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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第87話 Burnin' X'mas

「なんかさ、ナツキに何かクリスマスプレゼントしたいな、と思ってたんだけどさ、なかなか良いもの思いつかなくて。お金もないし…でさ、デートがてら一緒に探そうかなって。どうかな」


「うん、そうしたい。私も正直何も思いつかなかったんだ」


私はコージ君と手をつないで街の中を歩いていました。

あ、なんかちょっとデートっぽいかも。

さっきまでよりも街が華やかに見える。

手をつないでるカップルも沢山いて、私もその中の一人なんだなーと思ったらちょっと恥ずかしくなった。

なに自惚れてんだ私。



まずはコージ君と雑貨屋に入りました。

私好みの犬や猫の雑貨がいっぱいある、かわいいお店。

前から気になっていたんだけど、私なんかが入るの恥ずかしくて入れずにいたからラッキー。

わぁ、かわいい猫のオルゴール。

こっちのもかわいいなー、って結構なお値段するのね。

私がキョロキョロ見てるのをコージ君に見られて、「こういう系好きなんだよね?」って言われました。

「何よぅ、似合わない?」とちょっとすねる。

コージ君もモゴモゴしてるし、なんか微妙な空気になったので退散。

今のはちょっと私も意地悪だったかも…ごめん。



今度はコージ君とデパートに入る。

クリスマスプレゼント用の商品がいっぱいありました。

マグカップとか、ブランケットとか。

香水は…うーん私のキャラじゃないかなー、というかデパコスなんてなかなか手が出せない。

なんかやっぱりデパートはちょっと大人びたものが多いな、ピンとこない。

ちょっと高校生は場違いだろうか?

コージ君もモゴモゴしてるし、あまりこれだ!ってのがないので退散。



だんだんと方向性がわからなくなり、コージ君とアクセサリー屋に入りました。

うわ、こんなとこ入るの初めてだよ。

うわわ、ダイヤだ、すっごく高い。

カップル向けのペアアクセサリーもあるんだー、うーん、でもこれもいいお値段だなー。

バイトしてれば違うんだろうけど、うちらには厳しいか。

コージ君もモゴモゴしてるし、あまり落ち着かないので退散。



最初にそっちから誘ったくせに終始モゴモゴしてるコージ君に呆れ半分イライラ半分。

いや、元々こういう人だってのはわかってるんだけど…コージ君相変わらず決断力無いのね。

私だって受け身なだけじゃなくて何回も「これはどうかな」って聞いてるのに、良いんだか悪いんだかよくわからない歯切れの悪い返事ばかりでイライラ。


「コージ君もなんかほしいのとかないの?なんかさっきから私ばっかり」


「…ナツキが気に入ったのがいいかなって…」


「なによそれ。なんか自分の意見無いの?」


「…」


「…黙ってちゃわかんないよ」


「…」


コージ君は私が不機嫌になるとすぐ黙る。

言い返しても来ないし、怒ったりもしない。

何考えてるのかわからなくなる。

私の言い方がキツイのかなー、なんて思ったりもしてるけど、せめて何かは言ってほしい。

今までも何回かこういうことがあった。

あーぁ、なんか微妙なクリスマスだなー。


「もう帰ろ。無理して買うことないよ」


「…」


また何も言わないで俯いている。

私がいじめてるみたいじゃん、あーぁ、こんなつもりじゃなかったのにな。

もうちょっと、いい感じになると思ったんだけど。

うまくいかないなぁ。


「…がいい」


「へ?」


「お揃いの、何かがいいかなって思ってたんだけど…なかなかこれだってのが無くて。なんか、その、2人でいつも持てるようなものとか…」


「ふぅ…」


私がため息をつくとコージ君はびくっとする、子犬か!


