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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第39話 本番なんてあっという間

井口先生が指揮棒を構える。

俺の目の前には、いろいろな注意点が書き込まれた楽譜がある。

井口先生がすっと息を吸い、指揮棒を振り下ろした。


コンクール課題曲「マーチ「ブラック・スプリング」」。

演奏の出だしのファンファーレ、しまった、ちょっと音が籠ってしまった。

といっても後悔している場合じゃない、演奏は続いてる。

木管のフレーズを聴きながら気を取り直す。

すぐにトランペットの裏打ちの刻みの部分が来る。

頭をつぶさないように、でも飛び出さないように…シオさんからの課題の成果を見せる最大の個所。

昔からこういう刻みの演奏は苦手だ。

でも俺だってあの課題毎日やってきたんだ、何もしてないわけじゃない。

俺の頭の中に毎日の練習が一瞬だけ思い出され、裏打ち刻みの部分に入った。

さっきよりはうまくいった!

緊張、あっという間に終わってしまったが、すごい緊張している。

裏打ち刻みの部分が終わるとトランペットも参加してのメロディ。

流れるようなメロディだと少し安心する。

俺やっぱこういう方が得意だし好きだ。

俺は全体とペットのメロディを聴きながらメロディに乗っかった。

前半部分のメロディが終わると、木管のトリオに入る。

少し休憩、ヤバイ、すごい緊張しているかもしれない。

てかいろいろなことを考えすぎているかもしれない。

俺はふっと息を吐き、楽譜を見た。

いろいろごちゃごちゃ考えすぎてしまうのは俺の良くないところ。

ここに考えるべきことは書いてある。

これ以上のことは、考えないで、演奏に集中する!

トリオの後半、ミュートを使った刻みの部分に入る。

ミュートがついている分慎重になってしまい、最初の数拍ミスってしまった。

でももう終わったこと、今は気にしないで次に切り替える。

最後のクライマックスに入る。

軽快なメロディ、1stの旋律を聴きながらその音に乗っかる。

気持ちいいな、このメロディ。

この曲で一番好きな個所。

自然と体が動いてしまう。

曲はクライマックスを迎え、シオさんの軽いソロを経て最後の音。

最後の音は、ちゃんと決まった。

井口先生が指揮棒を下すと、俺は一回深呼吸をする。

あっという間にまず課題曲が終了。

パーカッションが自由曲の準備をしている間に楽譜をめくり、もう一回深呼吸をする。

久々のコンクール、すごい緊張する。

いろいろ考えすぎているような、でも実はなにも考えられていないような、変な感じ。

舞台はライトが強く当たっているため、額と手のひらに汗がにじんでいる。

すぐに次の自由曲、井口先生が再度指揮棒を構える。


コンクール自由曲「トーマの祀り 1.チェンチルセス」。

トランペットの有名なあのフレーズから始まる。

縦の線をそろえて、明確な音で、はっきりと。

シオさんやカナさんは熱を帯びたような音で勢いよく音を奏でている。

この人たちすごいわ。

度胸…だけじゃないんだろう。

毎日の練習の成果とそれを乗り越えてきた自信。

俺はまだまだだ。

そう思いながら2人のメロディに乗っかる。

前半を吹き切ると、静かで少しおどろおどろしい木管によるフレーズ。

俺は少し休み、唇をむにゃむにゃし(なにやってるかわかりますかね、この表現)休ませる。

唇が少しジワジワして疲れてきた。

そして次はまた刻みの部分。

課題曲よりも目立つし難易度の高い刻み。

俺は少しずつミスった。

正直どこをどうミスったか細かく覚えていないけど、客席からは目立たない程度にミスった。

落ち込む暇もなくクライマックス、再度冒頭と同じトランペットフレーズ。

もう唇は結構疲れている。

音が雑になりそうなのをぎりぎりで何とかしながら吹き切る。

「トーマの祀り 1.チェンチルセス」終了。

唇が痛い。

ちょっとペース配分を誤ってしまったかも…。


最後はコンクール自由曲「トーマの祀り 2.主権祀」。

あの超有名なメロディから始まる。

ミュートを刺し、対旋律を吹く。

音が重なり、あのハチャメチャ(失礼)なフレーズに入る。

もう自分の精神状態もこんな感じかも。

どんどんテンションが上がる。

細かいことはあまり考えられなくなっている。

クライマックスに向けてテンポも上がり、音もどんどん重なってくる。

唇が痛くてたまらない。

でもテンションはどんどん上がり、ステージ全体の音が熱を帯びてきている。

みんなテンション上がってきている。

細かいミスは気にしない(できない)。

勢いに押されすぎないようにだけ気を付ける。

多少バテてきているけど、最後まで音の張りが衰えないシオさん、すごい。

俺はもう唇がバテまくっている。

音も外した。

縦の線をそろえることは気をつけたけど、勢い負け。

最後は曲のテンションに引きずられるようにして、演奏は終了した。



井口先生が客席を向いて礼をする。

俺達も立って、客席からの拍手を浴びる。

細かいことは何も考えられなかった。

でも悔しさだけは感じていた。

舞台袖でシオさんが言ったこと(第38話参照)、「楽しんでいこう」という言葉…正直演奏を楽しむまで行けなかったような気がする。

やれることはやった、と思う。

でも悔しい。

ただなんかずっとテンションは上がっていて、燃えているというかなんというか…みなぎっている感じ。

こうして俺の全日本吹奏楽コンクール地区大会のデビューは、しっちゃかめっちゃかで本当にあっという間に終わった。

ホント、「トーマの祀り 2.主権祀」のように。



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