第3話 「1日休むと3日戻る」ってヤツ。
トランペットの音が体を突き抜けてゆく。
体、ブレスに心地よい抵抗がかかる。
いままで足りてなかったものが満たされていく…。
正式に入部して初めての練習。
先週からマイ楽器は持ってきて吹いてはいたが、やはり本入部しての練習は開放感が違う。
これだよ、これ。
自分の生活の中で欠けていたものはこれなんだよ!
でもあまりゆっくりもしていられない。
なんともう6月の中旬には定期演奏会があると言う。
さらに7月後半にはコンクールが始まる!
定期演奏会の曲やテーマ、構成はある程度は決まっているらしいが、俺たち新入生はこれから全てをやるので大変そうだけどそれ以上に面白そう!
でもまぁ、今日ぐらいは純粋にトランペットを吹ける幸せを噛み締めよう!
とはいっても今日からいきなりパート練習もある。
たぶん基礎練だと思うけど、楽しみだな~。
…
あ、甘かった…。
中学の部活引退してから7ヶ月のブランクは甘くなかった…ハンパねぇ…。
個人練習1時間で唇がもうヒリヒリするし、息も苦しい。
腹筋も痛いし、なにより冷静に聴いてみたら、俺の音…酷いかも。
ペーペー言ってる。
こんな状態で…パート練できっかな…。
…
パンッ!
「さて!じゃあパート練始めます!」
パートリーダーのシオさんが手を叩いて言った。
よく見るとユリもあまり浮かない顔をしている。
シオさんはそれを分かっていたようで、
「どーよ?半年以上吹いてないと、さすがにすぐバテるでしょ?」
俺たち2人は顔が引きつりながら、「はい」と答えた。
「よくさ、1日練習休むと3日戻るっていうじゃん?つまり、1ヶ月≒30日とすると30日×7=210日。そして3日戻るから210日×3=630日≒1.7年。アバウトに考えて、元に戻るには2年かかるんだねぇ」
おお…もう…。
「いや、まぁ…さすがに冗談だと思うけどね!」
結構冗談キツイっす。
数字はともかく、痛くなった唇と腹筋痛から、がんばらなくては…という思いがジワジワと出てきた。
…
その後は普通にパート練習が始まった。
いや~、これがまたロングトーンがきついのなんのって。
もう唇はへばってるし、呼吸も苦しい…。
え、もう一往復っすか?うううおおおおおおおおおおおお…。
結局初日はロングトーン、リップスラー、教則本のハーモニー練習など、基礎練習なことで終了。
ただ、
「明日は確定してる定期演奏会曲の楽譜配るから、よろしく!中にはコンクールの課題曲と自由曲も入ってるから!ちなみにコンクールでやる曲目は…」
「曲目は…?」
「明日まで内緒ー!はい、今日はパート練習終了ー!」
いたずらっぽくシオさんが言うと、パート練習が終了。
俺とユリは「教えてほしいなぁ」という不満顔をモロに出しながら解散。
「もう、レイジもユリも、教えろよゴルァ!って顔に出てるよ~。2人とも焦らされるの好きなく・せ・に!」
「「好きじゃないです!」」
カナさんに2人で合わせて突っ込み。
カナさんは「声合わせちゃって、仲いいねぇ!」とニシニシ笑いながら戻っていった。
この人はこーいう人だ…ちょっかい出すのが大好きな。
しかし…ペース速ぇぇっぇぇ。
まだ練習初日でしょ?もう楽譜ビシビシ配られるのか!
第3話の最初の頃の俺の言動は忘れてください。
黒歴史!
結局ヒィヒィ言って1日目の練習が終わった。
でも、
「レイジは結構音がキレイだね」
とシオさんにちょっと褒められたのがちょっと嬉しい。
カナさんには「レイジの音、エ~ロ~い~」とも評されたけど。褒められてるの?これは。
ユリは音が大きくてハッキリしていてカッコいい音だったので、「男らしい音だ」と言ったら拳振り上げられた…。
そしてやっぱり、先輩方はみんな、それぞれうまかったです。
早く音を元に戻して定演に望み、もっと練習して上達してコンクールに出たい、と思った。
ユリも、明らかに同じこと思ってる顔してた。
そう思ってジーっと見てたら拳振り上げられた…。
…
翌日。
そんなわけで昨日はパート練もやって、だいぶ打ち解けてきた感がある俺です。
最近はクラスの方にも慣れてきたけど、やっぱり部活が楽しい。
しかも今日は、6月に開催される定期演奏会の楽譜配布。
だいたいの曲は決まってしまっていますが、やっぱりなにか曲を吹くのは純粋に楽しみ!
「ほーい、じゃあ1年生に定演の楽譜配るよー」
シオさんがたくさん楽譜を抱えてやってきた。
まぁ当たり前だけど、決まってる分の曲に関してはもう2、3年生のパートは決まってるそうです。
「そんじゃあまず曲目なんですけどぉ…」
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第19回 福浦西高校吹奏楽部 定期演奏会 プログラム
第1部
1.僕らのコンベンション(指揮 益田加奈)
2.未定(指揮 井口繁)
3.マーチ「ブラック・スプリング」(指揮 井口繁)
4.レヴァータンス(指揮 井口繁)
第2部 太河の一撃 ~国営放送太河ドラマメドレー~(指揮 美馬彩)
1.真田虫
2.龍馬、で~ん
3.き、き、麒麟がくる
4.平清盛
5.海老天に(レモンを)付け
6.軍師 Can Do
7.幕張殿の9人
第3部
1.ウエストコースとの情勢(指揮 井口繁)
1.ヨーコゼッターアイランズ
2.ドッグキルズ
3.ヨーニューク
2.トーマの祀り(指揮 井口繁)
1.11月祀
2.主権祀
アンコール
未定
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「そういうことで、まだ1部の2曲目とアンコールが決まってないんだけど、この曲やるから!あ、そうそう、ちなみにコンクールの課題曲は「マーチ「ブラック・スプリング」」で、自由曲は「トーマの祀り」だから、そこんとこもよろしく」
うなずきながら俺とユリは曲目と楽譜をパラパラとめくる。
ん?第1部の一曲目の指揮者…カナ…さん?
「あぁ、一曲目は私が指揮やるから!ちなみにどっちかが1stね!」
カナさんが後ろから覗き込んできて言った。
そういえばカナさんは2年生の生徒指揮者だった!
「カナは結構指揮棒持つと性格変わるから、覚悟しといたほうがいいぞ?私も一回怒鳴られた」
シオさんがこそこそと言ってきました。
先輩おもっくそ怒鳴る?
いつもニコニコしてるカナさんが…?
俺とユリは、カナさんの顔を見てから顔を見合わせ想像、マジですか…?
「アヤは結構やさしいんだけどね」
シオさんが言ったアヤさんとは、美馬彩さんのことで、3年生の生徒指揮者(兼トロンボーンパートリーダー)の人のこと。
う~ん…願わくばそっちのほうが…。
とりあえず俺たち1年生2人でパートを決めていくことにした。
どちらかにばかり負担がいかないように、バランスよく分けなければならない。
でもそれぞれやりたい曲、好きな曲、得意な曲がある。
絶対に負けられない戦いが、ここにはある!