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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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88/125

第86話 Hurry Xmas

アンサンブルコンテスト地区大会も終わり、今日は12/24。

今年の練習は12/27で終了なので、もう今年吹奏楽部で過ごせるのはあとわずかしかない。

ていうか今日はクリスマスイブなんだよね、全然気づかなかったよ…なんてラノベ主人公みたいなことは全くなく、ここ最近は意識しまくってた。

クリスマスに向けてそわそわしだした女子たちから声掛けられないか?と(童貞特有の受け身姿勢)。

まぁ結局そんなサプライズは一切なく、クリスマスイブ当日になってしまった。

いや、まだクリスマスイブは終わっていない、チャンスはあるはずだ!!!

明日はクリスマスだし、まだ明日もあるぞ!

きっと誰かが声掛けてくれるはずだ!(童貞特有の受け身姿勢)


「おーレイジー」


キタキタキターーーーーーーーー!!!


「どうせこの後一緒にいる相手もいないだろ?一緒に帰ろうぜ」


あ、同学年の男子だった。

はい終わった。

今この瞬間俺のクリスマスイブ終わったよ!

これであとは家帰って家族とケーキ食って明○家サンタ見つつ寝落ちして明日になるんだ!

充実した1日じゃないか!

健全な男子の1日じゃないか!

ちっきしょー!今年も守ってやったぜ!童貞をな!



「じゃあ今日の練習は終わりにしよう!さっさと帰ろう」


「え、今日早いじゃん。県大会に向けてもっとガツガツいくのかと思ってた」


「だってクリスマスイブだし!あまり遅くまでやってると藤原とナツキに悪いしね!」


「別に…」


「いやぁ、おかげさまで私は今年のクリスマスイブも独り身だよ…」


「それは…ご愁傷さまですとしか」


「うわw彼氏持ちはやっぱ違うな!ナチュラルに上から目線だよ!」


「そんなつもりないし」


「でも今日どっか行かないの?」


「別に…明日も練習あるし…」


「えー、せめてご飯ぐらい食べに行ったらー?おい藤原、まさか何も考えてないわけじゃないだろうな!私のナツキに寂しいクリスマスイブ過ごさせたら承知しないぞ!私の推しにみじめな思いさせたらただじゃおかないぞ!!!」


「うるさいなぁ!さっさと練習終わりにしろ!」


私たち金管八重奏2年生チームはカナがリーダーとして仕切ってるんですが、練習の終盤こんな感じにいつも無駄口叩いてグダグダになってなかなか終わらないことが多いのです。

なのでしまりが悪いというかなんというか、ダラダラしてしまう。

終わるんならもっとスパッと終わらせればいいのに!

そんな風に思いながら部室に戻って楽器を片付けていると、カナが小声で声を掛けてきました。


「でもさ、ホントに何も言われてないの?」


「何が?」


「藤原にさ。今日どっか行こうとか」


「別に、だって学校は休みに入ったとはいえ明日も練習普通にあるんだよ」


「でもさぁ」


「カナには関係ないじゃん」


「ぶー!心配してんの!」


「自分の心配しなさい」


「はいはーい!どーせ私は家帰って家族とケーキ食って明○家サンタ見つつ寝落ちして明日になるんだ!」


「それは知らないけど…」


楽器を片付け終わり、ブーブー言ってるカナをスルーして藤原君を探す。

カナはいちいちうるさい。

私だって、何も考えてないわけじゃない。

多少…なんかあるかな…なんて…思ったりしたり…しなかったr


「ナツキ、帰ろう」


「ひゃあ!!!!!!」


コージ君の「ナツキ」呼び、まだ慣れてない…。

付き合い始めてからすぐは私は藤原君のことを「藤原君」、藤原君は私のことを「唐川さん」と呼んでいた。

でも付き合い始めて数カ月、さすがにいまだにそれはないだろうということで、2人きりの時だけは私は藤原君のことを「コージ君」、藤原君は私のことを「ナツキ」と呼ぶようにした。

私が「君」付けなのは、なんか呼び捨てにちょっと気恥ずかしさがあったから、という妥協点。

最初はあくまで2人きりの時だけふぁったのですが、最近藤原君はたまにみんながいる前でも「ナツキ」と呼んでしまうことがある。

みんなの前なのに…こんがらがっているのです。


「藤原君…その…呼び名が」


「ん?…あ、ごめん!」


藤原君の顔がみるみる真っ赤になる。

それを後ろにいたカナが見逃すわけでもなく…


「いいですにゃー、ナ・ツ・キ!いいんだよ、練習中も下の名前で呼び合って。ていうか呼び名の使い分けめんどくない?レージだって「ナツキ」さんって呼んでるのに藤原が「唐川さん」じゃおかしくない?」


