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第7話 思いやりが大事

俺がシオさんに指導を受けている間、ユリの方はというとカナさんがついて見れくれているみたい。

カナさんの横にはミズホさんも近くに居る。

あっちはいったいどんな感じになっているのかな…?



「よし、じゃあ始めよ!」


そう言うとカナさんは私のほうを見ながらパンッ!っと手を叩いてニカッっと笑いました。


「さっきも言ったけど(第6話参照)、ユリの音は音が大きくて頼もしいんだけど、ちょっと乱暴なの。だからもうちょっとキレイでしっかりした音になるようにしていきましょー!」


うー、合奏のときのカナさんの目とオーラを見てるので、正直怖いです。

ミズホさんが近くに居てくれてよかったよぉ。

てか、なんでミズホさんが居るのだろうか?


「ミズホさんって高校から楽器始めたんだけど、音キレイなんだよね?どっちかってーとレイジに特徴は似てる」


「そうでした!ホントに高校からですか!?って感じですよ」


うん、とはにかみながらミズホさんは答えました。

ミズホさん、確かにレイジみたいに音が少しフワフワしてるんですけど音自体はキレイ!

これでホントに高校から始めたの?って感じ。


「んー、自分ではそんなキレイとは思ってないけど、多分シオちゃんや先輩がちゃんと教えてくれたからかな?」


うーん、あくまで謙虚だ。

ここらへんが男子がグッとくるんだろうな。

私もグッときてるもん。


「いやいや、ミズホさん自身も努力したから「この音」なんですよ。絶対!」


「う~ん」と言いながらミズホさんは照れる。

でも確かにそうです。

高校から始めた人って、多分周りに同学年の経験者がいる影響で結構伸びるってよく聞きます。

目標にもなるし、お手本にもなるし、自身にも変なクセもついてないし。


「ということで、ユリは、ちょっとだけレイジやミズホさんの真似をしてもらいまーす!」


「「え、えええええええええええええええ?」」


私は私、ミズホさんはミズホさんでびっくり。

ミズホさんも何やるか聞いてなかったんだ。


「まず、ミズホさんチューニングB♭を8拍吹いてくださいよ。」


「え、あ、あー…」と言いながらミズホさんは楽器を構える。


んパァーーーーーーーーーン。


「じゃあ次はユリ!」


パァーーーーーーーーーーーア!


「ほら、この2つの音はとても対照的なんだよ。ミズホさんが学ぶとこもあるし、ユリが学ぶとこもある。だからユリだけがそんなに卑屈になることもないよ?」


そういうとカナさんは私のほうに近づいてきました。


「さすがにユリとミズホさんじゃ無理だからぁ…ユリとレイジが結婚して、子供が生まれたらきっとちょうどいい最強トランペッターが生まれると思うなぁ」


な…!

な…!


「なに言ってるんですか!カナさん!!!」


「うわーははは、ごめんよ。怒るなよぅ。でも、あんたら2人を足して2で割ったら程よいんだよね、きっと」


「だったら初めからそういえばいいじゃないですか!」


ニヤニヤ笑いながらカナさんは、「ユリが怖いよぉ」と言いながらミズホさんの後ろに隠れてしまいました。

ミズホさんは「もう、カナちゃんたら」的な顔をして苦笑い。


「まぁとりあえず、出だしにもっと神経使えるようにしようね。レイジなんかは気を使いすぎて逆に出なくなっちゃってるんだけど、ユリはもっと吹く前にいろいろ考えて欲しい」


むー…何も考えてないわけじゃないのに。


「勢いがあるのはとてもいいんだけど、勢いだけじゃ音は薄っぺらい。しっかりした音を出すには、「やさしさ」が無いとダメだし、吹き込む息にもそれなりに質がほしい。ユリのはマラソンで一瞬だけ全力で一位を取ってる感じ。」


むー…わかりやすいようなわかりにくいような。

何となくわかりますが。


「よくマンガなんかでトランペットの音なんか「プーッ」って表現されてるでしょ?でもそのイメージのまま吹いちゃ絶対ダメ。「プー」だと口が「う」の形だから、同時に送り出される息の量が結構少ないの。で、出だしのあたりが強くなった後の音色が薄くなっちゃうの」


ミズホさんはなんか一人で考えながら口を「あ」やら「う」やら「お」に変えています。

うーん、そういうとこがギャップでかわいいんかな?

見た目は大人っぽいのに、やってることがたまにかわいい。


「そこでカナちゃんオススメの音イメージは「ウォーン」!」


ウォーン?ウォーン…ウォーン?


「ここで注意は決して「ウオーン」じゃないこと!「ウォ」は発音のイメージ。そして口が「お」であることにより同時にたくさんの息が送り込めるし、暖かくてやさしいいイメージの音にもなる。寒いときに手を温めるときに「フーッ」ってやらないでしょ?「ホーッ」とか「ハーッ」でしょ?「う」じゃ冷たくて細いんだよ」


うお、知らず知らずのうちに私の口も「あ」やら「お」に!


「ユリの音は細いんだけど芯はしっかりしてるんだよ。だから細いなりにもはっきりしてしっかりしてる。レイジは芯が弱いからフニャフニャって感じ。だからユリは音のイメージや発音がしっかりすれば、結構変わると思う。よし、そんじゃーほれ、「ウォーン」のイメージでやってみてよ!」


勧められるままに楽器を構えました。

「ウォーン」のイメージで。

攻撃的でなく、やさしいイメージで。

すぅっ、っとブレスを取る。

いつもみたいに勢いで音を出さずに落ち着いて。

口を「お」に開いて、「ホーッ」ってやるような温かい息をたくさん送り込む。


んパーーーーーーーー!


「おー、音が明るくなった。ちょっと意識しすぎたか、出だしがレイジみたいになっちゃったかな?あと「ウォーン」のリリースの「ン」ができてなかった。でも音のイメージはそんな感じかな!」


確かに、音が明るくなった気が少しする。

うるさくない。

レイジやミズホさんみたいに…やさしめの音。


「ユリは確か「レヴァータンス」1stだったよね?あの曲めちゃめちゃ速いから、よく指使いだけで精一杯になっちゃうんだけど、音がしっかりしてないとなにやってるかわかんなくなっちゃう。最後のメロディのとこなんかはねぇ、こうフンフフフフフフンフ…」



それから数分間、カナさんは指揮をしながら曲のフレーズを口ずさみ続けました。

置いてけぼりです。


「あ、ゴメン。楽譜開いてないのにいきなりこんな歌われてもわかんないよね!」


「カナちゃんは好きな曲のことになると暴走しちゃうんだから」


微笑むミズホさんはやっぱ天使だ。

母性、母性か?これ。

ママか?

バブみか?


「そうです、「レヴァータンス」大好きっす!」


カナさんも「レヴァータンス」好きなんだ。


「わ、私も「レヴァータンス」大好きです!」


「お!そうなんだ!気が合うねー。ちゅーことでユリ!1stで変な演奏したらブチキレるかんなー!」


ひいいいいいいいいい。

カナさん指揮を免れたと思ったら、なんかこっちもヤバそう。

ていうか1部の最後の曲、井口先生指揮。

かなりしっかりしないと…かも。


「まぁそういうことで、ユリはもう少しいろいろ考えて「やさしさ」を持って吹きなさい」


「はーい」


「楽器の音にも彼氏にも、思いやりが大事だよ?レイジにもうちょっとやさしくなってもいいんじゃない?ツンばっかじゃホントに嫌われちゃうよ?」


「カ・ナ・さ・んんんんんんんんん!!!!!!!」


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