決戦
絢爛豪華、威風堂々。
黄金で作り上げたかのような豪華絢爛な神殿で、似つかわしくない激しい剣戟と衝撃音が鳴り響いている。
片方は青年。白銀の髪を揺らし、同じく銀色の瞳を輝かせている男は大きく肩を揺らし、息を切らしている。
相対するは煌びやかなドレスに身を纏った、漆黒の大羽を持つ麗しの女。
全身から血を流しながらも、怪しげな光に身を包み、膨れ上がった力の奔流が青年を叩いている。
「これで最後だ、ピジャデテ! 君を倒し、天魔覇者の袂にこの剣を届かせる!」
「クッ、万全であれば貴様程度……!」
「戦士は常に万全でなければならない! 一人であればなおさらだ! それを怠ったのは君の力量! だから、僕が勝つ!」
「何を偉そうに! 戦士の価値観を王が持つな! あの方とて同じだ! いや、私以上の王であるあの方は王として、貴様を屠る!」
「何を、言っている!」
苦し気にあえぐ女から吹き荒れる嵐を、意に返さず青年は剣を構えて飛び出した。
飛び出した瞬間、彼の身を包む白銀の光。
瞬間、青年が踏み込んだ床が粉砕、消えるような速さで女に接近していた。
「——ッ! くそ!」
女は溜めていた力の一部を爆発させるように解放することで、青年を遠ざける。
「忌々しい王者……! 何人もの先鋭でわれらを駆逐しておいて白を切るのか⁉」
「確かに、僕は沢山の先祖の力を借りている! しかしそれもすべて君たちを倒し、人々に平和をもたらすため!」
青年は確固たる表情で、顔を歪ませる女を睨みつける。
剣を構え、切っ先を向ける。すると、剣に赤い光が集まり始めた。
「人々が苦しみにあえぎ、略奪と虐殺に泣く……! 君達が、この世に関わる資格のないお前達が己の利己のために……!」
剣を光が満たし、一層輝かしく光る。そして、青年を覆っていた白銀の光までもが剣に宿る。
青年の言葉に、女は唇を噛み切らんばかりに食いしばり、覚悟を決める。
「我々にとて守るものがあるッ! 貴様らだけに正義があると思うなよ!」
溜めていた力をその大きな両翼に集める。その瞬間、黒き羽は白く変わる。
それはかつての姿。
天使としての、美しかった姿だった。
悲し気に顔を歪め、痛みに泣きそうになっている女の姿に、青年は怒りに叫ぶ。
「正義のためなら上に苦しむ家族を殺してもいいのか⁉ 親のいない少年少女を奴隷にしてもいいのか⁉ 人を、泣かせてもいいのか⁉」
「正義は我らにあり! 今一度あの空に帰るために!」
「違う!」
女は血に濡れた顔で叫びながら羽を羽ばたかせ、空へと飛び立とうとする。
一回仰ぐだけで、瓦礫が吹き飛び、壁が壊れる。
そんな中、青年は確かな歩みで女に迫る。
「正義は人々を思う者の心にある! 正義と正義はぶつからない! 正義の前には悪があるだけだ!」
「偽善者があああああああああ! お前達の戦いの、何処に正義があるというのだッ!」
悲痛な叫びが女の口から漏れる。
青年は、悲し気に顔を歪め、天に剣を掲げた。
「そんなに、そんな顔ができるのに、何で人の心を見てられなかったんだ!」
「人は醜い! 我らがおらずとも、人は勝ってに争い、滅ぶ。ならば、我らがうまく使ってやるというのだ!」
「させない! お前達は、ここで滅ぼす! 僕は勇者だから!」
「死ねるかあああああああああああ!」
開いた天井から空に飛び立ち、何処までも遠い空に飛んでいく。
何かを目指し、恋焦がれるように。
しかし、勇者は逃さなかった。
「ご先祖様、お力をお貸しください! 世界のために!」
竜のように立ち上る覇気が勇者から現れる。
そして勇者はもはや見えなくなった女に向かって剣を振り下ろした。
瞬間、赤と銀の混ざった光の砲撃が遠い空まで伸びていった。
少し後、風に煽られた白い羽が神殿に降り注いだ。
「これで、終わった……あとは天魔覇者のみ」
青年は戦いが終わり、息を整える。
既に見据えるは最後の戦い。
立ち止まっている暇はない。この瞬間も人々は吉報を待っているのだから。
「さて、とりあえず一番近くの街に……ん?」
神殿を出ようとした時、青年は違和感に首を傾ける。
違和感を感じた方向を見るとそこには……。