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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第79話 アンコン特有の殺伐感

校内選考会終了後、私は再度カナさんとナツキさんに「おめでとうございます」を言いに行った。

一応レイジも誘おうかと思ったけど、なんか男子同士で話してるので止めた。

カナさんのとこに行くと、ナツキさんは「ナツキ様ファンクラブ」に絡まれていたので、とりあえずカナさんだけに話しかけることにした。


「カナさん。大会出場決定おめでとうございます」


「ありがとー、ユリ。そんなに礼儀正しくしなくても大丈夫よ?本当は悔しくてしょうがないんでしょ???」


「まぁ…否定はできないです」


「悔しいってことは、それだけ一生懸命取り組んでたってことよ!つうか「ブラスオクテット」の演奏のなかなか良かったよ!「ブラスオクテット」の!!!」


「…なんで知ってるんですか…」


「1年生緊張してるかなーなんて思って控え室こっそり覗いたらやってた!パクリじゃん!」


「…だから止めようって言ったのに…」


「わはは、でもそれだけ仲良くやってたってことじゃない?いいと思うよ。さすがにあれやって演奏がボロボロだったら目も当てられないけどさ。いい演奏だったよ」


「そうなんですかねぇ?」


「うん、荒削りだけどいい演奏だと思った。少なくとも1年前の私たちよりは上手だった」


「そう…なんですか?」


「うん、去年の私たちはボロボロだった」


そういうとカナさんは椅子に座って、いつもよりちょっと真面目に話し出した。

私も隣に座って聞く体制に入った。


「去年の私たちさー、まぁ今年と同じ8人なんだけど。私がメインで仕切ってたのさ。シオさんみたいに明るく楽しくやってみよーって思ってやったんだけど、それが大失敗!めっちゃ空回りして、真面目に練習する空気じゃなくなっちゃったんだよね。別に私もふざけてやろうとは思ってなかったんだけど、なんかすっごい軽いノリでお遊び感出ちゃったんだよね。で、だんだん8人の中もギクシャクしてきて…孤立しかけて…」


あぁアンコン特有の殺伐感。

人数少ないからダイレクトに不満が出てくるこの嫌な雰囲気。

ちょっと胃が痛くなった。


「みんなにすっごく怒られてさ、めちゃめちゃ泣いたわ。ナツキにマジ説教されたし、あの藤原にまで真面目に注意されたもん。あの時へこんだなー。つるし上げって言ったら言い方悪いんだけど、1対7ですよ。あぁもうこの8重奏、ていうか私この部活では終わったなって思ったもん」


すごく胃が痛くなってくる。

心臓痛い。

メンタルに響く。

カナさん…辛いです。


「でもそのおかげで、アンコンって一人で引っ張って舞い上がっててもダメだ。みんなで作り上げなきゃなんだな、って気づけたな。みんなにもちゃんと謝ってどうにか許してもらえて、でもそれは校内選考会直前で…あの時はみんなに悪いことしたなぁ。正直ちょっとの間みんなの顔見られなかったよ。その時はもう許してもらえてたから、みんな優しい声かけてくれたけど、やっぱみんな「こんなはずじゃなかった」って思ってただろうね。私もそう。シオさんたちを驚かせようって始めたんだけど、結果大失敗だった」


「でも…でも今年は凄かったです!」


「そ、去年の反省をフルに生かしたからね。今年は衝突もしたけど、本音で言い合って真剣に取り組んだよ。1年生に恥ずかしいとこ見せたくないってのもあるけど、1年前の失敗を取り戻すためにすっごくちゃんとやった。で、ひとまず今回で1年間ずっと引っかかってたモヤモヤが晴れた感じかな」


「良かったです」


「うん、良かった。本当に良かった。アンコン、楽しい」


「はい」


「傍から見てて、ユリたちすっごく真面目に取り組んでて羨ましかった。ユリがメイン進めてたっぽいけど、ちゃんとみんなの意見も聞いて。だからちょっと本気出してもらうために煽っちゃって、ごめんね。1年の頃から「楽しい」って思えたの、すっごい宝物になるはずだよ。来年、絶対大会出なよ?」


「…はい!」


「で、「ウィーアーブラスオクテット」これ見よがしにやってよ!?」


「…もー!いい話だったのに!」


「へへへ、でもホント、いい演奏だったよ。来年が楽しみだ」


そういうとカナさんは私の頭を撫でてくれた。

なんかこそばゆい感じ、でも嫌な感じじゃない。

やってきたことは最後形にはならなかったけど、褒めらて、評価されて、羨ましがられた。

迷いながらもやってきたことは決して間違ってはなかったんだな。

そう思うとなんか、嬉しい。


「でも、ま、今年は私たちが大会出るから、1年生に恥ずかしくないようにちゃんともっと練習しなきゃね。その姿見て、来年さらに頑張ってほしいし!」


「はい!」


「いい経験できたね」


「はい!」


「よっしゃ頑張るぞ!なんかもっとやる気出た!ちゃんとアンコン取り組んでくれてありがとう。ユリたちが頑張ってくれてたから、私たちもより一生懸命やれたんだよ。大会、楽しみにしててな!」


「はい!」


「…でさー、ご相談があるんですけどぉ、「ブラスオクテット」貰っていい?大会本番舞台袖でやりたい!!!」


「もーーーー!!!」


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