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第5話 初めての全体合奏

「僕らのコンベンション」、軽快な旋律とメロディアスなパートがとても印象的な曲。

この曲は去年の課題曲Ⅲで、俺の思い出の曲となっている。

1stやった去年の最後のコンクール、県大会で終わっちゃったけどとてもいい思い出。

そんな俺の好きな思い出の曲を高校に入って最初の合奏で1stでできるなんて、なんか運命的な感じ。

ただ、指揮者がカナさんで、もう一人の1stがシオさんなので、すごくキンチョーする。

カナさんは指揮棒持つと性格変わるらしいし…。



今日はその「僕らのコンベンション」の合奏初日、楽譜が配られた翌日というなかなかドSな日程。

カナさんは指揮の準備のため、指揮台の上でハーモニーディレクター(なんかすっごいキーボードみたいなの)を使っていろいろやってるので、合奏前にトランペットパート5人でチューニング(音程あわせ)。

一人一人B♭を出していく。

そして俺の番…


「レイジ緊張してるでしょ?音程低いし出だし最悪。」


冷静かつ的確にシオさんは俺を攻めてくる。(あぁっ、そんなに攻めないで!)

昔から緊張がすぐ音に現れてしまうから、チューニングすっごく苦手。

すんなり終わるときもあれば(ごくたまに)、ずーっと合わない時もある。

なんかコツがあるんだろうけど、全然わからない。

「いろいろ考えすぎ」とよく言われてるけど、よくわからない。

「もう一回」と言われ俺は再度B♭を出す。


「最初は合ってるけど、すぐにどんどん下がってく!」


本当に、昔から緊張がすぐ音に現れるみたい。

その後何回かやり直し指摘も受けてチューニングを終え、合奏する部屋に向かいます。

他のパートもパラパラと揃ってきました。


「まー最初だから緊張するだろうけど、あんま考え込まず力入り過ぎないようにね。」


シオさんからそう言われましたが、全然耳に入っていなかったかも。

パートのチューニングうまくいかないと、結構後に引きずるんだよね。

基礎合奏のチューニングとか、失敗するとどんどんはまっていくよね。

俺みたいな性格は特にそう。

考えまくって何が何だか分からなくなってくる…負のスパイラル。



「うしゃー!じゃあまずは基礎合奏やります、よろしくお願いします。」


カナさんが言うとみんなが揃って「よろしくお願いします」といい、空気が変わる。

チューニングのためにハーモニーディレクターでB♭の音を出して、個人を指すために指揮棒を持つと、そこに居たのはさっきまでのカナさんとは明らかに違っていた。

さっきまでの明るく笑って、楽しいオーラに包まれていたカナさんの目はキッと引き締まり、笑顔が心なしかサディスティックな感じに変わり、ピリッとしたオーラに包まれた。


「な、変わるって言ったっしょ?」


シオさん、いくらなんでも変わりすぎです。


Tubaなどの低い楽器から、ハーモニーディレクターの音に合わせて重なっていく。

時たま止めて、個人を注意してやり直させるカナさんに、1年生はビビリはじめている。

ユリでさえ、あまりの変わりように顔が強張っています。


「はい、次ペット!」


シオリさんから順に重なっていく。

あ…どうか個人で指摘されないように…。


「ストップ。今日は2、3年生は大体OKです。ただミズホさん、もうちょっと音大きくください。ナツキはちょっと高め」


…そして1年生が呼ばれる…。


「ユリはちょっと音が乱暴かな?音程は合ってるけど、もうちょっとやさしめに」


ユリが「はい」と答えると、カナさんは俺の方を向いて、ニヤッと…


「レ~イジ~。あんたはまず音がちっちゃい。もっと自信持って吹きなさい。それから多分音程低い。ちょっと一人でやってみて」


キター…来てしまった。

汗をかき苦笑いをしながら俺は、カナさんの指揮に合わせて一人でB♭を出す。


んプェーーーーー↓。


おおおおおおおおおお、やってしまったかも…。


「音程出だしから低い。しかもその後だんだん下がってくる。緊張のしすぎ!ただそれよりも…」


それよりも…?


「出だしが失敗しすぎ。アタックが弱いよ。パート練のときも思ったけどレイジの音ってドングリ型なんだよね。出だしてからちょっと経つと音も大きくなるし、響き始める。スロースターターなんだわ。もっと、こうできんかな?」


