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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第75話 これから一緒に歩んでいく道

あぁ、やっちゃった。

私はいつもこうだ。

上手くできなくて、みんなの足引っ張って、挙句の果てに自分勝手に辞めようとしている。

アイリちゃんだって、曲をもっと良くしようとして言ってくれているだけのはずなのに、私は怒って逃げてしまった。

私はアイリちゃんの期待に沿えなかった。

だから「帰んなよ」とか言われちゃんだろうなぁ。

ここで逃げずに食らいつくのが正しいんだろうけど…なんかちょっと疲れちゃった。

悔しいは悔しいんだけど、みんなの邪魔はしたくないしな…。


「おーい、コヨミー。大丈夫か?」


ユウカちゃんとヤヨちゃんが追っかけてきてくれた。

まだ私はみんなから完全は見放されてないんだなぁ、とちょっとほっとする。


「私、うまくできなくて、練習停滞させちゃって…」


「そんなことないって、まぁちょっと座ろうよ」


ユウカちゃんに促されて部室前の階段に座る。

両サイドにユウカちゃんとヤヨちゃん。


「なんかもっとわんわん泣いてるかと思った」


「うん、なんか自分でもよくわかんないんだけど…涙出てないなぁ。なんでだろ?」


「コヨミちゃんにはめずらしく、怒ってるからじゃないの~?」


「え、あ!いやそんな怒ってるとかは…」


「でもあの言い方はちょっとイラっとするよな。アイリは本音でズバズバ言うのがいいとこだけど、さっきのは単に追いつめてるだけだったじゃん。傍から聞いてても感じ悪かったもん。正直選考会近いしアイリが焦って熱入りまくってる気持ちはわかる。でも直前でそういう言い方する?って感じ」


冷静なユウカちゃんが珍しく感情的にしゃべっている。

こんなユウカちゃん初めて見た。


「私も、昨日とかさっきとか、助け舟出せなくて悪かった。アイリの圧に押されちゃってたんだけど、そこはちゃんと言うべきだった。ごめん」


「私もごめんね~。コヨミちゃんをなんか孤立させちゃったような雰囲気にしちゃったよ」


「その点ユリ凄いよねぇ。ちゃんと言うこと言ってた。やろうと思っててもなかなかできないよ。やっぱ来年の部長はユリでいいんじゃないかな…とまぁそれはともかく…戻ってきなよ。みんな待ってるし、今度はみんなで守る」


「でも…私やっぱみんなよりレベル低くって。高校から楽器変わってマウスピースの大きさの違いにやっと慣れてきたんだけど、やっぱまだ力の入れ具合とか感触がつかみ切れてないというか…あぁ、言い訳になっちゃんだけど…」


「それは今日明日でどうにかなるもんじゃないでしょ?今すぐできることでやっていくしかないよ」


「でもそれじゃあアイリちゃんの望む音楽には…」


「別にアイリのために曲作ってるわけじゃないし!」


「へ?」


「別にアイリが所望する演奏にするために練習してるわけじゃないでしょ、ってこと。そりゃ、アイリが言ったことだって正しくて、それができたら曲はもっとよくなるよ。でも演奏は8人でやってるんじゃん?個々に得意不得意もあるんだし、それをひっくるめてやれること進めてくのがアンコンじゃないのかな。カバーしあいながらさ」


「そうだよぉ、せっかくなんだからコヨミちゃんのいいとこも生かしていきたいよ。それが私たち8人の演奏の味かな。だから、戻ってきてよ」


「うぅー…」


でもやっぱ人の足を引っ張るのは嫌だな。

私のレベルが低いばっかりに全体のレベルが落ちちゃって妥協して…というのは嫌だ。

戻れるなら戻りたい。

でも…


「コヨミ!!!さっきは悪かった!!!」


大きな声がしたので振り返ると、アイリちゃん。

堂々としてるけど、目が充血していた。

その後ろには不安そうな顔のユリちゃん、トモちゃん、アオイちゃん、佐々木君。


「アイリちゃん…」


「本当に悪かった!コヨミの気持ちも考えずに、選考会近づいてるからって焦って私個人の意見を押し付けてた!」


「そんなことないよ、アイリちゃんの言っていることは正しい」


「でも、それを8重奏として受け入れるかどうかは私一人で決めちゃいけなかったんだ!みんなで意見出し合うべきだったんだ!それなのに私は!私、は!コヨミに上から目線で意見押し付けて、コントロールしようとしてた!本当は、コヨミが頑張ってるの知ってるのに!いい方法を一緒に探すために寄り添うべきだったのに!おんなじトロンボーンパートの同級生なのに!…本当にごめんなさい!」


アイリちゃんは深々と頭を下げた。

あぁそうだ。

私は昨日とかさっきとか、アイリちゃんの言われたことに納得していた。

でも、そのためにどうしたらいいかわかっていなかった。

それなのに私はアイリちゃんがちょっと怖かったからって、頼らずに一人で悶々としていたんだ。

そっかぁ、もっと気軽に「どうすればいいか教えてよ」って言えばよかったんだ。

おんなじトロンボーンパートの同級生なんだから。


「「帰りなよ」なんて最低なこと言って本当にごめん。帰ってほしくない!戻ってきてほしい!戻ってきて、今度は一緒に練習したい。この8人で選考会まで突き進みたい。それなのに私は!私はァ!」


アイリちゃんが堪えきれずに泣き出してしまった。

気づくと私の視界もちょっとぼやけてきていて…


「…私も、だよ」


「本当?」


「本当だよ。私もアイリちゃんと、みんなと金管8重奏もっと続けたい」


「コヨミぃ…!!!」


アイリちゃんが泣きながらこっちに来て、私を抱き寄せた。

「ごめんね、ごめんね」と何回も繰り返しながら、ギューって。

ちょっと苦しかったけど、アイリちゃんの苦しさもなんかわかった気がして、私は泣きながらそっとアイリちゃんの頭を撫でた。

そしたらアイリちゃんはまたワンワン泣いた。

私もワンワン泣いた。

なんかすごく、おんなじトロンボーンパートの同級生として、言いたいこと言い合って分かり合えた気がする。

アイリちゃん、ありがとう。



「あんなに泣いてるアイリ初めて見たわ~。意外と可愛いとこあんじゃんな!」


「うるさいなぁ」


アイリちゃんは珍しく恥ずかしそうにしながらトモちゃんを小突いた。

8人で元の練習場所に戻り、練習再開の準備をしていた。

ちょっと時間が空いちゃったので、個々の音だしやり直し。

楽器を持つと、アイリちゃんの表情が急にシャキッとした。

やっぱすごいな!かっこいいな!

この堂々とした感じ、横にいると安心できる。


「コヨミ、さっきのフレーズのとこなんだけど…」


「へっ!?」


心臓バクバク、なんか言われちゃう?


「あとで一緒に練習しない?どうやったら2人のトロンボーンとしてきれいに聴こえるか、ちょっと模索したいんだけど…」


「…うん!!!」


2人でニッコリ笑った。

それ見て他の6人もニッコリ。


「やっぱ可愛いとこあんじゃーん!!!」


「うっさいなぁ!!!」


さぁ、練習再開です。


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