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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第49話 みんな同じ方向向いているということ

私が1年生の頃、トランペットパートのパートリーダーはキョウさんという男子の先輩だった。

その年3年生はキョウさん一人、2年生はマナさんたち女子三人、1年生は私とミズホの2人だった。

キョウさんって人は超絶イケメンなんだけど、とても無口で無表情。

よく言えばクール、悪く言えば超無愛想って感じ。

パート練習も和気あいあいな感じじゃなくて、淡々と進んでいって、キョウさんは無表情で指摘してくる。

私たちは基本的にそれに「はい」と答え、私たちからは基本意見は言わない、てかあまり言えない雰囲気。

みんな真剣に練習に取り組んではいるけど、楽しそうには見えなかったかもしれないね。

ある日マナさんがパート練習中に意見を言ったんだけどさ。


「あの…」


「何?」


「今のところ、もう少し弾む感じのほうがいいかなーなんて思うんですけど…」


「…いや、ここの解釈はこれでいい、じゃあ次」


「…」


「何?」


「…なんでもないです!あはは、もう一回お願いします!」


マナさんは無理やり元気にそう言った。

恐怖政治、私の頭の中にはその言葉がよぎった。

キョウさんめっちゃ怖い、これは何なんだ。

今まで私は高校の吹奏楽ってこんな感じなのかなー、なんて思ってたけど、その件から私はちょっと違和感と恐怖心を持つようになった。

だってそうでしょ?

後輩が意見言ってるのにきっぱり拒否なんだよ?

多少耳を傾けることもなかったんだよ?

それから私は少しずつキョウさんと距離を置くようになってしまった。

もちろん練習はちゃんとやるけど、基本練習以外キョウさんとはほとんど喋らなかった。

怖いから、避けるようになっちゃった。

後輩としてそれはどうなんだ?って感じだけどね。

結局トランペットパートの音色もあまりまとまりなくうまくかみ合わず、その年のコンクールは地区大会落ち。

キョウさんは「すまん」とだけ言って引退していった。

いやね、パートリーダーに私がなってみてわかったこともあるんだよ。

きっとキョウさんはキョウさんなりに実現したい理想の音楽があったんだよ。

真面目な人だったから、それに向かって一直線に進んでいたんだ、そう思う。

無口で無表情だし、3年生1人だけだし、また自分以外全員女子ってのも関係あるかもしれなかったけど、強引にそう持っていくことしか思いつかなかったのかもしれないね。

ただコンクール直後の私は恐怖心と違和感しかもっていなかったから、「ざまーみろ!」って心のどこかで思ってた。

でも地区落ちして泣いてるマナさんたちを見たら、決して自分も正しかったわけじゃないんだなって気づいた。

私以外はみんな、同じ方向向いていたんだ。

私だけが違う方向向いてすごく嫌な気持ちで吹奏楽やっていたんだって気づいたら、申し訳なくなった。

キョウさんの最後の大会、私が壊しちゃったのかも…って。

正直今でもキョウさんのやり方は好きじゃない。

でも距離置いてみんなと同じ方向に向かなかった私は、いけなかった。

だってそうだよね、地区落ちして「ざまーみろ」なんて、吹奏楽やってる人間失格だよね。

それから私、ちょっとの間楽器吹くのさえ申し訳なくなっちゃったんだけど、マナさんたちやミズホにいろいろ洗いざらいぶっちゃけて、そしたらみんなが支えてくれて、もう一回楽器吹くことができるようになったんだ。

んで、結局そんなこんなの反動からか、マナさんたちの代になってからはトランペットパートはわちゃわちゃした感じの厳しくも楽しいパートに変わっていった。

マナさんたちもキョウさんについていったけど、ちょっとは抵抗あったんだろうね。

そして私はそんなマナさんたちの姿を見て、「私の代のトランペットパートも厳しいけれど楽しいパートにするんだ。誰もおいていかない。みんなが意見言い合える、ワイガヤパート練!」と目標立てた。

と、そんなこんなで今に至るのですわ。



と、シオさんはたどたどしくも力強く一気に話してくれた。

俺たちはみんな無言で真剣に聞いていた。


「そうなの。キョウさんって真面目だけどすっごく怖かったの。私は高校から吹奏楽始めたから「高校の部活ってこんな感じなんだ」くらいにしか思ってなかったんだけど、シオちゃんにとっては軽いトラウマみたいになっちゃったんだよ。マナさんたちはもう1年以上キョウさんと一緒にやってたから「この人はこういう人ってわかってたんだけど、シオちゃんは、すごく苦手にしてたよね」


ミズホさんがそう言うとシオさんは小さく「うん」と頷く。


「というわけでね、私はレイジの言葉でこのことつい思い出しちゃって、「私怖かったんだ。いけない!楽しいパート練にしなきゃ!」って思ってカラ元気になっちゃったのかも…みんなごめんね」


シオさんはもじもじしながらそう言った。

少しの静寂の後、


「…シオさん…かわいいーーーーー!!!」


カナさんが空気を一変させる一言。


「モジモジするシオさん小動物みたいでかわいいーーーーー!!!レージの冗談からカラ元気出しちゃうとこもかわいいーーーーー!!!」


カナさんはシオさんに抱きつく。

「なんだよー、離れろよー」と言いながらシオさんはカナさんを引きはがそうとする。

でもカナさんは離れない。

シオさん、ちょっと泣いてるみたい。


「シーオさん!無理しなくていいんですよ。私たちはいつものシオさんのパート練、大好きですから!」


みんな「はい」と答える。

シオさんはカナさんを引きはがそうとしながら「おまえらぁ」と鼻声で言うと、カナさんからヒョイっとすり抜けて、ミズホさんの後ろに隠れた。


「笑うなって言ったじゃん!」


「笑ってないですよー!でもシオさんかわいいんすもん」


「笑うなってー!」


「笑ってないってーwww」


「もー!もー!」


「牛シオさんかわいいwww」


「牛じゃねー!」


シオさんは泣きつつ笑いながら怒り出す。


「シオさん、私たちはみんな同じ方向向いてます」


ナツキさんがそう言うと、みんな「はい」と答える。


「…みんな、あ、ありがとぉ~~~~~」


シオさんはついにわんわん泣き出してしまった。

でも笑顔。

みんなも笑顔。

みんなが同じ方向向いてることを確認して、俺たちは今日は解散した。

合宿は、明日も続く。


あ、ちなみに男子部屋では夜「お前は吹奏楽部の女子の中で誰が好みなの?」的な話はありませんでした。

一日中練習だったので疲れてしまい、さっさと寝てしまいました。

そんな感じなので、もちろん誰かが女子に呼び出されたり、女子部屋にお呼ばれしたりする甘酸っぱい修学旅行みたいなイベントもなかったです。

あ~ぁ、そんなんだからアクセス伸びないんだね。

知ってた。

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