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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第62話 ナツキ様の大決断

ミズホさんに相談して、なんかスッキリしました。

そして少し頭の中が整理できて、この問題に前向きに検討することができるようになりました。

やっぱり誰かに相談するのって大切ですよね。

誰かさんに相談したらかき乱されそうだけど、

私は今までのようにぼんやり考えてワァワァ言っているのをやめて真剣に考えることにしました。

もちろんその間も部活は続くので、藤原君と目が合ったりすることはありましたが、前のように目を逸らすことはなく、ぎこちなくだけど軽く話したりもしました。

だんだん藤原君と話すのも、顔を合わせるのも慣れてきたのかも。

毎日布団の中で藤原君のことを考える。

私は藤原君のこと、好きなのだろうか?

藤原君と、付き合ってみたいのだろうか?



それから1週間、私は自分の気持ちを決めました。

でもそれを伝えること、返事を返すことってすっごいハードル高いですね。

毎日言おう言おうと思っていても、結局何もできずに1日が過ぎていく。

今日も一日中「今日こそは言おう」と思ってましたが、なかなか声をかけるチャンスがなくオロオロしてるばかりでした。

先週は軽く話せたりもしたのに、今週になってまた話しづらくなってきています。

うーん、今日も言えなかった。

そう思いながら布団に潜り込む。

一日一日、時間は過ぎていく。

気持ちは決まってるんだから、いい加減言わなきゃ!

回答を伸ばし続けてると結果的に藤原君を傷つけてしまうかもしれないし。

明日こそ言おう。

そう決心して眠りました。



はい言えませんでしたー。

やっぱり難しいねー…私のバカバカバカバカバカ!!!

なんで言えないんだ、この意気地無し!

ホント何やってんだ私はもー!

昨日の決心はどこいったんだよ!

明日だ!

明日こそ言ってやる!

明日こそ私の気持ち、伝えるんだ!



3日後の夜。

結局※印の部分を3日繰り返し、私は布団の中にいました。

なんてことだろう。

1日延ばすごとにどんどん言いづらくなってきている。

最近心なしか藤原君もソワソワしている気がする。

もう告白されてから10日以上経っているし、そりゃソワソワもするよね。

私はこんなに臆病だったのか。

自分から告白するわけでもないのに。

藤原君のほうが何倍も緊張したんだろうに、ホントに自分自身が情けなくなってくる。

今日だって…


「か…唐川さんおはよう」


「お、おは、おはは、おはよふ」


これだけなのに噛んでしまう。

私はこんなんだったっけか。

…ミズホさんにまた相談してみようか…「どうしたら返事できますか?」って聞くのか?

ダサい、さすがにダサすぎるぞ、私。

「勇気出して」くらいしか言い様無いだろ、そりゃ。

さすがにそこまで迷惑かけられないだろ。

…ミズホさんにいっしょに付いてきてもらおうか…。

少女漫画とかでも友達についてきてもらう描写見たことあるし。

いや、さすがに受験控えてる先輩についてきてもらうってのはまずいよね。

ミズホさんにそこまで迷惑かけられないだろ。

藤原君も面食らっちゃうだろ、そりゃ。

…自分で何とかするしかないか、やっぱり。

連絡先は知ってるし、直接会わずに言っちゃうとか…いやいや、藤原君は直接会って言ってくれたんだし、それは失礼か。

布団の中でモゾモゾ動いたり、頭抱えて「うわああああああ」って言ってゴロゴロ転がったり、全然落ち着きません。

そんな時スマホにメッセージが1件。

見てみるとミズホさんからでした。


>お返事した?というか気持ちは決まった?


私はすぐに返事を返します。


>気持ちは決まりましたが、まだ回答できてないです。


数分後…


>なかなか回答できなくてモゾモゾしてるんでしょ?直接会って告白されたんだから、直接言ってあげたほうがいいよ。


全部全てスリッとまるっとお見通しだったみたい。


>でもなんか声かけるのが怖くって。


>例えば、会う約束だけメッセージでするとか。それならハードル低いし。


なるほど、メッセージで約束だけ取りつけて、あとは直接言う、と。

約束しちゃえばもう会うしかなくなっちゃうしね。


>ありがとうございます。その方法やってみます。


>頑張れー!


そのメッセージの後、かわいい猫が「Fight!!」と言っているスタンプが送られてきました。

よし、それで行こう。

早速藤原君のアカウントを選択します。

今まで藤原君の連絡先は知ってるけど、メッセージのやり取りなんてしたこと無かったので履歴は空。

そこに文字を打っていく。

誤字脱字の無いように、失礼の無いように。


>藤原君、夜遅くごめん。もう寝てるかな。


勇気を振り絞って送信する。

既読は付くだろうか。

もう寝ちゃってるだろうか。

ちょっとだけ待ってみようと、私は自分の送ったメッセージを見続けました。

ちょっと堅苦しかったかな?

数分後既読になりました。

一気に体中に血液が流れる感じになり、体が熱くなりました。

そのまた数分後、


>起きてるよ。どうしたの?


若干手が震えながら、返信文を打っていく。

うー、手に汗かいて打ちづらい。

…送信っと、行け!


>この前は告白してくれてありがとう。お返事をしたいので、明日の練習終了後にこの前の場所に来てくれないでしょうか?


すぐに既読がつきましたがそのあとなかなか返事がきませんでした。

結局5分後…


>了解!


と返事が来ました。

私は「ありがとう、明日はよろしくお願いします。おやすみ」と送信し、顔まですっぽり布団をかぶりました。

うおおおおおおおおおお、ついに会う約束になってしまった!

明日、明日が勝負だ!

やるぞ、やってやる!やってやるぞ私!

でもなんて言えばいいんだろう。

上手く言えるだろうか。

結局私は藤原君から「おやすみ」と返信があったことも気づかずに、夜遅くまで布団の中で明日のシミュレーションをしていました。



翌朝。

正直ちょっと寝不足です。

ただ疲労はありますが、緊張と興奮からか不思議と眠くはないです。

授業も練習もちゃんと集中して受けましたが、暇さえあれば今日のシミュレーションをしていました。

どう言ったらいいだろうか。

上手く伝えられるだろうか。

そんなことばかり考えていると、授業も練習もあっという間に感じ、気づくともう練習は終了していました。

勝負の時間です。

私は、藤原君に告白された部室の裏に向かいます。

上手く言えるかな。

藤原君どんな反応するかな。

部室裏にはまだ藤原君は来ていません。

そりゃそうだよな、練習が終わって楽器も片付けずにさっさと出てきちゃったし。

一人でぼんやり校庭を見ていました。

この2週間は本当にドタバタだったな。

告白なんて初めてされたし、なにをどうしたらいいのかさっぱりだった。

でもミズホさんに相談してホントに良かった。

何から何までアドバイスもらって、本当にいい先輩だなー、って。

ミズホさん、チョコミントアイス好きだったよな…でもさすがにアイスは渡せないな。

全部終わったら、クッキーでも持ってちゃんとお礼言おう。


「唐川さん、待たせてご、ごめん」


ふ!藤原君が!来た!来ちゃった!もう来ちゃった!

藤原君は緊張してるせいか顔が真っ赤。

多分それ以上に私は緊張して、視界が揺れ始めた。

まずい、緊張しすぎてわけがわからないよ。

喉が渇いて息が上がる。


「う…」


声が上手く出せないし、藤原君の顔を直視できない。

目の前はグニャグニャになって、体もちょっとふらつく。

あ…まずい。

まずいまずいまずい!

せっかくシミュレーションしたのに…言うこと全部吹っ飛んだ!

どうするナツキ!?


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