第92話 マブいダチ
「カナ!」
ひとしきり話が終わり落ち着きを取り戻し、ふぅっと一息ついた直後に背後で声をかけられた。
振り向くと目が真っ赤なリコピンがいた。
あぁ、福浦東高校金管八重奏も金賞だったけど、東海越大会はいけなかったんだよな。
ロビーで聴いてたけど、いい演奏だったと思った。
福浦高校のような大人っぽさとも違い、福浦西高校のような情熱的な感じとも違い、福浦東高校の演奏は妖艶な感じだった。
三者三様、どれも個性的で聴きごたえがあった。
あの演奏なら手応えあっただろうし、悔しいだろうなぁ。
「おぉリコピン、どうした?」
「…おめでとう。凄くいい演奏だった。正直凄く悔しいけど、カナが東海越大会行けたのはなんか自分のことのように嬉しい。変な感じだけど」
「ありがとう」
「東海越大会、頑張れよ!」
「おう!」
「…なんか今日のカナ素直すぎじゃない?気持ち悪いんだけど。「おやおや、県大会落ちのリコピンじゃあないですか!まぁまぁいかにもダメ金って感じのいい演奏してたよ!いいなぁリコピンは。明日から気楽で。私は東海越大会に向けて練習続いてあー忙しい!まぁ東海越大会では「〇〇に行ってきました」ってプリントしてあるクッキーお土産で買ってくるから楽しみにしててな!」とか言われると思ってた」
「やっぱみんな私のことデフォルトでクズだと思ってるの?」
「まぁ微クズってとこかな」
「相変わらず口悪いな!!!そっちこそ微クズだよ!!!」
「お、いつもの感じに戻ってきたじゃん。そのノリで東海越大会頑張れよ!」
「うるせーよ!ありがとう!」
「ただし!夏のコンクールは私たちが東海越大会行くから。おめーの席ねーから!」
「そこで「一緒に行こう」じゃないのがいかにもリコピンらしい微クズっぷりだな!」
「お互い様でしょ?」
「にししw」
リコピン目はまだ赤いけど笑ってる。
口の悪さは相変わらずだけど、東海越大会を喜んでくれているのは伝わってくるのでこっちも嬉しい。
悔しい気持ちを乗り越えてこうやって声をかけてきてくれるの、すっげー嬉しい。
リコピンと中学時代一緒に過ごせた時間や経験も絶対今の私の土台になっているはずだし、高校は違っても今もお互い切磋琢磨できていることが楽しくてしょうがない。
離れていてもやっぱ気になっちゃうんだよなぁ、リコピンのこと。
ナツキも大切なパートナーだけど、リコピンだって今でも大切なパートナーだ!
向こうはどう思ってるか知らないけど。
元気そうでよかった!
わざわざ声掛けに来てくれてありがとう!
絶対頑張るよ!!!
…
「レイジー!ユリちゃーん!」
ひとしきり話が終わり落ち着きを取り戻し、ふぅっと一息ついた直後に背後で声をかけられた。
振り向くと目を輝かせたナギサがいた。
「西高東海越大会おめでとう!」
「そっちもすごかったな!やっぱ風格あったわ」
「いやでも今回西高金管八重奏の演奏すっごいよかった!あんな熱のあるカンツォーネを曲として成り立たせてるなんて凄い!今まで聴いたことない感じで、なんかもう衝撃受けた。私の中ですっごく刺さった!正直今回の金管の演奏の中で、一番好きだ!!!」
めっちゃ興奮してる。
お世辞ではなく本当にナギサに刺さったんだな、と思うとなんか自分のことのように嬉しい。
だよなぁ!俺たちの先輩だって凄いよなぁ!
「ありがと!福浦高校の演奏も大人っぽくてすごく聴きごたえあった!なんかプロの演奏聴いてるのかなってくらい圧倒された。もう福浦高校の演奏中会場の雰囲気も凄かったもん。なんかさ、なんかさ!うちらの先輩達、すごいよね!」
ユリがすごく興奮してナギサに話しかける。
ユリはユリで福浦高校の演奏が刺さったようだ。
「だよね!先輩達すごいよね!」
「すごい!」
「来年の今頃、私たちもあれくらいの演奏、できるかなぁ?」
「わかんないけど…できるようになりたい!」
「だよね!来年私たちもユリちゃんたちも、県大会で同じ舞台立ちたいよ!で、あんなインパクトある演奏したい!」
「うん!一緒に県大会出よう!」
「で、どっちも東海越大会出場!」
「それは…できるかなぁ?」
「目標はでっかく!それに向けて一生懸命練習しよ!それ約束!」
「うん!」
「ムネにも言っとくね、約束!レイジもね!」
なんかすごく大きな目標の約束してしまった。
それに向けて一生懸命練習すること自体が約束の意味なんだけども、来年アンコン県大会の同じ舞台に共に立って、共に圧倒するような演奏して、共に東海越大会行って…できたらいいよな。
東海越大会、福浦西高校にとっても自分にとっても未知の領域なんだけど、来年俺たちにもできるだろうか?
