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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第81話 生涯労働行進曲

月日は流れて12月中旬、今日はついにアンサンブルコンテスト地区大会当日。

俺は客席ではなく舞台裏にいた。

今回の地区大会の会場は福浦西高校からかなり近い関係で裏方の手伝いを頼まれ、俺たちは演奏前の各チームをA、B、Cの3つの楽屋に案内し、時間になったら舞台裏まで案内するという仕事をすることになった。

いろんな学校の演奏を会場で聴けないのは残念だけど、アンサンブルコンテストの運営に係われるのも楽しいかも!ということで俺は手伝いに立候補することにした。

各校が楽屋でどんな練習するのかとか普段なら見られないところも見られるしね。

ということで俺は勝又さんといっしょに楽屋Aを担当することになった。

ちなみにユリはウチらの学校の金管八重奏2年生チームの手伝いをやってます。

大会に出られなくても、やることはいっぱいあるのです。



「それでは舞台袖に案内しますので私たちの後についてきてください」


本日5校目の案内が終わった。

お昼休みがあったとはいえ、結構大変なもんだ。

案内以外は楽屋前で待機なのであまり肉体労働って感じはしないけど、時間を意識しながら動かないといけないため結構神経を使う。


「佐々木君、次から金管のチームの案内だよ」


勝又さんにそう言われ、配られた進行表を見てみる。

次俺たちが担当するのは福浦東高校金管八重奏。


「福浦東高校金管八重奏…リコピンさん!」


「リコピン?何それ?わけわかんないこと言ってないでそろそろ行くよ?」


「うす」


福浦東高校金管八重奏か…リコピンさん(カナさんの中学校時代の同級生で一緒にトランペットを吹いていた)も出るんだろうな。

そういえば、福浦高校も金管八重奏出てるな、ナギサ(俺の中学校時代の同級生で一緒にトランペットを吹いていた)は今年出てるんだろうか?

