第29話 恋バナ
「みんな最近キャッキャした浮わっついた話題ないの~?」
本日の部活が終わった後、ペットパート女子5人が集まってダラダラ片づけていると、ミズホが急に思いついたようにそう言った。
急なことでユリはびっくり。
でもほかの3人はヤレヤレという感じで…
「また始まったよ、ミズホの恋バナしたい周期。ユリは知らないかもしれないけど、ミズホは定期的に誰かの活きのいい恋バナを摂取しないと情緒不安定になるんだよ。そして話題がないと1週間程度これを言い続けるんだよ」
「…そうなんですか…」
「誰かキラキラして初々しい感じの話題ないの~?」
「今回はそういう系がご所望のようだ」
ミズホは手と足をバタバタさせて恋バナをねだる。
いつもの落ち着いていて優しいミズホさんがこんなになっちゃって…ユリは当惑している。
「は~いよしよし、恋バナほちいでちゅよね~。今いい感じの持ってきまちゅからね~」
「わぁい、甘酸っぱい感じがいい~」
「ほらカナ、ナツキ、ユリ。なんかないのか?」
「速攻後輩にぶん投げじゃないっすかw何にもネタないっすよ。しいて言うなら…」
「言うなら?」
「「はにわ男子」の大西竜星君が最近やたらかわいくていい感じで私的にぶっ刺さってるって感じですかね。最近の推しっす」
「はい却下。カナのアイドルの好みは今日のミズホは望んでいません。あくまで本人の身近な恋愛話がほしいです」
「えぇ~、じゃあないです。そんなリアルなやつ数か月に1度も出てこないっすよ」
「ナツキはなんかないのか?」
「この前同学年の女子に告白されました。丁寧にお断りしたんですけど」
「マジかよ!その話すっげー聞きたいんだが!でも今のミズホにはどうかな…?」
「うーん、ナツキちゃんのそういう話は前に一回聞いたから、今日はいいかなぁ。今日は男女がいいかなぁ」
「あー、だめか。ナツキすまん。その話は今度個人的に教えてくれ。ていうか次回のミズホの発作に備えて取っておいてくれ」
「はい」
「じゃあユリ、お前はなんかないのか?」
「特に無いですねぇ」
「そんなわけないでしょ!!!」
ミズホはバーンと机をたたき、スッと立ってユリの前に立った。
目が若干怖い。
ユリは怯えている。
「ユリちゃん。今は入学してちょっと経ってみんなある程度お互いを理解してきて人間関係作られてきているころなんだよ?クラスとかで何も起きないはずないでしょ?そんな仲良しクラスで3年間いいと思っているの?」
「…ミズホさん…なにいってるか、わ、わかんないッピ…」
「男子と女子の不器用で初々しい駆け引き!そういうの無いの!?」
「く、クラスの子の話でもいいんでしょうか…?」
「私が知っていれば可。感情移入しやすいから」
「…じゃあ、ダメです」
「だめじゃないの!何かないの!?」
「そんなこと言われても…」
さすがにユリがかわいそうになってきて、シオリがミズホに声をかけようとしたとき、涙目のユリを見ながらミズホは何かをひらめいた様子で口を開きました。
「ユリちゃん。レイジ君と本当に何もないの?」
「へ?」
「同学年、同じ部活、同じパート。何も起きないはずがなく…」
「え?え…?」
「言い合いながらもなんだかんだ仲良くやってるじゃない!あぁそうか!やっぱりそうだ。ユリちゃん、レイジ君のこと、好きなんだよね?」
「はぃい~~~~~~!!!???」
おぉ、そっち系に移ったか。
自ら甘酸っぱい恋話を創造し、自らのエサとする。
自給自足か!
しっかしユリからしたらたまったもんじゃねーな。
でもこの話、ちょっと興味あるな。
ユリってなんだかんだもしかして、レイジのこと…?
すまない、発作を止めるためなんだ!
と思いながらシオリ、カナ、ナツキは黙って静観することとしました。
「レイジ君のこと、いつ頃から気になりだしたの?」
「いやいやいや、別に何とも思ってないです!」
「でも練習の時とかいろいろ言い合いながらも一緒にやってるじゃん」
「そらまぁ、パートのメンバーですから」
「じゃあ好きなんじゃん」
「なぜそうなる!?」
「だって男女でやってたら多少なりともそういう感情になるもんでしょ?」
「なにそれがさも当たり前みたいに言ってるんですか」
「まぁでも確かに、レイジ君。いいと思うよ。おとなしくて控えめだけど、真面目でやさしいし。ユリちゃんが言うように優柔不断なとこは確かにあるけど、そこはこれからどうにでもなるよ!」
「なんか勝手に話進み始めた!?」
「告白はいつにする?バレンタインデーとかまでいっちゃうと私引退しちゃってるし、急いだほうがいいと思うなー」
「見届けるつもり!?」
「できることは何でもするよ!相談にも乗るよ!しっかし、ユリちゃんがレイジ君のこと好きとはねぇ~隅におけないね!」
「既成事実化しようとしている!」
「どんなとこが好きなの?」
「はいぃ???」
「嫌いじゃないんでしょ?一緒にやれてるってことは、認めてるとこはあるんでしょ?」
「…そりゃ…まぁ、基本的に真面目にやっているとこはいいと思います。優柔不断でたまに口悪いけど」
「そんなとこも好きってことねーーーーーーー!!!!!」
「…(無、もう何言っても駄目だ、という表情)」
「同じパート内だって関係ないよ!練習さえちゃんとやってれば、誰も文句いわないよ!ねぇ、シオちゃん?」
「え!あ!…あぁ、そうね」
「だって!もう邪魔するものはないよ!行くしかないよ!当たって砕けろの精神だよ!」
「…いや、その…確かにそういうところは認めていますけど、別に恋愛的に好きってわけじゃ、ないですよ。ないです!」
「は?」
「だから今、告白とかそういう以前の問題で」
「…」
「…」
「…そっか、早とちりしてごめんね」
「…いえ、こちらこそ勘違いさせてすみません(なぜ自分で謝っているのかももはやわからない)」
ミズホの発作は収まった。
活きのいい恋愛話は摂取できなかったけど、ユリ×レイジの妄想でだいぶ満たされたようだ。
疲れ切ったユリを見て、シオリは声をかけた。
「お疲れ、ごめんな。こんなことになっちゃって。あいつこうなると止められないんだよ」
「シオさんたちも、面白がってたんじゃないんですか!?」
「正直若干興味はあった。実際のとこどうなの?って」
「もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!知らないです!!!!!」
その後ユリの機嫌を直すのに4人は手こずったそう。
特に冷静になったミズホはユリに謝罪しっぱなしだったとのこと。
ちなみにその頃、レイジは同学年男子達と「どうやったら童貞を捨てられるのか、またどういう捨て方が理想なのか、いやむしろ誰が捨てさせてくれるのか(童貞は常に受け身)における考察」を話し合っていた、真面目に。
…
「あ、ユリちゃん!でも本当に、本当にレイジ君のこと好きになったら私に相談してね!?ちゃんと話聞くから!レイジ君、結構優良物件だと思うんだけどな。早くしないと誰かに取られちゃうよ?だから今のうちn…」
「もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!知らないです!!!!!」




