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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第51話 みんなの成功体験

合宿最終日。

前日と同じくラジオ体操と朝食を済まし、個人練習、パート練習と続いた。

最終日なのでこの後全体合奏をして昼食を食べてから帰宅、合宿は終了する。

合宿最後の全体合奏。

3日間やってきたことを確かめる場。

遊んでばっかじゃない、やることはやってきたんだ!



「じゃあまずは1回課題曲と自由曲を通してみます。この合宿で個々に取り組んだことを思い出しながらやってみてください」


井口先生がそういうと指揮棒を上げた。

全員楽器を構える。

俺は…出だし!出だし!曲最初の出だしだ!しっかりと!でも汚くならずに!

ここ数日、いや4月からやってきたことを思い出す。

今は本番じゃない。

でもここでできなきゃ本番でもできるはずがない!

行くぞ!!!

コンクール課題曲「マーチ「ブラック・スプリング」」。

先生が指揮棒を振る。

演奏の出だしのファンファーレ…よし!籠らず、汚くならず、ちょっとばかし弱い気もするけど、前に比べたら上出来のはず!

演奏は続く。

木管のフレーズを聴きながら気持ちをクールダウンさせる。

すぐにトランペットの裏打ちの刻みの部分が来る。

頭をつぶさないように、でも飛び出さないように…地区大会ではそこそこうまくいったけど、正直いままでの成功率は高くない。

でもここだってずっと練習してきたんだ。

俺の頭の中に毎日の練習が思い出され、裏打ち刻みの部分に入った。

優しくかつスピードのあるブレス、よし!結構うまくいった!

裏打ち刻みの部分が終わるとトランペットも参加してのメロディ。

流れるメロディは元から結構得意だから、ちょっと安心して吹くことができた。

全体とペットのメロディを聴きながらメロディに乗っかった。

前半部分のメロディが終わると木管のトリオに入る。

少し休憩、本番じゃなくても緊張している。

でも今はどこか冷静な感じもする。

テンションは上がっているけど、自制はできている。

俺はふっと息を吐き、楽譜を見た。

今まで書き込んだいろんな注意点がいっぱい書いてある。

汚い字、でも書きこまれたすべてが大切なこと。

これだけ気を付ければいいのだ。

トリオの後半、ミュートを使った刻みの部分に入る。

ミュートがついている分音が鳴りづらいが、それなりにうまくいった。

最後のクライマックスに入る。

軽快なメロディ、1stの旋律を聴きながらその音に乗っかる。

やっぱ何回吹いても気持ちいいな、このメロディ。

自然と体が動いてしまう。

曲はクライマックスを迎え、シオさんの軽いソロを経て最後の音。

最後の音もちゃんと決めることができた。。

井口先生が指揮棒を下すと俺は一回深呼吸をした。

あっという間にまず課題曲が終了。

なんか…今なんかいい感じかも。

パーカッションが自由曲の準備をしている間に楽譜をめくり、もう一回深呼吸をする。

凄くテンション高く興奮しているけど、いろんなことを考えることができている。

ちょっと自分でもびっくりするくらい研ぎ澄まされている感じ。

それは自分以外も多分そうで、正直今日の演奏、良い!

