと同じだけ……墨州にとっての良き接近者であろうとする。二股という最悪の回答さえありうる状況であって、苦汁を飲んでどちらか一人を選べ……という状況ですら無いのが困りもので。


「で、夫婦漫才はともあれ」


 勉強しつつ王子サマーがメガネをスチャッと構える。


「夫婦じゃない」


「こっちの一方通行だし」


「とにかく」


 で、話題が漫才から離れる。


「クリスマスパーティーでござるよ」


「学校でするって奴? 学校側が許可するの?」


「生徒の自主性と企画性を試す意味で、好意的には受け止められているらしいでござる」


「ふーん」


 墨州はあまりに興味なさげだ。


「文化祭が学校側の思惑だとすればクリパは生徒側の思惑。で、イベント進行についてのスケジュール管理も内申に書き込まれるそうでござる」


「意外と笑えない話になってるね」


「生徒会側でも支援はしてくれるそうで」


「ほう。で?」


「ただし参加資格が全教科獲得点数平均が七十点を超える生徒のみ。これが学校側の譲歩でござるな」


「つまり成績が悪いとクリパに参加できないと」


「で……ござるよ」


 まぁさほど難条件ってわけじゃないけど。


「クラスでやるんだよね?」


「でござろうが飛び込みも歓迎とのことで」


「たしかにクリスマスパーティーなら参加したいよね」


「両替機も参加するの?」


「墨州が参加するなら」


「私はまぁどっちでもいいんだけど」


「墨州氏。是非ともクリスマスの想い出作りに……でござる」


「ぶっちゃけ発情した男子の相手は御遠慮願いたいんだけど」


「墨州氏はモテござるからなぁ」


「僕だけを見て墨州」


「両替機は両替機でこれだし」


「とかく人の因業在りしもの……」


 女は何故とか何のためにとかいった理由なしに愛されることを望むものだ。つまり美しいからとか善良であるとか聡明であるとかいった理由によってではなく彼女が彼女自身であるという理由によって愛されることを望むものだ。


「つまり僕はどうすれば?」


「さてね。知らないわよそんなの」


 三角関数を解きつつ墨州が嘆息する。


 時間的には放課後で、図書室で勉強する生徒はかなり多い。僕らもその中の一部だ。で、そんな僕らが陰る黄昏を視認しつつ英語と数学を勉強していると、昨今に於ける問題の幾ばくが僕を指して嬉声を上げた。


「マイダーリン!」


 そう僕を呼ぶのはマリン以外におらず。


「ロマンチックな感情の根源は偏におぼつかなさである」


「えと。オスカー・ワイルドだね」


 正解。


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