表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/125

第78話 ウィーアーブラスオクテット

気づいたら演奏が終了し、礼をしていた。

3年生の拍手は大して耳に入らなかった。

目の前がグルグル回っているような気がしてボーっとしてしまう。

ユリに小突かれてやっと我に返り、舞台から捌けていった。

何も聴こえないし、何も感じない。

俺の後ろを歩く7人の顔を見られなかった。

ユリや他の人が声掛けてくれたけど耳に入らず、「うん」とか「ああ」とか適当な相槌で流してしまった。

楽器を置いてすぐさま音楽室に戻り他のチームの演奏を聴いたけど、正直あまり耳に入らなかった。

ただ演奏順最後の金管八重奏2年生チームの演奏の頃にはちょっと落ち着き、演奏を聴けるようになっていた。

上手かった。

とても良くまとまってるし、8人なのに迫力もある。

正直自分たちの演奏がどんなだったかはあんまり思い出せないけど、金管八重奏2年生チームの演奏のほうが何倍も上だな、と思った。

俺みたいな盛大なミスもなかった。

冷静になってきて、それと同時に「悔しい」という感情があふれてきた。



審査の結果、金管八重奏2年生チーム、打楽器六重奏(1,2年混合)、サクソフォン四重奏(1,2年混合)、クラリネット四重奏2年生チームの4チームが校内予選を突破し、12月後半のアンサンブルコンテスト地区予選に出場することになった。

ということで俺たち金管八重奏1年生チームのアンサンブルコンテストはここで終了となった。

横を見ると7人ともぼんやりしていた。

「1年生だけのチームだし、出られない確率のほうが多いだろうなぁ」とはやっぱり心のどこかで思ってたけど、カナさんに煽られて俺たちなりに本気で練習してきた。

大変だったけど楽しかった毎日が、ここで終わりになる。

この8人で演奏するのは今日で終わり…。


「ごめん…」


うつむきながら俺は自然とそうつぶやいていた。

7人がこっちを向く。


「はぁぁぁぁああ!?」


中森さんが口を開いた。

やっぱ怒ってるんだろうな、最悪の失敗だったから。


「ごめん…ミスった…」


「はぁぁぁぁああ!?」


中森さんが席を立ってずかずかとこっちに歩いてくる。

俺は歯を食いしばった。


「佐々木のあの最後のミスが無かったら校内予選突破できたとでも言うんか?思い上がるんじゃねー!校内予選突破したチームの演奏聴いてなかったのか?完敗だ、完敗!」


友杉さんが続く。


「そうだよ佐々木君、確かに佐々木君クライマックスでミスったけど、それだけが原因じゃないよ。全体の仕上がりが全然違ったよ。金管八重奏2年生チームの演奏聴いた?すごかった」


俺は顔を見上げて中森さんの顔を見る。


「なっさけない!女子みたいな顔してんじゃねー!」


頭にチョップを食らった。


「いて、ごめん…」


「佐々木1人の責任じゃねー。うち8人の力不足だ」


「うん…そう、だな」


「わかりゃいいんだよ!ほら元気出せ」


そういうと中森さんは俺の背中をバーン!と思い切り叩いた、めっちゃ痛い!!!

