第2話 同学年
そんなこんなでペットパート歓迎会と称して、俺たち6人は大手ハンバーガーチェーンのエチェバリアにやってきた。
最初は喜んでホイホイついてきたんだけど、よく考えたら男1女5でエチェバリアにいくなんて普通ないよね。
ちょこちょこ周りの視線を感じ、ヤンキーっぽい人に絡まれるんじゃないか…とか考える。
「オイオイ!一人で5人も女連れていいご身分だなぁ!ちょっと何人か貸せよ!」
固まって怯える女性メンバーたち。
「うるせぇ!指一本たりとも、触れさせはしねぇ!!!」
ドガーッ!バキーッ!グシャーッ!ピルピルピル。
僕は次々にヤンキー達を倒していく。
あぁ、みんな尊敬の眼差しで見ているぞ…ウヘヘヘヘ。
…あっ!ちょっと待ってください、みなさん置いてかないでくださいぃ。
…
エチェバリアにて…
「松川さんは何にするの~?」
「激アツチーズバーガーとバニラシェークですかね。あ、でも季節限定の桜シェークもいいですねぇ」
カナさんは人懐っこい人なので、もうユリさんと仲良くしゃべっている。
他の先輩方も各々買っていたので、俺もシチリア風テリヤキバーガーのセットを買って席に着いた。
「オホン、じゃあ2人とも、改めてフク西吹奏楽部ペットパートにようこそ!これからよろしく!」
シオリさんがそう言うと、歓迎会が始まった。
趣味、出身中学での部活のこと、やったことのある曲、好みの曲(ちなみにボクは、邦人作曲家の曲が大好きです。)、練習の仕方等々マニアックな話もしていく。
「あぁそういえばこのパートはねぇ、みんなお互いを下の名前で呼ぶの。同学年と下の学年は呼び捨て!あ、もちろん親しみこめてね。なんかわかんないけど昔からずっとそうらしいの。だからみんな二人のことレイジとユリって呼んでもい~い?ていうか呼ぶからね
」
カナさんが聞いてきたので、僕たち1年生2人は首を縦に振る。
「よーしよし、じゃあ1年生2人もウチらのこと下の名前で呼んでね。もちろんレイジとユリ、お互いもね!」
お…つまり、「ユリ」と呼べと…
なんか、照れるやん…。
「むー、わかりましたよぅ…」
「おー、なんじゃ、不満か?ユリ。ホレ呼んでみぃ!レ・イ・ジ(ハート)って」
「ん…むー、れ…れ、いじ」
「ゆ、ゆり」
なんかすごい…お互い照れるんですけど…。
俺とユリは一瞬顔を見合わせてから、ぷいっとお互い反対方向に向き直った。
俯いてしまったユリを見て、カナさんたちは「めんこいのぅ」だの「これが最近話題のアオハルってやつですよ!」だのキャアキャア言っている。
「じゃー、まぁとりあえずそういうことで、これからよろしくね!」
その後、今まであまり話したことの無かったミズホさんとナツキさんとも少し話ができた。
ミズホさんはとてもやさしいおっとりしたお姉さん。
ナツキさんは口数は少ないけど真面目でしっかりした人、あと顔がすごくイケメン(口に出したら怒られる!)。
パートリーダーのシオさんはいかにもリーダーって感じ。その場を仕切って司会者みたい。カナさんに弄られまくってるけど。ボケと突っ込みか!?
ただ、隣に居るユリとはなんかぎこちない感じ。
…
むー…居づらい…ソワソワしてもどかしい。
まぁ、目に見えてたんですけどね、そらまぁ女性同士話盛り上がりますよ。
…いろんな話聞けて楽しいんだけど、やっぱ長続きしなかった…。
うー、中学の時からこういう経験あるけど、やっぱ慣れないな…。
野球部の女性マネージャーとかもこんな気分の時あるんだろうか?
シオさんやミズホさんがたまに気を使ってくれて話を振ってくれるけど、長続きしないよ~。
ううう…話題を広げるのって難しいよぉ。
「レ~イジ!もっと積極的になんなさい!そんなんじゃこのパートでやっていけないよ!」
シオさんに見破られてしまいました。
「まぁまぁ、すぐにはキツイよね?女の子ばっかじゃ圧倒されちゃうよね?」
あああ、ミズホさんはいい人だぁ、わかってくれるぅ!
