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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第66話 俺の背中を越えてゆけ

アンサンブルコンテストに向けての練習が始まって約1週間、初見大会以外では今日始めての合奏をすることになった。

前回(第65話参照)の件から俺とユリはもう少しお互いの音を聴くようになった。

改めてユリの音を聴くと、不思議なもんでやっぱ俺の音とはちょっと違うんだよなぁ。

俺よりユリのほうがハッキリした音、ちょっと力強すぎる気もするけど今回俺たち金管八重奏1年生組が演奏する曲の「モールスランブル」には、ユリみたいなまっすぐなしっかりした音が合っていると思う。

俺も、負けられないな。



「はい、じゃあ基礎練はここまでにして、1回「モールスランブル」通してみましょう」


金管1年生8人が集結し、基礎練習を行っていた。

ちなみに金管1年生は俺以外はみんな女子!

ハーレム、ハーレムですよ!皆さん期待のハーレム小説ですよ!?

そうだったらいいのにね、チヤホヤされたらいいのにね、ホントにね。

初めて8人で練習するので、さっそく「誰が仕切る?」「誰がリーダーになる?」などの話になったが、なんだかんだでユリが仕切ることになった。

ユリは困ったような表情で「う~~~、もうしょうがないな」と言いながらも満更ではないような様子だったので、「さすがお母さん」と言おうとしたけどやっぱりやめた、後が怖いからw

はいそこ、男子一人だけなのにお前仕切らないのかよとか言わない!

ジェンダーレスですよ、ジェンダーレス!


「試しにメトロノームも無しでやってみていいかな、本番みたいに」


「はーい」


アンサンブルコンテストが普通のコンクールとは違うのは編成人数だけではなく、指揮者がいないことも大きな違いなのです。

指揮者がいないってことはテンポの基準となる人がいないわけで、8人で演奏しながらテンポをコントロールしていかなくてはならないので大変なのです。


「じゃ行きます…」


「モールスランブル」演奏開始。

まずは俺とユリ、トランペットパートの掛け合い。

ここはユリと2人で事前にちょっと練習していたから、止まらずに進む。

やっぱ音違うなぁ、俺の音全然モールス信号っぽくない。

掛け合いが終わるとテューバ、ユーフォニアム、トロンボーン、ホルン、トランペットと音を重ねていき、メロディが進んでいく。

モールス信号がモチーフなので、まっすぐ揃った音がかっこいいのだが、8人でなかなか音が揃わない。

それどころかまだ序盤だというのにテンポがジワジワ速くなっている気がする。

個人個人それなりに練習して吹けているとは思うのだが、全然合ってない気がする。

中盤、少しゆったりしたパートに入る。

テンポは落ち着いた。

こういうパートのほうが俺が得意なんだよなぁ。

ユリの音を聴くと、ちょっとトゲトゲしている気がする。

お互いにもうちょっと歩み寄らないと…音が溶け合うまでにはもう少し時間がかかりそう。

終盤、再度音を重ねていきメインメロディが盛大に盛り上がる。

みんなテンションMAX。

テンポもMAX。

音の縦軸の揃わなさもMAX。

しっちゃかめっちゃか、テンポがどんどん速くなる。

音もバラけているし、何より奏者自身に周りの音を意識する余裕が無い。

俺も全然周りの音が聴こえなくなってしまい、好きなように吹いてしまった。

なんとか止まらずに演奏を終えたけど、数秒の無言。

…。


「…ヤバイね」


「うん」


「最後なんてもう曲として成立してなかったね。なんか個人練習の合体というか…」


「うん」


みんな唖然。

中学校のときもアンコンやったけど、やっぱアンサンブルって難しい。

その後8人みんなで思ったことを言い合ったが、やっぱりみんな思っていることは同じだった。

縦が合ってない、音が混じりあってない、後半冷静さを欠いてどんどんテンポが上がっていった…うーむ、先は長そうだ。

校内選考までに8人の音、冷静に溶け合わせることができるのだろうか…?



