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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第71話 一歩一歩

「佐々木君もうちょっと音まっすぐ硬くできない?」


前日のアンコン合奏練習中にトロンボーンの友杉さんにそう言われた。

俺たち金管八重奏1年組の曲「モールスランブル」はモールス信号をモチーフにした曲なので、歌うような柔らかい音よりもまっすぐしっかりした音が求められる。

自分でもそれは分かっているけれど、人に言われるとやっぱりちょっと悔しい。

シオさんから教わったことは今も実践しているし、自分でも前よりも音は進歩している気がする。

でもやっぱり俺の音は柔らかい。

柔らかい音ってのは優しいメロディやゆったりした曲調にはとてもマッチするのだが、マーチや迫力のある曲の中では弱々しく感じられてしまい、マッチしない。

今回の「モールスランブル」もそう。

邦人作曲家の曲だから自分から「1stやりたい」って手を挙げたけど、今思えば音色からしたらユリが1stのほうが合ってそうだったな。

今更パート交換しない?なんて言えないし、言いたくもない。

それはとても悔しいし情けない。

でも、このままじゃ壊れて迫力のないモールス信号しか表現できない。

それはもっと悔しいし情けない。

俺はカナさんに相談してみることにした。



「お、ライバルチームが偵察にきたの?」


「違います。ちょっと教えて欲しいことがあるんですが…」


「敵に塩を送るわけねーだろー!…ってウソウソ。なあに?おねーさんに相談してごらん」


「…今すぐ音をまっすぐ硬くしたいんですけど…」


「1日2日でどうにかなってたら今頃皆プロだよw」


「そうですよねぇ、ドーピングみたいなものなんて、ないですよねぇ」


「無いねぇ。練習あるのみだね。でもレージ昔よりは良くなってると思うよ。まぁ少人数でしかも1stだから目立っちゃうんだろうね」


「そうなんですよ、やっぱユリが1stのほうがよかったのかなぁ」


「そんなこと言わない!せっかく1stやってるんだから、やりきりなさい」


「はい」


「そういやレージの音遠くからたまに聞こえてくるけど、「モールスランブル」の最初、ちょっと下からいきすぎだね」


「下から?」


「なんか音を下から持ち上げてる感じ。なんかこう…ンワアアア~ンって感じ。あぁ、演歌のコブシみたいな感じになっちゃってる気がする」


「そうっすね、出だしまだまだ弱いっす。でも出だし意識すると乱暴になっちゃうんです」


「もうちょい上から音出す感じがいいかな。胸の辺りからウエーって感じじゃなくて、頭の上からまっすぐ前に向かって音出す感じ」


「頭の上からかぁ、前にシオさんにも同じようなこと言われたかも…」


「じゃあ意識しろwあとレージ、お前過剰に出だし失敗するの怖がってるように感じるな」


「うーん…そう、ですかね?」


「まだ練習だし失敗してもいいって思って勢いつけてやってごらん。そして上手くできたらそのときの感覚を忘れずにイメージして繰り返すって感じかな」


「なるほど、いいときのイメージか…わかりました!ありがとうございます!やってみます!」


「おうよー」



元の場所に戻ると、まだ合奏の時間までは時間があるのにトロンボーンの藤原さんとユーフォの谷川さんがいた。

谷川さんが手を振りながら口を開いた。


「あ、佐々木君、待ってたよー」


「どうかしたの??」


「一緒に練習しようって、コヨミちゃんが」


「あ、あのね!昨日佐々木君アイリちゃんに音色のこと言われてたでしょ?でね、私とヤヨちゃんも佐々木君と同じような音色だから、一緒に練習してみようかと思って…ど、どうかなぁ?」