「なんで最初からそれ言わないの?」


「ごめん、クリスマスイブなのに」


「もういいよ。行こ?」


「帰るの?」


「違うよ、クリスマスプレゼント、探しに行こ?」


私は自分からコージ君の手を引っ張って歩き出した。

さっきまでよりちょっと笑顔で。

振り向くとコージ君は相変わらずアワアワしてるけど、ホッとしたのかちょっと優しい顔になった。

こういうのだよ、こういうの。

やっぱなんだかんだ言っても、コージ君といるのは楽しい。

コージ君は、楽しいだろうか?



その後何件か店を回ったけど、なーんかしっくりこない。

コージ君もあれはどうかと意見言ってくれるようになったけどなかなか決まらない。

どうしよどうしよ、もう、これ以上は時間が遅くなっちゃう。

コージ君もまたアワアワしだしてきた。

別に今は怒ってないよ?というと安心して笑う、子犬か。

2人で焦りながらも途方に暮れていると、いつも使っている楽器屋の前を通った。


「ちょっと寄ってもいい?バルブオイルほしい」


こいつ、ついに普通にショッピングしだしたよ。

なんだこのクリスマスイブ、とまたちょっと呆れながらも「いいよ」と言って楽器屋に入る。

なんかもう一緒にいるだけで、これでも楽しいかも。

コージ君がバルブオイルを買っている間、教則本をぱらぱらと眺めていた。

今日はもう、終わりかなーなんて思っていると、コージ君がちょっと興奮気味に私を呼んだ。


「ナツキ、ちょっとこっちきて」


「何?」


「クリスマスプレゼント、これどうかな。お揃いで、普段持ち歩けて、値段も…う、逆にちょっと安すぎるかな…」


コージ君が指さしたのは、トランペットやテューバのレザーキーホルダー。

値段は1,500円。

確かにクリスマスプレゼントとしては安い気がする。

いや、地方の高校生にとっては十分すぎるか!?

都会の相場はわかりません。

でも…。


「どうかな?」


「…いいんじゃない?なんか、私たちらしい」


「ね!」


「でも、どこに付ける?」


「え、楽器ケースでしょ?」


「え、お揃いみたいなもんじゃん。カナにまたなんか言われちゃうなー」


「いいじゃん、もうみんな知ってるんだし。これでいい?」


「うん。これがいい」



私はテューバのレザーキーホルダーを、コージ君はトランペットのレザーキーホルダーを買ってお互い贈りあいました。


「今日はありがとしかった」


「いや、俺、イライラさせちゃってごめん」


「私も不機嫌な感じになっちゃってごめんな。2人で一緒に過ごせて楽しかった」


「ホント!?良かった。俺も楽しかった!」


「良かった。このキーホルダー大事にするね」


「俺も」


なんか想像してたのとはちょっと違うけど、楽しかった。

もっとオシャレでロマンチックなクリスマスは、大学生になってからかな。

そんなことを思いながら、私たちは駅で別れた。


「明日から、このキーホルダーつけようね」


「うん、じゃあまた明日」


「バイバイ」



「いやいやいやいや!おかしいだろ!ナツキ!おかしいだろ?いやいやいやいや!」


「何よ、何怒ってんの、カナ」


「そこは違うだろ、なに普通にバイバイしてんだよ」


「へ?」


「ちょっと藤原ぶん殴ってくる。「このヘタレ野郎!」って言ってくる!」


「な、何が問題なのさ」


「だってさ、そこはさ、もうもう一段階上に行くとこだろ!」


「もう一段階上?」


「ハグとかキスとかしかないって場面だろうが!ケンカの後の仲直り、プレゼント交換、そしたら次はもうそこらへんしかないだろーーー!!!」


キキキキキキキキスス~~~~~~~~!!!!!?????


「あ、こら藤原ちょっと来いや!一発ぶん殴らせろ!この、このヘタレ野郎!!!」



え、俺ですか?主人公のクリスマスイブですか?

俺はもちろん家帰って家族とケーキ食って明○家サンタ見つつ寝落ちしましたよ?

吹奏楽に青春を燃やしている俺には遊んでる暇なんてないんですよ?

え、何?何が言いたいの?ハァ?強がってねーし!ケーキうまかったし!


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