いやさすがに1年生だしな。

もし出てたら、凄いけど悔しいかも。

そんなことを考えながらロビーの出場者待機場所に向かう。

勝又さんがさっそく声を掛ける。


「福浦東高校金管八重奏の方々ですか?」


「そうでーす」


「楽屋に案内しますので私たちの後についてきてください」


「あ!レイジ君じゃん!」


「り、リコピンさん。お久しぶりです」


「リ!コ!私の名前はリ!コ!」


「すみません」


さっそくリコピンさんに見つかった。

楽屋に案内しつつ、ちょっと話した。


「レイジ君久しぶりだねー。今回アンコンは出られないんだ?」


「はい、校内予選で落選しちゃいました」


「おー、残念だね。カナはもちろん出てるんでしょ?」


「はい、1stやってます」


「おう、それは聴いてみたいな。時間的に聴けるかなー?」


「リコピンさんの次の次ですから…時間的には微妙ですね」


「うーん、走れば間に合うかな、つーか私の名前はリ!コ!何回言えば分かってくれるのん?」


「すみません…カナさんがいつもそう呼んでるので染みついちゃいました」


全然緊張してないっぽい、すげー落ち着いてる。

俺だったら絶対緊張しまくって手汗凄いんだろうな。


「こちらで音出しをお願いします。時間は13時25分までになります。時間になりましたらお声がけします」


「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」


「じゃあね、レイジ君」


手をヒラヒラさせてリコピンさんが楽屋に入っていった。

ドアを閉めるとちょっと一息。

こんなとこで知り合いに会うと、なんかちょっと緊張するな。

楽屋入り口横の椅子に座ると、勝又さんがキョトンとした顔で小声で話しかけてきた。


「さっきのトランペットの人、知り合い?」


「え、ああ、リコピンさん。カナさんの中学校のときの同級生」


「へぇ、「リコピン」さんなの?ダメだよ、本人嫌がってたじゃん。先輩でしょ?」


「あー、カナさんがそう呼べって。呼ばないと怒るって。なんかいつもそう呼んでるから染みついちゃった」


「あぁ~…」


楽屋の中から楽器の音が聞こえてきた。

簡単な音出し、チューニング、和音の練習と続く。

やっぱり無意識にトランペットの音を聴いてしまう。

キレイな伸びのある音が聞こえる、これはリコピンさんの音だろうか。

音出しが終わって舞台袖に案内したら、次のチームの案内に向かわないといけないので、舞台袖で演奏を聴くことはできない。

だからこの状態で各チームの様子を探るしかない。

やっぱ手伝いしないで演奏聴いとけばよかったかなー、とちょっと後悔。

そうこう考えているうちに、楽屋の中から曲の出だしの練習が聴こえてきた。

しっかり練習してある、上手い。

ちゃんと音程揃っているし、音のバランスもいい。


「上手いね」


勝又さんが小声で話しかけてきた。


「うん、バランスいい」


「トランペットもホルンも個人個人上手い」


「そうだな」


「…なんか学校帰って楽器吹きたくなってきちゃった」


珍しく勝又さんが笑いながら足をブラブラさせてそう言ったのでちょっとドキッとした。

なんやこいつ意外とかわいいとこあるやんけ。


「それめっちゃわかる。なんかウズウズする」


「来年こそは、あの8人でアンコン出場したいね。辛いこともあったけど、なんだかんだ楽しかった」


いつもクールな勝又さんだけど、金管八重奏1年生チームのメンバーは気に入っていたようだ。


「うん。校内予選突破して、地区大会出場したい」


「で、地区大会突破して県大会突破して東海越大会突破して、全国!」


勝又さんがまたニイッと笑ってそういう。

勝又さんと2人でこんなにしっかりしゃべったことってあまり無かったけど、意外とよく笑う人なんだな。

中森さんがよく「ユーカはクーデレ」って言うけど、これって俺に多少心開いてくれたってことなんだろうか。

よくわかんないけど、俺もニイッと笑って「勝又さん意外と大きい野望持つのね」と言うと、勝又さんはハッとした表情になり、顔を真っ赤にしてうつむきながら「冗談だよ」と言った。


「いやでもやるからには全国だよね。目標は大きく」


「むー、そうだけど…佐々木君のいじわる」


うおおおおおおおおおお、なんか萌えフレーズきたで。

なんやこいつ意外や意外かわいいとこあるやないか。


「ごめんごめん」


「知らない」


「怒んないでよ」


「別に怒ってない。ほらそろそろ時間だよ」


「あ、そうだね」


ドアをノックして「時間です、準備をお願いします」と言う。

福浦東高校金管八重奏の方々が準備し終えたのを確認して、舞台袖に案内する。

さすがに緊張しているのかそれとも集中しているのか、リコピンさんも黙っている。

舞台袖に着いて、ふーっと一息つくと、背中を誰かに小突かれた。


「レイジ君お手伝いありがと」


リコピンさんが小声でそう言ってくれた。


「頑張ってください」


「おう!」


そうしてリコピンさん達は舞台袖へ、俺と勝又さんは次の団体の案内に向かった。


「福浦西高校の金管八重奏も、福浦東高校の金管八重奏も、両方県大会いけるといいね」


「そうだね。で、来年は俺たち金管八重奏が全国!」


「…いじわる」


「冗談じゃないって、本気本気!リコピンさん見ててなんかやる気出てきちゃった。今すぐ帰って練習したい!」


「今日はダメー。ほら次の団体待ってるから」


「よし!行こう!今日は労働頑張るぞ!」


ロビーに向かう間、ちょっとだけ聞こえてきた福浦東高校金管八重奏の演奏を聴きながら、今頃カナさん達は他の楽屋で音出ししてるだろうか、なんて思う。

リコピンさんも、カナさんも、頑張れ!なんて裏方の思いを勝手に乗っける。

俺も明日からまた、頑張る!

でもその前に今日の目の前の労働!

地区大会、スムーズに終われるように頑張るぞ!

で、自分がアテンドした団体が金賞取れたら、嬉しい。

よっしゃ、次の団体、俺がスムーズなアテンドで金賞取らしてやるからな!!!


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