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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第24話 Blaze your mind

ピピピピピピピピピピピピ…

スマホのアラームがうるさく鳴っているので俺はもぞもぞと布団の中から手を伸ばしスマホをキャッチ、アラームを止めて目を覚ましました。

布団の中でボーッとしていると昨日の事が思い出されてくる。

うまくいったこととうまくいかなかったこと、主にうまくいかなかったことが頭に浮かんで、頭の中をぐるぐるしている。

ああしておけば、もっとやっておけば。

自己嫌悪と後悔がメイン、でも…楽しかった。

そこそこの満足感を得ながら起床、今日は日曜日で午前中は昨日の反省会、そして午後は福浦高校吹奏楽部の定期演奏会を見に行く。

定期演奏会が終わって自分の修正点もいろいろ見えてきたし、コンクールの曲もまだまだ。

新たな気持ちで学校へ向かった。



本日の部活が始まるとまずは各パートに分かれて昨日の反省会。

シオさんはペットパート全体の課題曲と自由曲の問題点を指摘、でも最後の定演楽しかった、と満足そう。

ミズホさんは自分の初めてのソロについて、緊張したしあまりうまくなかったけどソロも悪くないかも、とニッコリ。

ナツキさんはもう少し前に出るようにすればよかった、埋もれていたかも、と反省。

カナさんは演奏もあるけど主に一曲目の指揮についての反省、楽しかったけどテンパってしまった。自分はアミさんに比べてまだまだだ、と。

昨日演奏会終了後にアミさんに「自分の最初より良かった」という言葉に嬉しそうにしていたカナさんを見ていた俺は意外に思ったが、同時に「すごいな」とも思った。

自分だったらあの言葉である程度満足しちゃうかも…カナさんのハングリー精神はすごい。

ユリは暗~い顔で細かい自分のミスを逐一反省、むむむ…と全く納得のいかなかった様子。

それをニコニコしながら見る上級生。

で、俺はというと、


「えと…すげー失敗しました。特に「龍馬」。ああしておけば、もっとやっておけばって昨日の夜いっぱい思いました。でも、自分なりに一生懸命やれたし楽しかったっす」


ユリは「すげーアバウトだなぁ」とつぶやいて不満げでしたが横でカナが「まぁまぁ、レイジらしいよ」とニヤニヤ。

「レイジらしい」って何なんだ?と思いつつはシオさんにパスした。


「ん、みんな思ったこととか反省点とかあったね。言ったことはアバウトな人もいたけど各自心の中にある反省点意識しながらまたやってこうね。私たち3年生は残すところ大きいのはコンクールだけ、あと1ヶ月くらいしかない。悔いないようにやってこ!」


あと1ヶ月くらい、全国大会まで行ったとしても4ヶ月も無いくらい。

3年生の引退は刻々と近づいてきている、俺とユリはまだ入部して2ヶ月ちょいなのに。

ずっと前からわかっていることだけど、常に頭の中にあるわけではないので急にそういわれてしまうと寂しくなってきてしまう。

1、2年生の気分がずーんと重くなってきているのに気づいたシオさんは慌てて


「だ、だからほら!今の反省を生かしながらやってけば引退伸びるでしょ?ほら、ね、頑張ろうよ。てか…うちら3年生のために頑張れ」


「3年生のために…?」


「そ!私とミズホを受験勉強から遠ざけるにはあんた達の頑張りが必要不可欠。てーかみんな、私達といっしょにもっといたいでしょ?」


「…ふふ、何すかシオさん、それ。新手のツンデレですか?つーか受験勉強から遠ざけていいんすか?」


カナさんとそれ以外の3人もニヤニヤしだし、シオさんは顔が赤くなっていく。


「べ、別にあんた達となんかいっしょにいたくないんだからね!でもどうしても一緒にいたいって言うんなら、あ、あああんた達が頑張んなさいよ!って感じですか?」


「っ…」


プルプルと震えながら顔を赤くしていくシオさんを見てニヤニヤしだしたカナさんは、


「んふ…しゃーないですなぁ!そこまで言われたらやるしかないでしょ!ほらあんた達も!シオさんが私達と離れたくない、って訴えてるんだから、これからコンクールまで必死にやるよ!わかった?」


俺、ユリ、ナツキさんは顔を見合わせてニコッと笑うと「やるぞー!」とか「しゃああああ」と言って一気にやる気になった。

その影でミズホさんがシオさんに「お疲れ様、結果オーライだね」と声をかけていました。

「みんな暗かったから頑張るぞって盛り上げようとしただけなのに、収拾つかなくなっちゃったヨ…」と今度はシオさんが肩を落としていた。

でも、みんな笑顔だった。



その後全体での反省会を行い、改めてこれからやるべきことを個々と全体で確認して今日の部活は終了。

この後福浦高校吹奏楽部の定期演奏会があるので帰宅せずにお弁当を広げている人も結構居る。

俺も他の男子と学校に来るときにコンビニで買ったサンドイッチを食べている。

福浦高校といえば中学校のときに一緒にトランペットを吹いていた同期、ナギサがいる。

あいつは福浦高校行ってどうなってるんだろうか?


