表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/125

第32話 「私、嫌なヤツです…」

今日も全体合奏の前に1st, 2nd, 3rdに分かれてパート練習をしており、3rdのミズホとユリが一緒に練習をしていました。

パート練習を進めるのは3年生のミズホです。


「今最初の出だし私の音弱かったね、ごめん。ユリちゃんはちょっと強めだったかな。もう一回お願いします」


「ごめんね、私Cの入りうまく入れなかったね。うまく合わせるようにしないと」


「最後の締めの音、私もっとはっきり入ったほうが良さそうだね。次はお互いそこも意識してやろうね」


「…」


2人での練習を終え、パートで集まって練習するべく2人で歩いている最中のこと。

ユリはさっきまでのミズホとの練習に違和感を感じていました。

というよりそれはもっと前、4月に入部した直後から感じていました。

ミズホはパートリーダーではないので、あまりパート練習の進行をすることはないのですが、たまにシオリが休みの日や、分かれて練習する際には基本3年生のミズホが進行します。

その時にだけ感じる違和感。

それは…


「あのーミズホさぁん、前々から思ってたんですけど…なんで私への指摘、あんまりしてくれないんですか?」


ユリの、ミズホに感じていた違和感、それはユリに限らず後輩への指摘が極端に少ないこと。

そして指摘をする場合でも、とてもオブラートに包んだ言い方をすることと、必ずその前に自分のミスしたところの反省をしてくること。

またちょくちょく謝ること。


「え…でも私もミスったりすること多いし」


「でも私もそんな完璧じゃないです」


何堂々とそんなことを自分で言っているのか…若干情けなくなりつつ、ユリは言葉を続けます。


「その、私ミズホさんにいろいろ指摘されても怒ったり泣いたりしません。だから指摘してください!その方が、みんな上手くなると思うんです」


「うん…」


ミズホは黙ってうつむいてしまいました。

ユリとしては全然キツく言ったつもりはなく、軽い気持ちで言った感じだったのでびっくり。

というかどっちかというと前向きな意見言ったつもりなんですが?

あれ、私なんかまずいこと言ったかな?

ミズホさんは「後輩のくせに偉そうなことを!」っていうような人ではないし…。

ユリはちょっと考えますが、どうしてミズホがうつむいてしまったのかよくわかりません。

結局「おーい、早く来ーい」とシオリの声がしたのでそこで会話は終了、2人は小走りでパート練習に向かっていきました。



練習終了後。


「ミズホさん、さっきのことなんですけど、気分悪くされたようでしたらすみませんでした」


ユリはミズホに向かってぺこりと頭を下げました。


「あ、頭上げて、ユリちゃん…。ユリちゃんは何も悪くないよ。悪いのは私だよ」


ミズホはあわあわしてユリの頭を上げさせました。

ユリはミズホの顔をまっすぐ見て笑顔で、


「でも、私やっぱり指摘してほしいです!」


「うん」


「ミズホさんが感じたこと、ちゃんと言ってほしいです。教えてほしいです」


「うん…でも…」


「…でもって…」


ミズホはうつむいてしまい、長い髪に隠れて表情はよく見えません。

ユリは正直ちょっとイラっとしました。

「でも」って、つまり自分が感じたこと言いたくないってことですか?

一緒に練習しててそれはないんじゃないですかね?


「でもってどういうことですか?ミズホさんは後輩に遠慮してるんですか?遠慮とか、しなくていいですよ」


「…」


ミズホはうつむいて黙っています。

それを見てユリはまたちょっとイラッとしました。

なんですか、なんか言ってくださいよ。

何かこれじゃ、私が一方的にいじめているみたいじゃないですか…。

私、嫌なヤツみたいじゃないですか。


「それとも私と練習するの嫌ですか!?私、何かしましたか!?」


ユリはイラッとした勢いで、心にもないことをちょっとキツめに言ってしまいました。

心の中で「あぁ、私、今嫌味なこと言ってるな」と思う妙に冷静な感じでしたが、言葉自体は止まりませんでした。

あぁ言っちゃったな。

ミズホさんどう返してくるかな。

本音聞けるかな。

周りがユリ達の様子を伺い始めました。

しまった、声が大きくなってしまった。

ユリはハッと我に返り、目の前のミズホにもう一度頭を下げました。


「すみません。言いすぎました」


ちょっとさすがにどうかしてた。

あぁ私すごく嫌なヤツだ。


「…ぅく、っひく…ひっく…」


え、泣いてる?


「ひくっ、そうじゃ、そうじゃないの…」


「え…」


「ユリちゃんと練習するの、嫌じゃ、な、いの…。ユリちゃん、何にも悪くないの…」


ミズホは顔を上げユリのほうを見ました。

泣いていました。

私、最低だ。

正直ミズホさんがなんで意見を言ってくれないのかはわからない。

でもいくらイラッとしたからって、当たっていいわけないし、嫌味なこと言っていいわけない。

ユリはびっくりした後で自己嫌悪し、周りからの視線も感じて恥ずかしかったり、でもやっぱりミズホにちょっとイラッとしていたり、しっちゃかめっちゃかの感情が整理できずに混乱していました。

目の前がぐるぐるする。


「ごめん…ごめんね…」


ミズホはそう言って部室を小走りで出ていってしまいました。

呆然とするユリと、部員たち。

ユリは一回周りの部員たちを見渡し、涙目でうつむいてしまいました。

そこにシオリがやってきて、ユリの頭をコツンと小突きました。


「ユリ、ちょっと落ち着け」


「シオ、さん。私…」


ユリは泣きそうな顔でシオリを見ます。

そのくしゃくしゃの顔を見たシオリは、今度は頭を撫でながら優しく笑って言いました。


「落ち着けって」


「…はい」


ユリはちょっとだけホッとした表情になりました。

その間シオリは後ろを向いてカナとナツキを呼び、


「カナとナツキ、ちょっと悪いけどミズホのこと追っかけてくれる?」


「「わっかりましたー!」」


カナとナツキはシオリにそう言って敬礼し、部室を出ていきました。


「ユリ、ちょっとこっちで2人で話そう」


ユリとシオリも部室を出ていきました。

わからない、ミズホさんが何考えてるのかわからない。

でも、私はミズホさんにひどいことを言った。

シオリに肩をポンと叩かれると、ユリも泣いてしまいました。


「私、嫌なヤツです…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