「うるさい!もう帰ろ、藤原君」


「う、うん」


「じゃーねナツキー」


私はコージ君の袖を引っ張って半ば強引に部室を出て、2人で帰ることにした。

ちなみにちょっと前から2人で手をつないだりはしてます。

コージ君と2人で歩いているけどちょっとばかり変な空気になる。


「ごめんよナツキ」


「別に怒ってない」


「じゃあなんで何も喋んないの?」


「別に…」


別に怒ってないけど、なんか恥ずかしいというかなんというか…。

コージ君は「うー…」と言いながら頭をポリポリと掻く。


「べ、別にホントに怒ってないよ?ただなんていうか、ちょっと恥ずかしくなっちゃったから」


「悪かったよ」


「うん」


「ねぇ、ナツキ。全然話変わるんだけど、この後、暇?ご飯じゃなくても、その、ちょっとどこか寄ってかない?クリスマスイブだし」


キタキタキターーーーーーーーー!!!

キマシタワー!!!

そそそそそそうだよね、クリスマスイブにそのまんま帰るなんてことないよね?

若干期待してた部分もあったけど、いざ実際にそうなってみると心臓バクバク。

いや落ち着けナツキ。

今までだって帰りにどっか寄るくらいしたことあるだろ?

今日がクリスマスイブだからって…普通にお茶するくらいだろ?


「うん…いいいいいい行く…」


めっちゃ噛んだ。

やばい、なんか「待ってました」感出しすぎたか?

すっごい恥ずかしい。

コージ君はニコニコ笑って「じゃあ行こうか」なんて言ってるけど、私は目の前ぐるぐる。

え、どうなっちゃうの私。

今日無事に帰れるのかしら?????

いやさすがに帰りますよ!高校生だし!未成年だし!

ノリがおかしい!!!



私はふらふらしながらもなんとか喫茶店まで歩き、そこでケーキと紅茶セットを頼んだ。

時期なので、クリスマスっぽいケーキがいっぱいあって見ていて楽しい。

普段あまり甘いものは食べないのだけど、やっぱ今日はケーキかな。

他愛もない話をして、普段通りの感じ。

「町はクリスマス一色だね」的なふっつーなトークはあったけど、本当にいつも通り。

緊張してたけど、いつも通りでなんか落ち着く。

初めのころはコージ君と2人でいるとずっと緊張しっぱなしだったけど、最近は一緒にいると落ち着くようになってきた。

ただ今日はなにか来るんではないかと警戒をしつつ会話をしたのでちょっと疲れた。

思いっきり普段通りにお茶会は終了し、喫茶店を出た。

ホッとしたような…拍子抜けしたような…結局いつもの部活帰りの感じ。

大学生とかになったら、こんな感じじゃなくて、もっとデートらしいデートなのかな?

まぁ高校生なんてあまりお金も持ってないし、しょうがないのかもね。

ドラマやマンガみたいなのは無理だしなぁ。

というか、なんか私今日受け身だな。

コージ君がなんかしてくれるの待ってるな。

なんか試してるみたいで嫌なヤツかも…。

あぁなんか自己嫌悪…私からも何か提案すべきだったろうか…。

コージ君は今の時間楽しいのだろうか…?

そんな風に自己嫌悪しながらもコージ君は電車通学なので2人で駅に向かって歩いていく。

もうすぐ今日も終わりか。

もうちょい一緒にいたいのに。

駅前はクリスマスのイルミネーションでとても華やか、すごく綺麗。

コージ君はふと一本の大きなクリスマスツリーの前に立ち止まる。

私もそれにならって横につく。

2人でそのクリスマスツリーを見上げる。


「綺麗だね」


とコージ君が言ってきた。


「うん」


私はコージ君の顔を見た後、恥ずかしくなってイルミネーションを見上げる。

綺麗。

ドラマみたいなデートじゃないかもしれないけど、ちょっといい雰囲気かも。

吐く息は白い。

無言だけど、いい時間。

いきなりコージ君がやさしく私の手を握ってきた。

びっくりしたけど、思い切ってそのまま手をぎゅっと握る。

で、お互い恥ずかしがり屋だから微笑程度だけど、お互い向き合ってほほ笑む。

最初の頃は「手つないでもいい?」なんていちいち了解を取ってからじゃないとしなかったんだけど、最近のコージ君、ちょっと大胆になってきたんだよね。

恥ずかしいけど嬉しい。

今までの人生でこんなクリスマスイブは初めて。

ていうか家族や友達と過ごさないの初めてか。

豪華じゃないし派手さはないけど、一緒に楽しい時間過ごせて嬉しい。

ありがとう、コージ君。


「ね、ねぇナツキ」


「なに?」


「も、もうちょっとだけ時間ある?せっかくのクリスマスイブだし、も、もうちょっと一緒にいたいかなー、なんて」


キタキタキターーーーーーーーー!!!

来ちゃったコレーーーーーーーー???

家に電話して「夕飯いらない」って言った方がいいのかーーーーー!!!


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