といってカナさんは後ろの黒板に図形を書きだす。


「こんな、タケノコみたいな感じでさ。今聴いた感じだと最初が弱々しくて明らかに「俺自信無いですぅー、緊張してますぅー」って感じに聴こえる。」


あぁ、それ中学時代にもすごくよく言われた気がする。

「はい」と答え、もう一回吹いたが、また失敗してしまった。


「ん~、力入りすぎだね、リラックス、リラックス、深呼吸。もっとどっしり構えて向かってこいや!」


そうは言われてもこうなると負のスパイラル。

やべー、早く合わせないと、みんなに迷惑がかかる。

うおぉ、やばい。

あ、失敗した。

ユリもみんなもそんな不安そうな目で見るなよぅ…アワワワワ。

その後何回かやり直してるうちになんとか音は合ってきたので、


「んー、最初だし緊張してるんでしょう。今回は許そう。ただ、次回やったら退席してもらって一人でチューニングさせなおすから!」


不気味な笑いを残して、嵐は過ぎ去っていった。

音の形の癖は、また時間かけて修正していくとして、音程や出だしは明らかに俺のメンタルの弱さ。

中学時代も言われたなぁ…。

「考えすぎ」とか「緊張しすぎ」とか「力入りすぎ」とか…。

合奏デビューは最悪なものになってしまった。

まぁまだこれから基礎合奏と曲合奏があるんだけどね。

音って結構、性格やその時の精神状態や気分が正直に表れてしまうものだ。



軽く傷心気味のままチューニングは終わりました。

最後の全体でのチューニングの時にカナさんに一瞬睨まれた気がしないでもないけど…キニシナイ。


その後の基礎合奏がまた地獄。

難関ロングトーン。

「んっだよ!ロングトーンぐらいでよ!」と思う人もたくさん居るかもしれないけど、一回音程で失敗してしまうと結構引きずってしまうものだよね。

8拍伸ばすのですが、みんな同じ音なので音程のズレがすぐ分かってしまうし。

しかしそこばかり集中していると、音の出だしやボリューム、響きなどの注意が散漫になってしまうし。

次のハーモニー練習なんて最たるもの!

あはははははははは!カナさんチラチラ見てる!

どんだけ俺のこと好きなんすか!



リップスラーやら刻みの練習なんかをして、ついに、曲合奏!

もらったばかりでピカピカの楽譜を出す。


「え~、じゃあ曲練始めます。1年生は初合奏だね。まぁ去年の課題曲だし、「僕らのコンベンション」は知ってる人も多いだろうから気楽にね。知らない人や初心者の人は、段々でいいから、曲覚えようね」


カナさん随分慣れた感じだなー。


「じゃあ、まぁとりあえず一回通してみましょうか!」


2、3年生の先輩方はすでに練習していたから、多分通るだろう。

昨日配られたから初見の人も少ないだろうし。

問題は自分…。


カナさんが指揮棒を構える。

部屋の空気は一変し、静寂。

カナさんが、ふーっと息をはいてから、指揮棒は動き始めた。


始めからさっそく金管の見せ場、ハッキリとした明るい旋律が響く。

そしてHrによる流れるようなメロディー。

その後同じメロディーにみんなが加わり、軽快に進んでゆく。

中間部、ボリュームが落ちて木管のキレイな旋律が流れる。

メロディーに金管が加わり、じわじわと曲のクライマックスに向けて盛り上がりを見せる。

そして最後の締めくくり、解き放たれる最後のメロディー。

盛大で、明るく楽しい、爽やかな旋律と伴奏がが曲を盛り立てて華やかな刻みで曲を終える。


指揮棒を降ろされ、全体の緊張感が解ける。

あああああああああああああああああああああああああああああ。

軽快?爽やか?ど・こ・が!!??

重くて、フニャフニャして、暗いだろーが!!オレの音!!


「うん、まぁ色々言いたいことはあるけれど、今日はあと数回通して曲の感じを掴んでください。そのあと各パートリーダーに伝えるんで、パート練してみんなに伝えてください」


カナさんは苦笑しながら言っていましたが、何となくペットパートの方を見るときだけ目が鋭かった気もしないでもなく…。

やべー、1回通しただけなのになんかすごい疲れた。

額は嫌な汗をかき、あまり演奏中のことを覚えていない。

いろんなことを考えていたはずなのに、何もできなかった。

チューニングのときに言われたことも守れていない。

…悔しい。



その後結局2回通し、全体合奏は終了。

またパート練に戻っていった。

カナさんとシオさんが来るまで他の4人(ユリ、俺、ナツキさん、ミズホさん)で反省会。


「初めての合奏どうだった?」


ミズホさんが俺らに聞いてきました。


「うー、全然できませんでした」


とユリ。


「…ボロボロでした」


と俺。


「レイジはちょっと、力入りすぎだな」


ナツキさんが真顔で言ってきました。

あー、ナツキさん2ndだから横なんだよね。

見られてたのかな?


「横にいてびっくりした。顔怖かった。見るからに肩に力入ってたし」


あー、やっぱり、どうりで肩凝ってるわけだ。

どうやらいろんなところに余分な力が入りまくりでガチガチだったそうで。

渋い顔で…考え込んでる感じで…いっぱいいっぱい。

しかもクールなナツキさんに真顔で言われるから、結構くる…。

ユリもユリで緊張していたらしく、随分と空回りしていたそう。

ナツキさんがうんうん頷きながら、俺とユリは意気消沈、ミズホさんは優しくニコニコ笑っていた。

うーん…「去年吹いたから余裕~」とか思ってた自分が甘かった。


そんなことを話しているうちに…

あの…

トランペットパート恐怖の2トップが…

俺たちのほうを見ながら…

ニコニコ(ニヤニヤ)しながら…

近づいてくるのだった…。


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