「うひゃひゃひゃひゃ、今1年生たち合奏してたよ?絶望してますなぁ!ねぇ、ナツキ」


「その悪役の子分みたいな笑い方やめろ。てかうちらも言えるほどまだ上達して無いでしょ?」


「まぁそうなんだけどね。1年生たちだけで試行錯誤しながら進めてくってのもかわいいもんじゃん。なんかユリが進行役っぽいよ?やるなぁあいつ。来年のパートリーダーはユリかなぁ?レージは…うーん、まだ受け身だなぁ」


「確かに今の感じだとユリのがパートリーダーっぽいかもね」


「ね、レージはこれからどうなっていくか、楽しみですな」


「ほらうちらも合奏練習するよ」


「へーい。なんか合奏先越されちゃったね、1年に」


そう、偶然にもうちら2年生も今日から曲の合奏をするのだ。

うちらの曲は「第七戦法のカンツォーネ(ジョニバン・ガブリエール)」、金管八重奏ド定番の曲!

ちなみに私が1stでナツキが2nd。

この前の夏まで仲間だったレージとユリが今度は校内選考でアンコン出場をかけて競うライバルになるというアツい展開!

私は結構燃えているのかもしれない!

先輩の実力、見せたるけんのう。

そんなことを思いながら合奏練習のためにナツキと2人で皆のところに向かっていく。

練習場所にはテューバの藤原が一人でポツンといた。

トロンボーンやユーフォ、ホルンはまだ来てないみたい。


「ありゃ、お邪魔だったかしら」


「うるさい」


藤原は静かに笑っている。

お前は一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べてる人かっつーの!


「なんかさー、私とナツキの音最近合いづらくなってきた気がするんだよねー。ナツキの心が私から藤原にいっちゃったからかなー?」


「元から私の心はカナに向いてないし」


「ひっでぇwでもそのおかげでアンコンはいい感じになりそうだね!トランペット2ndとチューバの音はすでに合いまくりだしね!」


「カナよりは合わせやすいだろうね」


「ひっでぇwつーか最近2人はどんな感じなの?デートとかしてる?手とか繋いだ?チューとか」


「うるさいっつーの!」


「すまぬ!」


藤原は静かに笑っている。

お前は東に病気の子供がいたら行って看病してやる人かっつーの!

イジり甲斐のあるおもちゃができて私は大満足(※イジりすぎには注意。ナツキは怒ると怖いし、藤原は未知数。もしかしたら一気に決壊して大爆発が起きるかもしれない)。

そんなこんなで他のパートも来たので茶化しは終了、2年生の合奏始めるか!

見てろよ?いや、聴いてろよ?1年生!

それ聴いて、何か感じろ!



「今の2年生の合奏聞こえた?」


「聞こえた。さすがにまだ荒削りだけど、もうウチらより音合ってた」


「てかやっぱみんな音キレイだね」


「まぁうちらまだ1年だし、今年はねぇ…」


「うん、まぁ…」


「…」


「そーじゃないでしょーーーー!」


ユリが大きな声をあげた。


「やるからにはアンコン出場目指すの!金管2年生に今は負けててもまだわかんないでしょ?それに」


「それに?」


「出場枠は4枠もあるんだから、金管1年生2年生両方出場しちゃえばいいんでしょ!やる前からそんなんじゃモチベーション上がんないよ!!!」


「なんかユリ燃えてるなぁ、どうしたの?」


「今日カナさんに言われたの」


「なんて?」


「「まぁ1年生同士仲良しこよしでマッタリやってくださいな。せいぜい私たちのかませとして頑張ってくだされ。しかしユリもよかったね、レージと2人でイチャイチャできて!」って。まぁカナさんの言うことだから冗談なんだろうけど」


うっぜええええええええええええええええええええ!!!

ユリはカナさんの表情を真似してヘラヘラしながらそういった。

その瞬間俺たち7人の心にちょっと火がついた。

「負けねぇ」その言葉が全員の頭の中に浮かんだ。


「そう言われちゃ、黙ってられないね!」


「私、アンコン出場本気で狙うよ!」


「やったらあああああああ!下克上じゃあああああ!」


「あ、佐々木君とイチャイチャはしていいよ?面白そうだし」


「いや、それはない」


みんな俄然やる気が出てきたようだ。

俺もなんかやる気出てきた。

今までやっぱ俺含めみんなどこかに「1年生だし、今年はダメだろうな。まぁ来年出られればいいや」って気持ちがあったのだろう。

それが一気に吹っ飛んだ!

やってやる、2年生にだって負けないくらいの曲完成させてやる!

史上最大の下克上、3位からの日本一、見とけやあああああ!


「しかしユリお前カナさんの物まねすごい上手かったな。あのヘラヘラした顔から出る憎たらしい雰囲気がそっくりだった」


「うん、私も思った。すごい似てたー」


「もう一回やってー!もう一回やってー!」


「…練習するのーーーーー!!!」


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