第27話 格差社会
何とか試験も終わり、明日から7月。
今年の福浦西高校の文化祭は7/1と7/2なので今日は一日文化祭準備だ。
吹奏楽部は1日目の演奏発表以外に出店でカップのアイス(カキ氷とアイスクリーム)を売るので、俺たち男子数人は業者に借りた大きい業務用冷凍庫(駄菓子屋とかスーパーであるようなヤツ)をセッティングしていた。
「藤原さん、これって儲けでたらお金くれるんですか?」
「儲けの半分は生徒会、もう半分は部費にできるんだよ」
「おぉ、じゃあ売れば売るほど部費が増える!ちなみにポケットマネー的な感じには…」
「ならないねぇ」
アイスは夕方届き一晩この冷凍庫の中でカギかけて保管するので、カラッポの冷凍庫がちゃんと動くかどうか確認して部室に戻っていった。
いつも全体合奏している部屋は文化祭準備の一時的な資材置き場として夕方まで貸し出されているため、吹奏楽部員は昼間は各自クラスの展示の手伝いに行ったり、時間が空いてる人は部室でウダウダしたりといつもとは少し違う学校の光景がそこにはあった。
クラスごとに準備したり、部活ごとに出店準備したり出し物準備したり…中学の時の文化祭よりも規模が大きくなってて、なんかいつもの学校じゃないみたい。
俺がクラスの準備が大体終わりアイスの準備をするために部室に戻ろうと歩いていると、クラスの準備の合間に流しているJ-POPや合唱部の練習や軽音部のギターソロなどいろいろな音が混ざっているのに気づき、自分も早く楽器吹きたい!と思って自然と小走りになった。
冷凍庫が置いてある場所につくと、もう先に来ていた部員達が届いたアイスを車から降ろして冷凍庫に入れ始めていました。
車からアイスが入ったダンボールを積み下ろしているカナさんと目が合い、「ほれコッチ来て手伝いなさい」と目で訴えられたので手伝いに向かっていった(力仕事を率先してやる俺カッコイイ!)が、着いた瞬間、
「ヒドイ男ねぇ~。こんなか弱い女の子に重たいダンボールの積み下ろしさせるなんて」
「か弱い?」
「か弱い!」
「…?」
「…私はか弱いレディーでしょー!!!」
そういうとカナさんは明らかな不満顔で近づいてきて、無言のまま俺の耳に手を伸ばしました。
「痛い痛い痛い!か弱いレディーはむやみに男子の耳引っ張りませんよ!」
「うるさい!ほらこのアイス冷凍庫に閉まうの手伝って!アイス溶けちゃう」
へいへい、とアイスを冷凍庫にしまうのを手伝い始めるとじわじわお祭り気分が盛り上がってきた。
明日は初めての文化祭。
演奏発表も楽しみだけど、売店も楽しみ!
…
文化祭当日。
午後一番から始まる演奏発表のため、開会式以降はずっと準備や軽い練習をしていたので何となくお祭り感覚を味わえていない。
もちろんその間は吹奏楽部の売店は休みなので、お昼に売店が並んでいるエリアに出てみて初めて「文化祭やってるんだなぁ」と実感した。
明らかにぼったくりな量のほぼ氷のカップジュース(確実に自動販売機で買ったほうがコスパ高い)、具がほとんどキャベツじゃねーかという焼きそば、突っ込めばいろいろありますが、これも含めてお祭りの空気感。
彼女とキャッキャしながら巡りたいもんだね、と吹奏楽部のフリーの童貞男子達は妄想を膨らませながら打楽器を体育館のステージに運ぶ。
あーあー、目の前にこんなに女子がいるのに誰も俺に振り向かない…(童貞は常に受け身)。
「あ、ミズホ。これから演奏か?」
「うん」
「おー、何とか時間取れそうだから見に行くわ!」
「う…うん…///」
「ん!じゃーな!」
急に童貞達の前に現れたミズホさんのイケメン彼氏、彼女持ちのイケメンは童貞達には眩しすぎて眩しすぎて…なんだこの敗北感。
いや、負けてないはず!負けてない負けてない!俺らのほうが清く正しい日本男児!!!