相変わらず口は凄く悪いけど、中森さんの言葉は俺を勇気付けてくれた。

今度はユリがヤレヤレ顔で声を掛けてきた。


「元気になった?なったならカナさんたちのとこ行っておめでとう言おうよ」


「おう!」



カナさん・ナツキさんのところに向かうと、2人はシオさん・ミズホさんと話をしていた。


「カナさん、ナツキさん、おめでとうございます。演奏凄かったです」


「お!ありがとー」


「わーユリー!久しぶりー」


シオさんがユリに抱きつく。

久々に6人揃った、なんか同窓会みたい。


「レイジもユリもお疲れ。結果は残念だったけど頑張ったね。正直、予想してたよりすごく良く仕上がってた」


「私もそう思った。レイジ君とユリちゃんの音、前より喧嘩しなくなったね。混ざり合ってた」


シオさんもミズホさんも褒めてくれた。


「あ、レイジ。あの最後のミスは気にすんなよ?あれだけが原因で落選したわけじゃないんだからな?」


「はい」


「レイジさっきめっちゃ落ち込んでたんですよ?うつむいてボーっとして。トモに喝入れてもらってようやく立ち直ったんです」


「あははは、まぁアレはもう気にすんな。でも1年生だけでよくあそこまでまとめたね。ユリがリーダーだったんでしょ?凄いよ」


「いえいえそんなことは…」


「私たちが1年生の頃のアンコンより上手かったよwあの時のはひっどい出来だったよね、ミズホ」


「うん、あれはね…若干ギクシャクもしたし」


「へへへ、でも今となってはそれでも懐かしいなぁ。なんかユリ達の演奏聴いてて、毎日ちゃんと練習してたんだろうな、とかいいチームだったんだろうな、とかいろいろにじみ出てたよ。あと2年生に負けねー!って感じ」


「カナさんに煽られたんですよw」


「あー、なるほど」


「そうそう!最初っから「どうせ1年だし」みたいなスタンスで来られたら張り合いないっすからね!でもレージもユリも、よく頑張ったね。いい演奏だった!ね!ナツキ!」


「うん、レイジは音がしっかりしだしたし、ユリも音が柔らかくなり始めた。ミズホさんも言ってたけど音が混ざり合ってた。2人とも個人でもパートでも成長したね」


「「ありがとうございます!」」


「あーぁ!吹奏楽部復帰したいなあ!アンサンブルやりたいなぁ!受験勉強の毎日は飽きたよ」


「大学入学共通テストまで2ヶ月切りましたよね。最後の追い込み頑張ってください!」


「うるせーw」


「あーこの6人の感じ懐かしいなぁ!」


ホント、懐かしい。

6人とも満面の笑みだった。

久々の懐かしい時間。



3年生をお見送りして、楽器を片付けて今日の校内予選はおしまい。

それと同時に金管八重奏1年生チームも今日で一応終了…というわけではなく、アンコン出場できなかったメンバーは練習を兼ねてアンサンブル曲の練習を続けることとなった。

やっぱ曲あると全然モチベーション違うからね。

よかった、大会は出られないけど、舞台で発表することは無いけど、もう少しこの8人で練習できるみたいだ。

ユリと部室に戻ると、金管八重奏1年生チームの6人が何やら集まっていた。


「あ、ユリ!佐々木君!ちょっとこっち来て!今日の審査員の講評あるよ」


菊地さんが講評をヒラヒラさせて呼んだ。

俺は勝又さんから順次講評を受け取って目を通した。


「荒削りなところはあるけど、よくまとまっていると思いました」


「所々ハーモニーがとてもきれいでした。ここは練習したんだな、というのがわかります」


「全体のバランスに気を使うともっと上手くなると思います。でも1年生だけでこの演奏はすごいと感心しました」


なんか、悪くなかったのかも。

ウチラのやってきたこと、間違ってなかったのかも。


「あ、ユリちゃん、佐々木君。これトランペットの3年生の講評だよ」


谷川さんがそう言って渡してくれた2枚の講評を俺とユリは一緒に見た。

1枚目、シオさん。


「和音に関しては練習したところと練習不足のところの差ががハッキリしていました。低音と高音のバランスもまだまだです。ただ、8人個人個人の音のレベルが夏よりも上がっていましたし、パートごと、全体の音の融合度合いも上がっていました。もうあと1ヶ月あれば、なんて思ってしまうくらいとてもいい演奏でした。※レイジは最後のは気にすんな!」


2枚目、ミズホさん。


「とても堂々としていて1年生とは思えない演奏でした。8人が真剣にこの曲に向き合ったのが分かります。以前は喧嘩していたレイジ君とユリちゃんの音が以前より溶け合っていたのもとても嬉しかったです(まだまだだけどね)」


俺とユリは顔を見合わせ、ちょっと笑った。

で、すぐハッを我に返りプイっと目を逸らした。

「音だけじゃなくて本人同士ももっと仲良くなりなよー」とかめっちゃイジられた。


「おうユリ!イチャついてないで明日からまた練習だぞ!」


「そうだね、全体のバランスとか雑な箇所とかまだ改善するとこはまだいっぱいあるみたいだしね。明日からまた、頑張ろう!」


「「「「「「「おう!」」」」」」」


「ウィーアー、ブラース」


「「「「「「「オクテッート!」」」」」」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