「ねぇ、レイジ」


「ん?」と振り向くとそこにはユリ。


「ナギちゃんって、中学校のときどうだったの?上手かった?」


ユリはちょっと前の福浦市吹奏楽団の定期演奏会を見に行ったとき(第10話参照)にナギサと知り合い、以来ちょくちょくお互いの高校の様子や部活のことをやり取りしている仲らしいのだ。

しかしユリはナギサがトランペットを吹いているところを見たことがない。

つーか俺の知らないところで「ナギちゃん」って呼ぶくらい仲良くなってんのな!


「す、すごく上手かったらどうしよう…。昨日はあたしの音聴かれてるし…あああああああああああああああああああ」


「つーか昨日来てたんだな。自分達も前日なのに」


「え!来てたじゃん。気づかなかった?前日は早めに切り上げたから来られたんだって」


「あぁそういえばいたかも!…まぁアイツはそんな音を比較してバカにするような奴ではないけどな。上手かったかといえば…んー、それなりにというか、俺とあまり差は無かったと思うけど。どっちかというとユリと音は似てた」


「そ、そうなんだ…ありがとう」


ユリは若干顔を強張らせながら戻っていった。

少し離れてから「あっ」と思い出したように俺の方を向き、


「あ、そうだレイジ。あんた中学校のときナギちゃんがパートリーダーやってたんだって?中学のころからフワフワしてたっていうし、ホントなんつーか、男ならもっとしっかりしなさいよ!」


「ジェンダーフリー!誰がパートリーダーでもいいじゃん。…つーかお前ナギサと何話してんの?アイツ変なこと言ってねーだろうな?」


「知りませ~ん」


「女ってのはホントおしゃべり好きで…いらんことまでしゃべりやがる!」そう思ったらナギサがユリにもっといろんなことを言ってるのではないか、と不安になってきた。

あんなことやこんなこと…知られたくねぇ!!!

俺の黒歴史で盛り上がるんじゃねぇ!!!

ああああああああああああああああああああああああ



県民ホールに着くとすでに席は埋まり始めていました。

福浦高校の吹奏楽部は何年かに一度は全国大会に行くようなレベルなのでお客さんも結構多いのだ。

他校の制服も結構見かけるし、知ってる人もそこそこ居そう。

俺達は席に座って貰ったパンフレットを開いて曲目を確認した。

課題曲はウチと同じ「マーチ「ブラック・スプリング」」かな?自由曲になりそうなのは、「青銅の武士」か「QPよりシンフォニック・コレクション」だな。

つーか天野征道さんの「QP」やるのか、いいなぁ、俺もやりたい。

演奏もしないのに音源聴きまくってるんだよなぁ、いつかやってみたいなぁ、ナギサうらやましいなぁ。

「シンフォニック・コレクション」ってことは曲の最初にトランペットのソロがあるじゃん、誰が吹くのかな?

邦人作品ヲタとして聞き逃せない!

そうこう思っているうちに会場が暗転した。

「QP」は第一部最後、楽しみや。



第一部が始まって、今年の課題曲など数曲を演奏、やっぱ全国レベルはうまい。

「マーチ「ブラック・スプリング」」は現時点で西高よりまとまってた。

一般バンドではなく、自分達と同い年が目の前でこのような演奏をしていることで俺やユリは驚いていた。

あっという間の第一部、食い入るように見ていた俺達は次の瞬間目を疑う。

第一部最後の曲「QPよりシンフォニック・コレクション」、この曲は曲の始めがトランペットのソロ、しかも周りの音が一切無くトランペットの音一本で勝負するのだが、指揮者が指揮棒を上げた瞬間トランペットパートから立ち上がったのは、なんとナギサ。

え、何でナギサが立ってんの?

そう思ったすぐ後、ナギサによる「QP」トランペットソロが始まりました。

もちろん粗はあるけど昔より伸びのある音、心地よいメロディー、旋律が歌うように流れていく。

ナギサの音、こんなに柔らかかったっけ?

中学校のときに毎日聴いていたナギサの音とは少し違う、柔らかい音。

ポカン、とレイジは口をあけたまま動けない。

あっという間にソロは終わり、曲に入っていった。

心臓がバクバク鳴っている、少し汗かいている、なんで?

