第50話 水着回は無いけど、レク回なら…
合宿2日目。
朝6時半に何とか起床するとジャージを着て外へ、ラジオ体操するのだと。
高原だけあって朝は少し肌寒い。
寝ぼけ眼をこすり、あくびをしながらとても心地いい森林の中を歩いていく。
寝ぼけながらもラジオ体操をして、朝食をかき込む。
その後ホールに集合し、朝会を行ってから本日の1日練習開始。
午前中は個人とパート練、その後昼食を取り午後からは前日決めたセクション練習をこなした後全体での合奏を行った。
内容の濃い~い1日。
とても充実した1日。
でもめちゃくちゃ疲れた1日。
これぞ青春!って感じで大変だったけどとても楽しかった。
本当にあっという間に今日の練習が終わってしまった。
でもまだ今日は終わりじゃない!
なんと、今日の夕食はバーベキュー!!!
合宿のイベントの中での最大のレクリエーション!
19時に練習を終え、みんな外のバーベキュー場に集まった。
目の前には大量でいろんな種類の肉!野菜!酒!…は無理だからジュース。
「それじゃーバーベキュー始めましょー!肉はよーく焼いてね!集団食中毒で県大会出られないとか洒落にならないからー!」
「「「「「はーーーーーい!」」」」」
「早くー!早くー!」
「わーったわーった。それじゃ、今日も一日お疲れさまでした!明日最終日も頑張っていきましょう!いただきまーす!」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
バーベキューが始まった。
やっぱり男子ばっかの座席、野菜は端っこにちょこっとだけで網の上は肉が90%以上だ。
というか野菜は端っこで炭化している。
牛、豚、鶏、全部旨ぇー!
おにぎりも旨ぇー!
菅野平高原名物のマトンが一番旨ぇー!
臭みもないし、柔らかくて食べやすい。
これをコーラで流し込む!
あぁー、このために生きてるなぁー!!!
あるあるだと思うけど男子の席の肉は即効でなくなり、少食(を装っている人もいる)女子の席から肉を拝借。
また「よっしゃ食えー!」と肉を山盛り網の上に載せる。
バーベキュー最初の30分、男子たちは一心不乱に肉をかっ食らったのだった。
炭化した野菜は網の下に落として。
…
散々肉を食らい、ちょっとお腹も落ち着いてきた。
辺りを見回すと数人の1年生女子が先輩にジュースを注いで回っているのを見たので、なるほど!と思い俺もウーロン茶のペットボトルを持ってペットパート女子の席に向かった。
こうやって先輩たちの評価を上げておくことで、今後も居心地が悪くならないように気を使っておくのだ。
あわよくば「レイジ君って気が利く子だね」とか他のパートの女子に見られて、評価上げて、今夜あたり何かあったりなかったりーーー???
「あー、レージだー。どうしたの?女子に混ざりたいの?」
即効カナさんに見つかり、指を指される。
「違いますよ~。いつもお世話になっている先輩方にお酌でもと思いまして」
「なんか裏がありそー」
「裏なんてないですよ」
「わぁいホストだホスト。せいぜい女子たちを楽しませてくれたまえよ」
「ホストじゃないです!」
そういいながら俺はまずシオさんの横に立つ。
「ウーロン茶でいいですか?」
「うん、ありがとん!レイジも疲れたでしょ、昨日からよくがんばってたよ」
「そうですね、疲れました。そういえば昨日はすみませんでした」
「気にすんな、私もごめんね」
続いてミズホさんのところへ向かうと衝撃の光景が。
バーベキュー開始してから30分経ってるというのに目の前の皿には山盛りの焼かれた肉と野菜。
そして本人はニコニコしながらおにぎりをほお張っていた。
「ミズホさん最初っからずっとこんな感じで全然ペース落ちないの」
カナさんが「いつものことよ」という顔をしながら言った。
そういえばミズホさんってよく食べる人だったっけ。
でもこんなに…俺より食ってるぞ?
「カナちゃんひどい。食い意地張ってるみたいに言って」
「ぶっちゃけ食欲みなぎってますよ。私そんな食べられないですよ」
「むーん、そうかなー?」
ミズホさんは不満げ、でもまた一口おにぎりをほお張る。
「ミズホさんずるいです。私そんなに食べたらすぐ太っちゃいます」
今度はユリが不満げに言う。
ユリの前の皿には肉1切れ以外は全て野菜。
どうやらユリは太りやすい体質らしい。
「ミズホさんは食べた分が全て胸に行ってるからね~」
「「「ずるい!!!」」」
カナさんの言葉にシオさん、ナツキさん、ユリが声を揃える。
俺はそこには深く突っ込めないので、ヘラヘラ笑っているだけ。
「そんなことないよぉ。私太ってるよぉ」
「ミズホさんのは太ってるって言わないんです。それはむしろステータスですよ」
「「「そーだそーだ!!!」」」
「嫌味かミズホぉー!」
「太ってないで胸はある。納得がいきません。アニメキャラですか!?」
「貴族には貧民の気持ちなんてわからないんですよ。パンが無くて、ケーキも無いんですよぉぉぉぉおお!!!」
シオさん、ナツキさん、ユリが声を荒げる。
その横で同じく貴族サイドのカナさんはケタケタ笑っている。
あぁもう収拾つかん。
俺はお酌も忘れてヘラヘラしているしかできなかった。
だって一言でも言及すればそれは、セクハラじゃん?