藤原さんは金管八重奏1年生組で一番控えめな性格なのでちょっと意外だった。

自分からこういうこと提案してくるなんて思ってもなかったので、びっくりした。


「確かにうちら似た音色同士かもね、出だし弱くてまっすぐじゃない感じ」


「そ、そうなの。だからヤヨちゃんと話して、一緒に練習してみたらいいかもってなったの。あ、強制してるわけじゃ、ないんだよ?」


「同じ悩みを持つもの同士で練習したら、何か見えてくることもあるかなーって。もちろん漠然と練習するわけじゃないよ?色々意見持ち寄って、ね?」


「…なるほど…わかった。やってみよう」


「ほ、ホント?」


「うん」


「あ、ありがとー、佐々木君!良かったぁ」


「10分後くらいからでいい?」


「うん!」


「じゃ、それで」


そう決まって藤原さんと谷川さんは戻っていった。

悩んでるの自分だけじゃないんだなー、と思ったらちょっとほっとした。

そうだよな、ユリだって「音が乱暴なんだー」って悩んでたし、きっとカナさんやナツキさんだって悩みながら練習してるんだろうな。

それぞれ音に個性があって、欠点を修正するために努力してるんだな。

一人じゃ分からなくても、誰かに聞いたり、誰かと一緒に練習したりしてもがきながら進んでくんだな。

そう思ったら、気が楽になった。

と同時に、ユリに1st譲ろうかなんて思ってた自分を反省。

俺はさっきカナさんに言われたことを意識しながら、個人練習を再開させた。



10分後3人で練習をした。

うちら3人やっぱり似たもの同士らしく、最初のロングトーンでンワアアア~ンとなった。

俺はカナさんから言われたことをみんなに伝えたし、2人もそれぞれ聞いたこと感じたことを教えてくれた。

3人とも控えめな性格だったからたどたどしく、搾り出すようにだったけど(笑)

今すぐ上手くなれるわけじゃない。

でもちょっとだけ、一歩だけだけど、理想の音色、理想の音楽に向けて前に進んだ気がする。

自分とみんなの力で上手くなっていく、そんな当たり前のようなことを再認識したのだった。



「おう佐々木!なんか3人でイチャイチャ仲良く練習してたなあ!ハーレムだな!ハーレム!」


合奏前にさっそく中森さんにイジられた。


「イチャイチャしてねーし」


「そ、そうだよトモちゃん。私たち音しっかりさせようと思って」


「おうコヨミ!いい心がけだ!」


「えへへ」


1日で何かが劇的に変わるわけではないけれど、合奏前に3人で練習したことで意識が高まり合奏中は常に音の出だしや質に関してイメージすることができた。

そのおかげか昨日よりちょっと進歩した気がする。

友杉さんにも「3人とも意識していることがわかる。私も負けずに乱暴にならないように注意しなきゃ」とちょっと褒められた。

個人個人が影響しあって高めあってる、すげーいい状態な気がする。

ちょっとした衝突もあるけどこの8人、なかなかいいチームなんじゃないだろうか。



「なんかさ、私正直アンコンって人数少なくて苦手意識あったんだけど、今はちょっと楽しいかも」


練習後楽器を撤収作業をしていると勝又さんがふとそうつぶやいた。

あんまりそういうこと言わない人なのでみんなポカン。

数秒の沈黙の後、中森さんが口を開いた。


「ユーカどうしたの?なに急にデレてんの?」


「いや別にデレたわけじゃないけどさ。なんかちゃんと8人でアンサンブルしてる気がする。中学のときって目の前の楽譜さらうのでいっぱいいっぱいでさ、周りを意識する余裕まであまり持てなかった気がする」


「そーだね!私も今結構楽しい!中学ん時よりもちゃんと合奏してる感あるよ!」


小さな体でテューバを抱えながらテューバマンこと菊地さんがそう言う。


「うん、ちゃんと合奏してるし、ちゃんと楽曲も消化できてる気がする。だからか毎日楽しい」


「デレまくってますなー。そんなにウチらが好きか?」


「楽しい。好き」


「!?…お、おぅ」


逆に中森さんが恥ずかしくなって顔を赤くしながら視線を逸らした。


「私、もっとこの8人で長く練習して「モールスランブル」上達させたいよ。だからさ、頑張って校内予選、突破しよ」


あの真面目で優等生キャラの勝又さんがいつに無く素直にデレまくっている。

うちら7人は顔を見合わせて、笑顔で声を揃えた。


「「「「「「「おう!」」」」」」」



だが俺たちはその時気づいていなかった。

俺たちの後ろで不適に笑う、あの人たちの存在を。


「くくくくく、1年生ども気合入ってますなぁ。だが忘れてないかね?2年生は2年生で気合入れて練習してることを…」


「カナなにその悪役キャラ」


「ふはははは!ここまで登ってくるがよい!我々2年生が1年生ごとき、蹴落としてくれるわぁ!」


「だからなにその悪役キャラ」


「目にもの見せてくれるわ!!!」


「もういいや」


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