第26話 コンクール出場メンバー第ゼロ次試験
ムシムシ不快な梅雨が続いている。
こんな中で試験勉強・期末試験を行うなんてまぁヒドイ!梅雨明けして暑い中で試験するのも嫌だけど…。
結局試験勉強したくないだけなんでしょ?
俺は自問自答を止め、部屋の掃除も終え、しぶしぶ机に向った。
ある程度時間が経ってふと、明日から試験なのに比較的得意な数学1Aと物理や化学の対策ばかりしていることに気づき、心の中に「諦め」の文字が浮かび、更に「ここでムリするよりもとりあえず寝て脳を休めたほうが明日効率的なんじゃないか?そのほうが(あまり対策していないけど)英語や古文も解けるんじゃないか?」と思ったのでとりあえず苦渋の決断、寝ることにした。
なんかちょっと前に全く同じことやってた気がするけど…。
おやすみ、頑張れ明日からの俺…。
信じてるぞ。
気合入れていけよ。
zzzzz
…
「で、試験のほうはどうだった?」
「ごめんなさい」
シオさんの質問に即答するとペットパート全員の視線が俺のほうに向いた。
ざわ…ざわ…
呆れたシオさんがまた口を開きました。
「…えらい即答してくれますなぁ、レイジさん」
「ごめんなさい」
「…何の科目がダメだったわけ?」
「ごめんなさい」
「…ごめんなさいじゃねぇよ」
「古文と英語です。ごめんなさい。他は結構いけましたが、この2科目はちょっと怪しいです(福浦西高校は大体30点以下で追試か補講)」
ドスの利いた声にビビった俺はやっと素直に白状した。
シオさんは「お~ん?」と言いながらドス黒いオーラを背負っており、他のメンバーも表情が引きつっている。
俺はやけに冷静になっており周りを見回すとカナさんだけちょっと変な汗をかいていた。
もしや…?
カナさんが「フヒ…フヒヒ…」と引きつった笑いを発し始めるとさすがに周りも気づき始め…
「…カナも?」
「…ごめんなさい(仮)」
「…ごめんなさい(仮)じゃねよ」
「せ…生物が…微妙…です。たぶんイケるとは思うんですが…」
「お前らダメだったらコンクールメンバー白紙な!」
「!!!!!」
俺とカナさんは顔を見合わせ、みるみると顔が青ざめていき口元が引きつってきた。
ペットパートは現在6人、人数的に一応「恐らく全員出場できるだろう、ていうか出てもらわな人数厳しい」状態なので俺とカナさんにとっても、また全体にとっても大問題!
カナさんなんかは主力ですから…。
冷めた目のシオさんと「どーすんの、これ?」な表情のミズホさんとナツキさんとユリに囲まれて、俺とカナさんは悲しい叫びを響かせていた。
…
数日後、そろそろテスト結果が出揃う頃ですね。
ペットパートのテスト無事組(シオリ、ミズホ、ナツキ、ユリ)が練習前におしゃべりしていると後ろから大きな声がしました。
「シオさんシオさん!大丈夫だった!!!!!生物45点取れてた!!!褒めて褒めて!!!」
「…褒めていいのか悪いのか…」
「えーっ、ギリですけど大丈夫だったんすから!」
「でもまぁ補講は免れたし、とりあえずよかったんじゃない?」
「えへへー」
とりあえずシオリはカナの頭を撫でてほっとしました。
他のメンバーは大丈夫だったし、ネックはあと一人…レイジは大丈夫だろうか…?
