第40話 本番終えても忙しい
本当に祭りのように慌ただしく、あっという間に俺たちの地区大会の演奏は終了した。
舞台袖下手に移動し、すうっと深呼吸をする。
舞台の近くなので無言のまま廊下に出て楽器ケースの置いてあるロビーに向かう。
ロビーに出ると、
「お疲れ様です、演奏良かったですよ!」
「お疲れ様っす、いい演奏でした!」
地区大会メンバーに漏れた1年生が次々に口を開く。
俺も含めた地区大会メンバーも徐々に冷静になって、それぞれ「お疲れ」と言い合った。
「それでは楽器片付けて積み込みを行ってください。学校戻る組は楽器片付けたらすぐ出てください!」
部長の声でみんな楽器を片付け始める。
バタバタと忙しい、余韻に浸る間もないね。
俺は学校戻る組なので、さっさと楽器を片付け始めた。
「レイジ、ユリ、お疲れ!演奏楽しめた?」
「「いっぱいいっぱいで楽しむまで行けませんでした…」」
シオさんの質問の答えに、俺とユリは声とセリフが完全にかぶってしまった。
「んー、相変わらず仲いいなぁ。まぁ後悔するのは後でね。でも演奏終わって「楽しかった」って気持ちはあるでしょ?」
「そうですね、それはあります!」
ユリの返事に俺も頷く。
「ん!じゃあ良し!ほれ、楽器片付けて~」
バタバタと片付けながらシオさんはペットパートみんなに声をかけていく。
この人はホント、こういうところが凄い。
まさにパートリーダーって感じ。
俺なんかいまだにちょっと手が震えているし、手汗も凄い。
ふとユリの手を見ると、ユリの手もちょっと震えていた。
「なにジロジロ見てんの?」とジト目で怒られたので、俺は「何にも見てねーよ」と言って立ちあがり、自分の楽器をロビーの隅に置いた。
「じゃあ、俺学校戻る組だから、戻るわ」
「うん、よろしく」
短い会話、でも最初の頃よりユリとこうやってなんでもない会話ができるようになってきた気がする。
俺は「悪い気分じゃないね」と思いながら駐輪場に向かった。
…
自転車で学校に到着し、トラックを待っている最中に学校戻る組で昼食を食べながら演奏の感想や舞台上でどんな感じだったかを話し合った。
演奏を聴いてた側からすると、演奏はそこまで悪くなかったらしい。
「トーマの祀り」の最後さすがに少し走り気味だったが、よくまとまっていた、とのことで、ちょっとほっとした。
トラックが到着するとすぐに楽器積み下ろし。
小さな楽器を積み下ろした後、パーカッションパートの指示のもと大きなパーカッションの楽器を降ろしていく。
真夏に朝からこれだけ自転車で移動して、楽器積み込み・積み下ろしの重労働、さらには演奏本番、ともうクタクタで喉はカラカラ。
積み下ろしが完了してから、自販機で冷たいお茶を買ってがぶ飲みした。
ほっとした。
今日一日のやらなきゃいけないことが、とりあえず終わった。
と同時に数時間後には結果が発表されて、県大会に進めるかどうか、シオさんたちとまだ演奏できるのかどうかが決まると思うと、変な焦りも出てきた。
あの時こうしておけば、なんであそこミスったんだろう…。
「おいレイジ、演奏聴きに戻ろーぜ」
他の1年生男子が一言、これでちょっとウジウジした気分がどこかに飛んで行った。
そうだった、シオさんに「後悔するのは後でね」って言われてたんだった。
他の学校の演奏も聞きたいし、結果発表も見たい。
俺は、
「おう!」
といって駐輪場に向かった。
…
再び会場に着き大ホールに入ると、座席はほぼ埋まっていた。
しょうがないので立ち見しようか、と思っていると、「おーいこっちこっち」と手招きしているシオさん発見。
フク西はみんな集まって座っているらしく、各パートで俺たちの席も取っておいてくれてたみたい。
ありがたい!
「レイジお疲れ、私の横座っていいよ」
「ありがとうございまーす」
俺はシオさんからパンフレットを受け取り、キープしてくれていた座席に座った。
俺は受け取ったパンフレットを開き、
「今何番目ですか?」
「今14番目の福浦東高校が終わったよ。ほら、福浦市吹の定演の時に会った(第10話参照)、リコピンちゃんがいる学校」
あぁリコピンさんってあのクールっぽくてきれいだけど「リコピン」ってカナさんに呼ばれてるせいでクールっぽく見られないという、カナさんの中学校のペットパートの同級生か。
「演奏どうでしたか?」
「いやなかなかうまいね。課題曲はうちと一緒だったけど、ペットのファンファーレ上手だった。自由曲の「スパニッシュ奇想曲」も、地区大会にしてはなかなかまとまってたよ」
「そうですか。聴きたかったなぁ」
残念、リコピンさんの音、聴いてみたかった。
シオさんの隣のカナさんを見てみると、悔しいような面白いような微妙な顔をして、アニメキャラみたいに親指の爪を噛んでいた。
「リコピン去年より上手になってるじゃん、負けてらんねー」というような表情だった。
「レイジ、次、ナギちゃんのとこだよ」
俺の隣のユリが話しかけてきた。
「お、福浦高校か。間に合ってよかった」
舞台に目を向けると福浦高校のコンクールメンバーが登壇し始めた。
その中にはナギサもムネもいる。
2人ともコンクールメンバーに選ばれたんだ。
定演の時の衝撃(第24話参照)、忘れられない。
あのナギサがあんなに堂々とソロを吹き、かつうまかった。
数年に一度は全国大会まで行くという、この地区では強豪と呼ばれる福浦高校の登場に会場はだんだんと静かになっていった。
そんな福浦高校が仕上げてきたコンクール向けの曲、なんとか間に合ってよかった。
そして指揮者が登壇すると会場は完全にシン…となった。
指揮者が指揮棒を構える。
強豪福浦高校の演奏が始まった。




