第83話 私は幸せ、かもしれない
私とアオイちゃんは舞台裏外の通路で待機していた。
ホントは舞台袖からそっと覗いてみたいのだけれど、スタッフや次の演奏者もいてバタバタしておりさすがに無理なので、外の通路脇にそっと立って演奏を聞くことにした。
会場の音が直に、また館内のスピーカー越しに聴こえてくる。
「25番、小坂県立福浦西高校、金管八重奏」
そうアナウンスが入った。
いよいよカナさんたちの番だ。
私はアオイちゃんと無言でアイコンタクト、頷きあった。
ニコニコしてるけど、お互い緊張。
きっと今舞台袖から入場して、舞台で楽譜をセットしているのだろう。
どれだけ緊張しているだろう?
舞台の熱気はどんなもんだろう?
観客はいっぱいいるだろうか?
拍手が聴こえた。
カナさん達が「礼」をしたのだ。
椅子に座っていよいよ演奏開始、2年生の曲、「第七戦法のカンツォーネ(ジョニバン・ガブリエール)」の演奏が始まった。
…
俺と勝又さんが担当の団体を控室に案内し、控室の外で時間まで待機していると、
「25番、小坂県立福浦西高校、金管八重奏」
というアナウンスが館内スピーカーから聞こえた。
ついに2年生の演奏が始まるのだ!
俺たちが次に控室に入って声をかけるまではあと10分はある。
つまりここで、スピーカー越しではあるけどカナさんたちの演奏をちゃんと最後まで聴けるのだ。
「いよいよだね」
「うん」
勝又さんが小声で声をかけてきた。
俺も勝又さんもちょっと自分のことのように緊張している。
拍手が聴こえた。
カナさん達が「礼」をしたのだ。
椅子に座っていよいよ演奏開始、2年生の曲、「第七戦法のカンツォーネ(ジョニバン・ガブリエール)」の演奏が始まった。
…
さぁ、ついに私たちの演奏が始まる。
礼の後座席に座り一回深呼吸。
目の前にはびっしり注意点が書かれている楽譜。
客席に目を向けるとジャガイモ畑、そうあれはジャガイモ畑なのだ。
ジャガイモからすっごい視線感じるし、照明はすっごい暑いし眩しいし、ていうか審査員はどこだ?
いやいや審査員探すなよ、意識しちゃうだろ?
次に舞台上に目を向ける。
やっぱ舞台に8人だけは寂しいな。
でもみんなの表情見ると結構堂々としている。
みんな自信満々とまではいかないけど、「やることやってきた」感はあるので不安はそこまで大きくない。
8人でアイコンタクトして、楽器を構える。
私のソロでのメロディーの入り、私はベルを下に向けてブレスと同時に上に向かせ、息を吹き込んだ。
よし行こう!!!
綺麗で厳かな雰囲気の出だしの私のソロ、さすがに緊張でちょっと音が震えたけどさ更に息を吹き込み押し切る。
数音で落ち着きを取り戻し、いつもと同じ雰囲気に戻すことができた。
このメロディ、やっぱ綺麗だ。
すぐさまナツキの音が被さってくる。
いい入り、やっぱナツキの音は堅実で乗りやすい。
そしてそれに続くように次々に他のみんなの音も被さってくる。
ここまでくると厚みが出てくるのでちょっと安心。
みんなでアンサンブル、楽しいなぁ。
全体はゆったりした曲ではあるけれど個々の細かい動きが複雑に絡み合っているので、縦の線は意識する。
8人しかいないので失敗するとすぐに目立っちゃうので、音程は意識する。
指揮者がいないので安定するようにリズムは意識する。
意識していることはいっぱいあるけれど、その上で楽しい。
すごくいい感じに来ている。
一瞬だけみんなに目を向けると、みんなすごく集中しているけどいっぱいいっぱいな感じはなさそう。
私も今日、個人的に非常に音の伸びがいいぞ。
私もみんなも曲にノれている。
これは…いいぞ!?
いい演奏できてるぞ!?
フレーズが変わってもみんなの意識・雰囲気は変わらない。
おぉ、なんかすごくいいペースだ。
みんな自ら前に進んでいる。
それは自分勝手でバラバラというわけではなくて、みんなが率先して引っ張ってってくれてる感じ。
トランペット1stだから私がみんなを引っ張っていくんだ!なんてどっか心の中で思ってたけど、それは思い上がりだった。
フレーズごとに主旋律担当に身を委ねてメロディをみんなで支えていくことができている。
この8人最高だ。
楽しい!楽しい!楽しい!