「もう、恥ずかしいからデレデレしないの!」
え?ユリに怒られた。
でもこんな風に普通にユリに言われたの初めてかもしれん。
なんか、楽しい。ちょっとだけ本当にパートメンバーになれたって気がした。
…
そんなこんなで結局1時間程度話をして解散となった。
俺の帰る方向がユリとカナさんが同じらしいので…途中まで一緒に帰ることに。
3人で自転車を引きながら歩き始めた。
「ペットパート、騒がしいでしょ~、ってまぁほぼ私なんだけど!」
カナさんが笑いながら言うので、僕らも笑った。
「でもきっと楽しいと思うから、あんま引かないでね」
「全然引いてなんて無いですよ。ちょっと圧倒されましたけど」
言おうとしてたことを全部ユリに言われてしまいました。
「あはははは!大丈夫だって、絶対面白いから。あ、ちゃんと練習は厳しくやるよ?」
「うわ~、お手柔らかにお願いします~」
ヤバイ、ヤバイぞ…こうなってくると…最悪2人で話が盛り上がって「あれ?レイジいたの」な感じになってしまう危険性が…!
えーっと、えーっと…。
「あ、じゃあ私こっちだから。じゃあまた、明日ね」
え…?カナさんここでもう?
2人で「お疲れ様でした」というと、カナさんは笑顔で手を振って帰っていった。
そして僕とユリの2人が残された。
エチェバリアでの話では、ユリは今年フク西入学を機に隣の市(堀市)から家族で引っ越してきたそうで、この地についてよく知らないのだそう。
「あ、あたしさ、ここら辺いまいちまだよく分かってないんだけどさ…諸積町ってこっちで合ってるよね?」
ぎこちなく聞いてきたユリ。
でも僕はさらにぎこちなくなってしまった。
「え、あ…あの…オレん家諸積町なんだけど…?」
「え、えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「そうなんだ」とユリは言い、少しだけ諸積町トークをしたけど長くは続かず、さらにぎこちなく2人は自転車を引いていく。
そらまぁまだ会って2週間経つか経たないかで、しかもユリはこっちの人間ではないので、話題が少ない!
お互い探り探り。
「あ、あのさ…改めてだけど…これからよ…よろしく」
ユリは前を向いたまま言ってきた。
「う、うん。よろしく」
あ~、バカバカ!全然これじゃ話が広がらん!ど…どうしよう。
「さっきは、ちょっと怒鳴ってごめんね?」
エチェバリアでのことを言ってるのかな?
「えと、あぁ…別に気にしてないよ。面白かったし」
「そっか…」
会話は途絶え…無言。
コツコツ、と歩く音が大きく聞こえる。
こういう時間って、なんかやたら長く感じるよね?
う~…なんか…なんか言わないと!
無限にも思える時間が悪戯に過ぎていく…。
「ご、ゴメンネ。さっき怒鳴ったこととかさ、私、男子と話すの、なんか苦手で。そのぅ…何話していいか…」
「…ぷっ。あ…ははははは!」
「ちょっ!な、なんで笑うの!なんか変なこと言ったぁ!?」
「いや、ごめん。なんかさ、同じこと考えてたんだなー、っと思って」
「むー、バカ…」
ユリは口を突き出して拗ねていた。
本気で怒っているわけじゃなさそうだけど…向こうを向いて拗ねてる。
「な!今度は何笑ってんの!」
「いや~、拗ねてるなぁ、と思って」
「い、拗ねてなんか無い!レイジキライ!!」
ユリは「フンッ!」と向こうを向いてしまった。
その後「ゴメン、ゴメン」と謝って、なんとか許してくれたけど。
あれ?ちょっとは打ち解けた…?
「じゃあ、こっちだから…」
ユリは自分の家の方向を指差した。
「あ、あぁ、お疲れ」
「同じこと言うけど、これから3年間、よろしく」
「うん、よろしく。あまり怒られないように気をつけるよ」
「絶対だよ!私も怒らないように気を付ける。じゃ、バイバイ」
ユリはちょっと笑って帰っていった。
さっきと同じことを言ったけど、さっきとは口調も表情も明らかに違って…。
同学年のパートメンバーというものは、先輩や後輩よりも、一番長くやっていくパートナー、一番身近に感じる存在。
僕は彼女と3年間引退するまで一緒にやっていく、はず。
お互いに、異性と話すのが苦手、という絶望的なスタートだけどね。
意見が衝突してケンカして、泣かせたりすることも、逆に泣かされたりすることもあるだろうけど、僕は彼女と高校吹奏楽3年間をを共に過ごしていくのだ。
よろしく、ユリ!