第23話 OG
三部が始まる5分前、ステージに静かに上がり簡単なチューニング。
あっという間に5分過ぎるとアナウンス、そして舞台の幕が上がりホール内が明るくなった。
三部が始まる前に部長と副部長が前に出てきて挨拶。
市や他校からのメッセージをいくつか読み、改めて部長からの一言お礼の挨拶。
今日の定期演奏会を無事開催できたこと、そしてここまでやってこれたことに対していろんな人への感謝の気持ちを述べ、たまに感極まって言葉が詰まることもあったが、なんとか挨拶を終えた。
俺は部長のマナミさんが泣きそうになっているのを見て、なんとなく中学校の吹奏楽部引退の頃を思い出していた。
俺の中学校の吹奏楽部は定期演奏会というものがなく、コンクール以外では文化祭の発表や地域のイベントなどだけだった。
今回の定期演奏会は現2、3年生が作ってきたものに途中から乗っかっただけ、俺も来年からは一から定期演奏会を作りあげていきたい!!!
そう思うと珍しくちょっと胸が熱くなった。
部長挨拶が終わるとマナミさんは自分の席に戻り、井口先生が拍手とともに胸を張って舞台中央にやってきた。
ここからは「ウエストコースとの情勢」、「トーマの祀り」と大曲が続き、さらにアンコールもそのままやるので最もハード。
一部と二部ですでにある程度唇が疲労している中、一番キツイ第三部が開演。
井口先生が観客に背を向けて部員に向かって一回ニッコリ笑うと、指揮棒を振り上げた。
一曲目は「ウエストコースとの情勢」。
「ゼッターアイランズ」、「ドッグキルズ」、「ヨーニューク」の三楽章からなる曲だ。
第一楽章「ゼッターアイランズ」の導入部分の風をイメージしたフルートの旋律がやさしく入ると全員が集中、絶対にはずせない八部音符が二回、雄大なゼッター諸島の風景をイメージした旋律が続き、トランペット(コルネットパート)による有名で美しい流れるようなテーマをシオさんがソロで吹く。
少し音が硬いながらもさすが3年生、サラサラとした流れるような旋律は聴いている方も心地よく、明るくやさしく吹き上げた。最後だからという空回りはなさそうだ。
つーかやっぱうめぇな、俺もこんな音出したい。
厚みがなく敗がモロバレしてしまうような静かでかわいらしい旋律は続き、それぞれのパートが旋律を歌い上げ、音の厚みとボリュームが増していく。
クライマックスに厚みがピークとなった特徴的なテーマを全体が演奏しきると急に静かに、やさしい風が吹着き抜けていくように余韻を残しながら曲が終わった。
続く第二楽章「ドッグキルズ」は第一楽章よりもゆったりとしたテーマが続く曲。
この曲はゆったりしたやさしいテーマのトランペットのソロがあるだが、今回は特別に3rdのミズホさんが担当する。
シオさんとミズホさん、最後の定演にせっかくトランペットにソロの多い曲をやるんだから!と分けあったソロ。
「ミズホはこっちのドッグキルズのソロのほうが性格的にも音質的にもあってるんじゃない?」とシオさんに任されたソロ。
3年間私だって何もしてこなかったわけじゃない。
そりゃ中学校からやってる人に比べたら見劣りするかもしれないけど、これが私の3年間の集大成。
せっかく機会をもらったんだから私に関わってくれたたくさんの人に聴いてほしい。
観客にも、会場にいるであろう先輩たちにも、そして舞台上の仲間にも。
すっ…と息を吸い、今までにないくらい落ち着いた状態でソロへ。
落ち着いているおかげか緊張して音程が極端に低くなることもあまりなくソロは流れていった。
あ、意外とソロって楽しいかも。
自分の音でこの会場の場が成り立っている、自分の音がこの会場に響いている。
たどたどしくて大人しいけどやさしく大らか、そんなソロが会場の空気を包みその空気のまま曲は続いていく。
自分のソロの評価はどうだったかわからないけど、少し微笑んだミズホさんをシオさんは横目で笑顔で見ていた。
ガラッと空気は変わり、第三楽章「ヨーニューク」。
今までの2曲の大自然のイメージと変わり大都会、にぎやかで活気にあふれた町並みを表現している。
Hey Guys!さぁ行くぜ!とばかりにテンションの高いテーマで始まり、軽快なリズムでどんどん進んでいく。
コミカルで親しみやすい曲調は奏者も指揮者も観客も一体にし、勢いと熱を増していく。
もちろん奏者と指揮者は高揚しながらも曲やこのあとのことを考えて冷静さを保っている。
俺もmpのところを意識したり、今までの数ヶ月を振り返ってみたり。
あぁ、入部して2ヶ月半経って、もう定演が終わってしまう。
第三部とアンコールが終わったらこの定期演奏会が終わってしまう、早いなぁ。
いろいろ濃い2ヵ月半だったけど、やけにあっさり終わってしまう気がする。
ほらもう、「ヨーニューク」も終盤部分だ。
舞台最上段でパーカッションの人がサイレンホイッスルを「ピューーーイ♪」と吹くとラストスパート、何回も繰り返されたテーマが厚みとテンポをさらに増し、全体がひとつになって向かっていく。
悔いを残さないように、出せる分は全部出す。
俺の頭の中からはもうすでに次の曲のことはほとんど飛んでいたけど、この曲、この音への集中は切れていない。
目の前の曲で精一杯、ペース配分は忘れたままだったけど曲はそんなことお構いなしに進んでいき、曲は終わりを迎えた。