ふと見るとユリもポカン、としていた。



福浦高校やっぱすげぇ。圧倒された。

ていうかナギサ…

そう思いながら定期演奏会終了後ホールから出ようとすると、後ろから「レイジの嘘つき!」とユリの声が聞こえてきた。


「レイジの嘘つき!ナギちゃん超うまいじゃん!」


「俺だってびっくりだわ、中学のときと全然違ったんだもん…」


お互い引きつった顔、焦り?

ロビーに出ると福浦高校の部員がお見送りに来ていた。


「シ~オリ~ィ!」


バフッとシオリに抱きついたのは福浦高校吹奏楽部トランペットパートリーダーの安達香澄(アダチ カスミ)さん、シオさんの中学校時代の同期だそうだ。

カスミさんはシオさんに抱きつくと、「やっぱ抱き心地最高だわ~」とシオさんの頭を撫でくり回しました。


「あぁもう暑苦しいから離れてぇ!」


シオさんはカスミさんの腕をすり抜けるとこっちに戻ってきた。

そして例の如くお互いの高校のトランペットパートの挨拶兼新入生紹介が始まりました。

こちらは俺とユリ、向こうはナギサともう一人男子だった。

彼の名は紅林正宗(クレバヤシ マサムネ)というそうで、福浦高校のみなさんからは「ムネ」と呼ばれていた。

超イケメン!ただし無口そうなのでちょっと怖そう。


「ムネはね、あんま喋んないけど全然怖くないから!」


ナギサはそういうとムネの腰をバシッと叩き、俺とユリの前にやってきました。

ムネは軽くあしらっている。

なんか悪くない関係性?


「ナギちゃん凄いね。あの「QP」のソロ、凄くうまかった!」


「えへへ、ありがと」


「お前あんな音柔らかかったっけ?しかし1年であのソロって…」


「ん~、定演ソロは毎年1年生が1人代表して1つは担当するってパートの伝統として決まってるからやっただけだよ。コンクールではだれがやるか決まってないし。別に実力で奪い取ったとかじゃないよ~。音はまぁ、このホールの音響の良さじゃない?」


一応市民会館よりも県民ホールのほうが新しく、音響設備もいいのです。

だからって…と言おうとしたけど、俺たちは言葉を飲み込んだ。


「それにまぁ、ムネとじゃんけんして負けてあのソロ担当決まってからホントあそこばっか練習してたからね。他は結構ボロボロだったよ」


えへへ、と笑うナギサだけど、俺とユリの中には何か熱いものがこみ上げてきていた。


「ナギサちゃん、ナギサちゃん。あの紅林君って子、超絶イケメンじゃね!?」


とカナさんが割り込んできた。


「ですよね。ムネは顔はいいんですよ、あんまり喋んないから近寄りがたいですけど。黙ってればかっこいいとはよく言いますけど、黙りすぎなんすよね。ただ悪い奴ではないですよ」


「彼女とかいるのん?」


「いやぁ、まだいないみたいですけど」


「いいわぁ、こっちはレイジとユリ。そっちはナギサちゃんとムネ君。これからどーんなベタなラブコメに変貌していくのかなぁ、スイソーガー。方向性変わってきちゃうかも!」


「「「ねーよ!」」」


レイジとユリとナギサの突っ込みが同時に炸裂、ムネは「ないない」と呟いていた。

その後俺はムネも少し話し、連絡先も交換した。

話しかけてみればフツーにしゃべる。

口数は少ないけど、結構いいやつかも!

他校の同性の同じパートの友達、なんかすっごく嬉しい!


帰り道、俺とユリは家の方向が同じなので一緒に帰っていた。


「どうしよう、ナギちゃん超うまかった…私なんかが気安く連絡なんてしていいのかな…」


「連絡は別にいいだろう…」


「でもやっぱさ、音響の良し悪しあったとしてもあれはうまかったよね。中学校時代とちょっと違ってたってことは入学してから頑張って練習してたんだよね」


「だな」


「負けてられないよね」


「負けてられないよな」


シオさんとミズホさんと長く居るため、そして自分自身が上達していくため、いくつかの目標がお互いの中に芽生えた。

明日からまた練習が始まる。

7月後半コンクールまでには逆にナギサ達をうならせるようになっていたい。

決意を新たにして、俺たちは別れた。


「あ、そーだ。ムネ君てカッコよかったね、誰かと違ってピシッとしてたし!」


ここで同じような返しである「お前よりナギサのがかわいいよな」は絶対言えない。

ナギサが昔の知り合いであるから、「ナギサ=かわいい」なんて言いたくない、認めたくないぃ!!!

結局「…うるせぇバーカ」と言って帰った。

本当いらんことまで…一言多い!!!


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