ちょっとでも間違えれば一発アウトじゃん?
ミズホさんは「もぅ、みんな意地悪」とか言いながら豚トロ(油多め)を口に入れた。
王者の風格。
世の中は不平等だ、でも僕らはその中で一生懸命生きていかなくてはならないのだ。
…
バーベキューが終わるとみんなで片づけをして、今度は簡単な手持ち花火をすることになった。
なんか青春っぽいよね。
今日だけだよこういうイベント。
つーか花火なんて何年ぶりだ?
最近は家の前で花火なんてできないから、すっごい久しぶりな気がする。
小さいころじーちゃん家でやったのが最後か?
つーか花火だよな?
手持ち花火だよな?
火がついてる花火に「レイジ君、その火ちょうだい?」なんてことがあるんだよな?
「花火きれいだね」
「うん」
「…」
「…」
くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」
みたいなことが!!!!!!!!!!!
はいありませんでしたー。
男子は馬鹿みたいに花火ぶん回してガハハハ笑ってて、「男子ってバカだよねー」という女子の視線しかありませんでしたー。
いやそれもその場では楽しかったんだよ。
でも今思い返すと…もったいねーーーーー!超絶もったいねーーーーー!!!
と、入浴中男子のほとんどが後悔しつつボディーソープを泡立てるのだった。
…
「あ!レージだ!私にもジュース買って!」
風呂上り自販機の前で何買おうか迷っていると、カナさんがウザ絡みしてきた。
「あ、ウザ絡みだ」
「はぁあああああ!?湯上り美人女子に声かけられて興奮ものだろ?今晩寝られなくなっちゃうな!」
「ほらそういうことばっか言ってるから…」
「言ってるから!?」
「か…」
「か!?」
「か…彼氏が出来ないn」
「うるせぇよ!お前は入部してから彼女できたんかっつーの!失礼しちゃうわ!」
と言いながらもカナさんはニヤニヤ笑っている。
本当にノリが軽いというかなんというか、男友達はいるけど恋愛までには発展しない典型的な感じだぁね。
って言葉にしたら3倍になって返ってくるから言わないけど。
「レージもなかなか言うようになってきたねぇ。入部当時はチワワみたいにプルプルしてたのに」
「そこまでじゃないと思うんですけど…」
「いやでも嬉しいよ。女子の方が基本的に多い吹奏楽部で、男子って結構大変じゃん?こうやって普通に話しできるようになって、それは嬉しい。うちのパート、悪くないっしょ?」
「…そうですね。最初は結構不安なところもあったんですけど…今は、楽しいです」
「なら良し!男子も楽しくできてんなら、シオさんが目指したパートの雰囲気はほぼ達成できてるんだよね!それはシオさんにとっても、私にとっても嬉しい!」
そういってカナさんはくしゃくしゃに笑った。
ホントこの人、シオさんのこと好きだな。
いい関係だな。
「シオさんの目指すパートの雰囲気はほぼできたんだから、あとはシオさんの目指すパートの音色だ!県大会、絶対成功させて次の大会いくよ?まだ引退させられないもん」
「はい!」
「よろしい!」
そういうと2人で笑った。
なんか、入部当時はもっと女子に対して気を使っていたというか、探り探りというか、ある程度の距離を取ってたんだなぁ、と。
もちろんいきなりゼロ距離で来たらウザいんだろうし、今もゼロ距離じゃない(つーかゼロ距離ってもう付き合うってことじゃん)。
でもお互いに歩み寄って距離が近づいてきてたのは本当で、シオさんが目指してきたものが実現できているってことは俺も嬉しい。
なんかこう…「仲間」になった感じ。
俺も男子だけど、仲間として認められてるんだな。
それは凄く嬉しいし、居心地がいい。
もっと続くといいな、この6人。
「でさ、結局ジュース買ってくれんの?」
「普通先輩がおごってくれるもんじゃないんですか?」
「女子に金出させるなんてモテない男子の代表格だよ!?」
「金金言う女子もモテないっすよ?」
と言いながら2人でまた笑った。
結局ジュースは個々に買って、部屋に戻った。
他愛もないバカ話だったけど…楽しかった。
なんかほっとした。
俺、このパートで良かったわ。
明日も頑張ろう。
…
「で~、なかなかいい話して終わったんですけど、結局最後までホントにジュース買ってくれないんすよ、レージ!ケチにも程があるわwww小物www」
「お前やっぱモテないわ」
「シオさんひどい!!!!!」