部員の前で声をかけられたミズホさんは顔を真っ赤にしてオドオド…シオさんやカナさんその他大勢はニヤニヤしながら「いぃな~」と口を揃えていた。
ちなみに彼氏さんが所属するサッカー部は文化祭の終了後の片付けの日に夏の大会初戦があるらしく、基本的には練習をしているみたい。
大会とカブると大変だ。
でもその合間をぬって彼女の晴れ舞台を見に行く…マブしい!激マブっす!
…
楽器運搬を終え、衣装に着替えてチューニング。
体育館での発表ということで舞台袖も無いので部室で全て準備してそのまま入場し、前の合唱部の発表を見ながら体育館の端に固まって座る。
合唱部の発表が終わると次は吹奏楽部、進行役の部長がしゃべっている間に端に置いてあった打楽器や譜面台をセッティングし整列。
さぁ演奏の開始。
一曲目は今年の太河ドラマテーマ「幕張殿の9人」、一曲目からどっしりした曲ですがまずこれで体育館の空気を作ります。
お祭り気分のハイテンションオーラは少しづつクールダウンし、落ち着いた空気に包まれる。
続いて今年のコンクールの課題曲「マーチ「ブラック・スプリング」」を演奏。
お客さんからは「聴いたことねぇな」という雰囲気が出ますがクールダウンして「聴く体勢」が出来ているので、あまりお客さんの移動はない。
体育館なので演奏中でも出入りは自由、いかにお客さんを引きつけるかが重要です。
次は自由曲の「トーマの祀り」、その中から(発表時間が短いので)「主権祀」を演奏します。
この曲なら知ってる人は知っている、知らない人も後半はテンションダダ上がりなので盛り上がるハズ!
まだまだ演奏は荒削りで、ミスもあるし音程もあっていない。
さらには前半勢いに任せて吹きまくり後半バテ始めるパートも出てきて、とても上手いとはいえませんが、勢いはある。
会場も熱気を帯び、駆け上がっていく。
最後の音が終わると、大きな拍手。
曲に助けられた感じがあるので、勘違いしないといいんですけど…。
さて最後の一曲、ボーナストラック的な最後の曲は、映画「シン・ウルコラマン」で記憶に新しい「N95(米須剣士)」。
お客さんからも「知ってる!」雰囲気が出てきていい感じ、やっぱり演奏会はこういう曲もやらなきゃね。
会場から手拍子ももらって、1stのミズホさんとナツキさんも楽しそうです。
ふとお客さんに目を向けると、いた。ミズホさんの彼氏がこっちを見てニコニコしている。
しかも小さく手を振ってます。
もぅなにやってんの~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!
…
演奏終了後の片付け。
パーカッションを運び出し、ミズホが自分の楽器をしまっているとカナが近づいてきました。
「ミズホさんお疲れす~。えへへ」
「お疲れ様…ってどうしたの?ニコニコして」
「えへへー、ミズホさんは彼氏さんと、相変わらず仲良しですなぁ~」
「!!!み、見てたの?」
「えへへ、手ぇ振ってましたね!」
「むぅ~…」
「えへへへ」
どうやら結構見られていたみたいです。
その後もミズホは何人にも「見えたよ」だの「手振ってた!」だの「彼氏さん(もしくは旦那さん)かっこいいよね」だの言われ、対応に苦慮しました。
演奏会後に彼氏と会ったミズホは若干怒っており、痴話喧嘩を繰り広げたことは言うまでもありません。
あと手を振っていた光景はもちろん吹奏楽部の男子たちも見ており、以下感想。
「うんやっぱ勝てねぇや。あの笑顔はズルイわ」
「あんなん勝てないって」
「なんなんだろう、俺たち同じ人間だよな?」
「なんか、あの笑顔なら抱かれてもいいっていうか…」
「えっ!!?」
「えっ!!?」
誰が言ったかは男子だけの秘密。