でも目の前でカナさん達に東海越大会出場見せられたら、やるしかないというか、ちょっと自分たちにもできるんじゃないかという気持ちがしてくる。
「そういやムネ君はどうしたの?」
「楽器片付けの運搬手伝いだよ」
「あっ!!!!!!!」
テンション上がりすぎて俺も楽器片付けの運搬手伝いあるのすっかり忘れてた!
ナギサに「じゃーな」と言いながら駐車場に走っていく。
でもなんか、足は軽やか。
「はぁ、大丈夫かなぁあいつ。こんなんで来年の約束守れるかなぁ」
「レイジ基本優柔不断で抜けてるとこあるけど、ちゃんとやることはやるし、大丈夫でしょ」
「まぁねぇ。ただ他力本願なとこあるじゃん」
「確かにw超受け身だよね」
「そこもうちょい何とかしてほしいなぁ」
「まぁそこはユリちゃんいるし大丈夫じゃない?」
「いやいやそんな!」
「あとはユリちゃんが教育すればいいじゃない!」
「うーむ…ムネ君はしっかりしてそうだよね」
「…いやいやいや!!!あいつホントしゃべんねーから!こっちがいちいち引き出してやんなきゃいけないからめんどいよwそこはもしかしたらレイジよりめんどいかもしんないwいやいや、お互い大変ねー」
「ねー」
「じゃあお互い男子の教育しつつ、来年アンコン出ようね!約束!」
「うん!」
…
ナギサちゃんと別れた直後にナツキさんが話しかけてきた。
さっきまでクシャクシャの表情だったのにもういつものクールなナツキさん。
「あの子レイジの中学校の時の同期だっけ?」
「そうです。福浦高校のナギサちゃんです」
「うちらの演奏聴いてたのかなー。「うわ、雑い」とか思われてたのかな」
「いやいや、逆にすっごく絶賛してましたよ!あんな熱のあるカンツォーネを曲として成り立たせてるなんて凄いって。衝撃受けて刺さったみたいです。今日の金管の演奏で一番好きと言ってましたよ!」
「そっかぁ。それは嬉しいな」
「福浦高校の子が絶賛するなんて!やっぱ今日の演奏凄かったです!ナツキさん達すごい!」
「ありがとう」
「このことカナさんにも言っときます!」
「でもそんなこと聞いたらあいつますます調子に乗りそうだなー、言わなくてもいいんじゃない?」
「いいじゃないですか!調子に乗って全国大会!」
「お、大きく出たな。今日ユリもテンション高いな」
「そりゃ高いです!私たちの先輩があんな凄い演奏して、東海越大会出場なんて…冷静でいられませんよ!」
「私もだよ。また明日から頑張らないとなー」
「頑張ってください!行けるとこまで!」
「うん」
「私も…私たちも頑張ります!先輩たちの演奏聴いたら帰って練習したくなっちゃいました!」
こうやって自分たちの行動が後輩にいい影響与えられたってだけで、今回の私たちのアンコン大成功じゃなかろうか。
もちろんまだ次の大会はあるけど、後輩たちがやる気になってこう言ってくれることが凄く嬉しい。
シオさんとミズホさんが引退してから私もカナも若干不安なところがあったんだけど、間違ってなかったんだなって。
ユリにはああ言ったけど、さっきのことやっぱカナに伝えてもらおうか。
調子に乗るだろうけど、ちゃんと調子に乗ったときのカナは凄いし。
それは私が一番知ってるし、おかしくなりそうだったら私が軌道修正する。
カナは大切なパートナーだから。
「ユリ、やっぱさっきのことカナに伝えようか。調子に乗りすぎないようにさらっとね」
「はい!きっと喜ぶと思います!」