もっとこの曲演奏し続けたい!
私達8人をもっと見て!聴いて!
アンサンブル…楽しい!!!
…
演奏が終わって礼、なかなかすごい拍手をもらえた気がする。
体が火照っていて、すっごい高揚感。
ちょっとだけ雰囲気を味わいぼーっとするけど、ナツキに言われてそそくさと舞台袖にはける。
舞台裏、まだ声は出せないけど8人みんなでアイコンタクト、頷きあってガッツポーズ。
みんな手応えあったみたい。
私はあった。すごくあった。
「お疲れさまでした!演奏すごくよかったです!」
舞台裏外の通路に出るとユリとアオイちゃんが興奮気味に小声で声をかけてきてくれた。
「そんなに良かった?」
「凄かったです!なんか、なんかうまく言えないんですけど、いい演奏でした!まとまってるけど個性は出てて、聴いてて楽しかったです!」
「ありがとー!私たちも、いい演奏だったと思うわ。楽しかった!よな!?」
そう言って7人に目を向けるとみんなニッコリいい表情で
「「「「「「「うん!!!」」」」」」」
やっぱみんな手応えあったみたい!
そりゃそーだ!この演奏、なかなか良かったぞ!?
珍しく後で自分たちの演奏聴きたい、なんて思うほどだ!
なんていろいろみんなで語り合いたいけど、通路では邪魔になるのでさっさと撤収しロビーに向かい、楽器を片づけながらみんなでやっと語り合えた。
「ナツキ、最初の被せの入りよかったぞ!」
「うん、うまくいったと思う。カナが今日安定してたから入りやすかった」
「おぉ!もっと褒めてくれ!2人で練習しまくったからな、あそこは。ちゃんと成果出せてよかった!」
「だよね。あそこばっか練習してた」
「最初うまくいったからか、そのあとはもうノれたなぁ。楽しかった」
「楽しかった」
「だよなぁ!」
「まだ演奏できるかねぇ、県大会」
「そりゃそうだ!あの演奏ならまだ続けれらるっしょ!他の演奏聴いてないけど、あれでダメならみんなプロじゃね!?」
「そりゃ言い過ぎ」
「わはは」
みんなも思い思いに興奮しながら語り合っている。
ユリとアオイちゃんもお手伝いしながら興奮気味に話している。
レイジも館内で聴いててくれてただろうか。
観客席で聴いてたうちの学校の大会出てない部員も来てくれて、絶賛してくれた。
なんか…やっぱいい演奏できたみたい。
目標としていた演奏が1年越しでやっとできたのかも。
去年全然できなかったことがやっとできて、なんか…なんか…。
「カナさん大丈夫ですか!?」
「どうしたユリ」
「だって…泣いてるじゃないですか!」
「へ?」
目元を触ると、なんか自然に涙が出ていたみたい。
なにが起きているのかよく分からずポカン。
ユリの言葉に反応して周りのみんなが一斉にこっちを向く。
「な!なにこれ!?」
「大丈夫ですかカナさん」
と言ってユリはポケットティッシュを取り出す。
やっぱユリめっちゃお母さんじゃん。
ティッシュを受け取って涙を拭くけど、止まらない。
次々に涙が出てくる。
全然悔しいとかそういう感情はないので、この涙は何なんだ。
ちょっとみんな見ないで、恥ずかしい!
でも涙は止まらない。
「カナ、ホッとしたんでしょ?」
珍しくやさしい笑顔のナツキにそう言われた。
そうなのかな。
「この数か月、去年の仕切り直ししてやってきて、ちゃんといい演奏できたからホッとしたんじゃない?」
「…そうかも…」
「みんな、今日の演奏楽しかったよ。引っ張ってってくれてありがとう」
「ナツキがそんな優しいこというなんて…なんか裏があるんじゃないnうわああああーーーーーーん!!!」
「言い方!!!」
なんか感情がこみ上げてきて決壊。
ロビーでさすがに大声は出さないけど、わんわん泣いちゃった。
泣き止むまでナツキもユリもみんなもそばにいてくれた。
良かった。
なんか、すごいいろいろ良かった。
みんなが楽しかったのなら嬉しいし、私も楽しかった。
みんな、ありがとう!!!