みんな集中できている。

すぐに次の自由曲、井口先生が再度指揮棒を構える。


コンクール自由曲「トーマの祀り 1.チェンチルセス」。

トランペットの有名なフレーズから始まる。

縦の線をそろえて、明確な音ではっきりと。

シオさんやカナさんは熱を帯びたような音で勢いよく音を奏でている。

演奏も2人も熱くてかっこいい。

そう思いながら2人のメロディに乗っかる。

前半を吹き切ると、静かで少しおどろおどろしい木管によるフレーズ。

俺は少し休み、唇をむにゃむにゃして休ませる。

さすがに唇が少しジワジワして疲れてきた。

次はまた刻みの部分。

課題曲よりも目立つし難易度の高い刻み。

少しミスった。

地区大会よりはうまくいったような気もするけど、出だし籠ってしまった。

クライマックス、再度冒頭と同じトランペットフレーズ。

もう唇はちょっと疲れている。

音が雑になりそうなのをぎりぎりで何とかしながら吹き切る。

「トーマの祀り 1.チェンチルセス」終了。

やっぱ唇がちょっと痛い。

でも地区大会の時よりもペース配分できている。

あの時はもうここで結構キツかったもんな。


最後は「トーマの祀り 2.主権祀」。

超有名なメロディから始まる。

ミュートを刺し、対旋律を吹く。

音が重なり、あのハチャメチャ(失礼)なフレーズに入る。

どんどんメロディのテンションが上がる。

みんなも熱を帯びてテンションが上がっていく。

でもどこか冷静でいられている。

クライマックスに向けてテンポも上がり、音もどんどん重なってくる。

唇が痛い。

でもテンションはさらに上がり、全体の音が熱は最高潮になる。

それでもみんな冷静でいられているので、勢いに押されすぎないよう自制できている。

最後は曲のテンションに引きずられるようにして演奏が終わった地区大会とは違い、やっぱ今日の演奏は自分たちの気持ちををコントロールしながら演奏に集中できている。

最後に向かってクールに勢いを増していく。

最後の音まで…決まった!!!


演奏が終了し、静寂。

なんかみんなあっけに取られている。

ちょっと放心状態。


「…なんか今日、すごいいい演奏ですね!!!」


井口先生がすごいテンションで口を開いた。

みんなその言葉で我に返り…みんなで喜んだ。


「なんかすごくいい演奏できた気がする!」


「ずっと集中できてた!」


「練習の成果ちゃんと出せた!」


みんなでの成功体験、なんかすごく気持ちよかった。

俺も細かいミスはいっぱいしたけど、ちゃんと今まで練習したことがうまくできた気がする。

なんかこう、すごく…いい演奏だった。



その後全体合奏では通しの練習をメインにして、今の感覚を忘れないようにしつつ本番の感覚を養った。

俺もみんなも、3日間やり遂げたことで少し自信を持つことができたと思う。

というか今日の最初の演奏がすごくよかったから、みんなとても前向きだった。

合奏終了後のパートミーティングで、シオさんも演奏絶賛してた。


「レイジもユリも、今日の演奏よかったぞ!今まで言い続けてきたこと、大体できてたじゃん!」


「「ありがとうございます!」」


「あぁもう今日の最初の演奏良すぎたわ。なんかもうこれで終わりでもいいんじゃないか!っていうくらい…」


「よくないっすよ!そしたら今日で引退じゃないですか!10月まで引退させずにシオさん浪人させるんですから!」


「相変わらずカナは嫌なヤツだなぁ。でも今日の演奏、よかったっしょ?」


「めっっっっっっっっっっちゃ、よかったっっっっっっっっっす!!!」


清々しい気持ちで全ての練習を終了し、昼食を食べ、楽器を片付け、あっという間に合宿は終わった。

あっという間だったけど、濃密で、得られたこと多くて、いい演奏できて…最高だった!



「あぁ、パーカッションの片付け手伝ってたらバス乗るの遅れちゃった(妙に説明口調な独り言)」


バスに乗り込むとそこには、


「なんで…また横がレイジなの?」


プルプルと泣きそうな表情のユリ。

ユリの横と後ろではニヤニヤしているペットパートの先輩4人。

これは…デジャヴ?

なんで行きのバスでのトラウマほじくり返すようなことを!


「大丈夫大丈夫、今回は気をつけるから」


「ふ~ん、だといいけど」


「ただもしまた同じことになっちゃったら、よろしく頼むよお母さん」


「レイジのバカーーーーー!!!!!もう今度は勝手に吐けよバカーーーーー!!!!!」


こうして俺たちの夏合宿は終了。

さぁいざ、県大会!


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