はいダメそうですー、あっちから表情の暗いレイジが歩いてきましたー。
ドクン…ドクン…テスト無事組(カナも加入)は息を飲んでレイジの様子を伺います。
黒いオーラをまとったレイジはテスト無事組の前に立ち、やけに冷静な表情でニッコリと笑い口を開きました。
「英語39点で大丈夫でした!」
「おぉ!!!よくやった!!!」
テスト無事組に大歓声が起きます(本当は点数的には全然よくやってない)。
「他も大丈夫でしたが…古文24点、明後日の追試に合格しなかったら夏休み最初に補講です!」
「はいコンクールメンバー白紙ね」
「すすみませんでしたぁぁぁぁぁあ!追試絶対頑張りますからぁあああぁあぁぁ!」
ここまで見事な土下座は久しぶりやで。
そうホレボレするような土下座をレイジはし、それをテスト無事組は冷たい目で見下ろしていました。
「…レイジの性格上「明日から本気出す!」とか言って当日になっちゃうから今日からちゃんと対策しなさい!あんた絶対追試合格しなさいよ!しなかったら…」
「しなかったら…?」
「人数が足りなかろうが何だろうが地区コンクールは裏方に徹してもらうから。荷物持ちとか」
「!!!!!!」
普段優しいミズホまで「…どうすんのコレ」より上位の困惑の表情を浮かべていました。
ユリなんかは眉間にシワを寄せて明らかに不機嫌、ナツキはいつもと表情変わらないけどどこか不安げ。
カナは正直あまり人事とは思えずコソコソ大人しくしており、シオリは仁王立ちで怖い顔をしています。
そんな5人に囲まれて、レイジは小さく「頑張ります…」と呟くのが精一杯、本日の練習が終わった後すぐに家に帰ったのでした。
…
2日後、授業が終わりいつものように練習。
ただしレイジは追試(まぁレイジだけじゃなくて他パートにもちらほらいるんですけど)があるので今日の練習は遅刻です。
「大丈夫かなぁ、レイジ」
「お、ユリさんレイジが心配ですか?」
「だって…大会出られなくなったら全体に迷惑かかるじゃないですか!」
「あれ、レイジと一緒に出られなくなるのが寂しいとかじゃなかったの?「レイジがいないコンクールなんて、私には何の価値もないの!」みたいな」
「カ・ナ・さ・んーーー!!!」
「練習中に無駄なおしゃべり禁止!」とユリとカナはシオリに注意されてしまいましたが、みんなどっかでレイジのことを考えていました。
不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安…ユリはとってもネガティブに最悪の結果を想像しておりイライラした表情。
もう、ちゃんと勉強しとかないからいけないんだもん、バーカ。
1年生の1学期の試験なんてまだそんなに難しくないのに…ちゃんとやっとかないからこんな風になるの!先輩達に迷惑かけて!!
ユリがぶつぶつ言いながらプンプン怒っているのをカナが見て微笑みました。
なんだかんだ言ってちゃんと心配してんじゃん、仲悪いふりして実際は仲良いんだから、ホホホホホ!
カナがニマニマ笑いながら練習を再開するとレイジがやってきました。
「おっす。どうだった?」
「うーん、大丈夫…そう?って感じです」
「わかるわ~その感じ。それなりに出来たとは思うけど手応えはビミョーっての」
「わかんなくていいよ、そんなの!」
シオリが割って入ってきました。
「シオさんみたいに勉強できる人にはわかんないんです!ブー!」
「私中の上くらいだし」
「シオさんには中の中くらいの苦しみがわかんないんです!どっちに転ぶかっていう~」
同意、とレイジも頷きますが、シオリは「だったら少しくらい対策しておけよ」と呆れ顔。
まぁまだわかんないし、今の手応えよりも結果が重要。
ああいう厳しいことは言ったけど本当にレイジが出られなくなったら人数的にも編成的にも正直厳しい。
「レイジ、結果はいつ出るの?」
「明日です」
「よし、明日レイジが生きるか死ぬかってことだね!」
「死…」
…
翌日、運命の瞬間。
部活が始まる前にレイジを除くペットパート全員がもう部室に集まっていました。
彼氏でもない男のことを、なぜ私たちはこんなにも心配しなくてはならないのか?
団体競技なんだし他人事じゃあないし、まーウチの子がみなさんにご迷惑をおかけしましてでは済まないよ。
ホントに世話の焼ける1年生だこと!キョウさんとはホント真逆!!!
「あ、来た」
ナツキが窓の向こうからレイジの姿を確認し、ナツキにしては珍しく大声で言いました。
みんなに緊張が走り、窓をのぞくと頬を赤らめて小走りでやってくるレイジが見えました。
どっちだ?みんなで顔を見合わせているとレイジが部室に入ってきたのでシオリは目が合った瞬間、
「どっち!?」
「69点で、合格しました!!!」
ワァッという歓声で部室は包まれました。
良かった、ホント良かった、レイジあんたはやれば出来る子なんだよ。
本当に心配させやがって、でも良かった。
部室はもうすぐでレイジを胴上げしようかというくらい、レイジコールが起きようかというくらいの感動に包み込まれました。
「ご心配おかけしました!」
「おめーやればできるじゃんかよ!」
「いざというときはやる男だと思ってたよ!」
ミズホを除いて。
「ミズホさんどうしたんですか?ポカーンとしちゃって。感動してるんですか?」
「いや…ねぇ、カナちゃん。その、言いにくいんだけど…数日の勉強で69点取れたってことは、多少追試ということで簡単になっていたとしても、最初からある程度勉強してれば追試受けなくても良かったんじゃ…ていうかそもそも本試験の時からあまり難易度高くなかったんじゃ…」
「!!!!!!」
「確かに…本試験の古典全然難しくなかったです!」
ユリがはっと我に返りました。
そしてミズホが困ったような顔で恐る恐る…
「ねぇレイジ君、別に怒ってるわけじゃないんだけど今回の古典の追試って、クラスで何人?」
「…2人…」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「てめぇ本試験から全然難しくなかったじゃねぇか!!!」
きゃいんきゃいんきゃいーん!!!