でもたぶん、部員の半数以上はこんな感じかも…。
それっくらい熱く、テンションMAX、でもどこか冷静。
そんな心地よい熱っぽさ、楽しかった。
もっと長くこの感じを味わっていたかった。
…
「ありがとうございました!」
「ウエストコースとの情勢」を終えた後、コンクールの自由曲の「トーマの祀り」11月祀(コンクールではチェンチルセスを演奏)と主権祀、アンコールに「B鉄道でGO!」を吹き終え幕が下り、部員全員がロビーに出てお客さんのお見送りをしていました。
ウエストコースでスタミナを使いまくってしまったレイジは残りの曲があまりうまくいきませんでした、まぁアンコールにB鉄道やるのもそもそも結構キツイだろうっていう意見もあるかもしれませんが。
コンクールの自由曲の「トーマの祀り」はまだ未完成な感じが演奏しているほうでもわかり、今後の課題になりそう。
恐らくアンケートにも結構いろいろ書かれるでしょう。
いろんな課題が見えてきて、またこれから忙しくなりそうです。
他校のトランペットパートの人に会って挨拶したり、中学校のときの同期に会ったり、やっと気が休まる時間。
各部員に笑顔が戻ってきていく。
「レイジ!ちょっとこっち来て!」
シオリに言われてレイジが近づいていくとそこには3人の女の人。
「今年の一年生のレイジとユリです!あ、こちらは去年の3年生のアミ(黒木亜美)さん、マナ(小宮山麻奈)さん、アイ(初芝愛)さんです」
レイジたち1年生とOB(G?)の間に立って両方に説明をするシオリ。
それを見ながら「パートリーダーらしくなったわねぇ」とニコニコしながら見ているOGたち。
お互いに挨拶を済ませた後今日の評価をされるのかと思ったら、アミが東高のリコピンとしゃべっているカナとナツキを捕らえました。
「おーいカナー!そっちの話済んだらちょっと来なさーい!!!」
カナがアミを見つけると目を輝かせて向かってきました。
後ろでナツキがリコピンに「ごめんね」と言って追いかけてきました。
「アミさ~ん!お久しぶりですー」
「はーいじゃあ第一部の一曲目の批評しまーす」
「嫌です。さようなら。お疲れさまでした。本日はありがとうございました」
「ウソウソ、冗談だって。批評はアンケートにびっしり書いといたから!」
「鬼やでホンマ」
といいながらもアミに抱きつくカナを、アミはやさしくナデナデしていました。
後ろにやってきたナツキにも「久しぶり~」と言ってナデナデ、ナツキは照れくさそうにしています。
「しかしアレだね。カナが本当に生徒指揮やるとはねぇ」
「約束したじゃないですか、私も生徒指揮やってアミさんみたくなるって!」
「フフ、まぁ初陣にしたらそこそこ良かったんじゃないの?」
「わーい!ありがとござまーす!」
「後半テンパってたけどね~」
むぅ…と表情が暗くなったカナを見て、あ、結構気にしてたんだな、と理解したアミは、
「それでも私の初陣よりはよかったと思うわ!」
と言うとカナはにっこり。
調子のいい奴!!!とニヤニヤ笑いながらまたナデナデ、続いてナツキに目を向けて、
「ナツキもソロあったでしょ!1年で結構音柔らかくなったねぇ」
「…あ、ありがとうございます!」
表情はあまり変わりませんが、照れくさそうにモジモジ。
かわいいやつ!!!と2年生をいじったとこで再び1年生に目を向けました。
しかしもうすでにマナとアイが1年生&3年生としゃべっていて入る余地がなさそうでした。
「かわいい1年生が入ってよかったね」とか「なかなかよかったよ~」とかある程度のことはしゃべってしまっていました。
「あ、アミさん!1年生2人入ったんすよ!草食系レイジくんとツンデレユリちゃん!」
「「なんじゃそのニックネーム!!!」」
と、カナの発言にレイジとユリの息のあったツッコミ。
2人は目が合うとプイッとすぐ目を逸らしてしまいましたが、その光景は格好のエサ。
「なになに?今度の1年生はもうすでにこんな仲いいんか?見せつけちゃってもーーー!」
「「そんなんじゃないです!!!」」
と、アミの発言にレイジとユリの息のあったツッコミ。
2人は目が合うとプイッとすぐ目を逸らしてしまいましたが、その光景は格好のエサ…デジャヴ?
結局初対面にもかかわらずレイジとユリはアミにかなりいじられ、この短時間で「あぁ、この人はカナさんと同じ感じがする」と悟ったのでありました。
一通り落ち着いたところでアミは今度は3年生に目を向けました。
「ミズホのソロ良かったよ。ミズホらしい優しい感じがしてて。よく練習してたのがわかる」
「ありがとうございます」
「ありゃ彼氏も惚れ直すわ!」
「!!!…///」
「もう!ミズホをからかわないでください」
「えへへ、でもシオリも1年良く頑張ってきたね。よくあの曲のラインナップをまとめあげたよ。今年の曲目結構きつくない?」
「そうっすね、結構きつかったかもです。レイジなんかトーマのときバテバテで全然ダメそうでしたよ」
アミはふふ、と笑ってレイジのほうに目を向けます。
「久々に男子入ってよかったね、キョウさん以来かな。まぁ性格的には真逆そうだけど」
「え、ええ…」
途端に表情が暗くなるシオリにアミが気付き、
「え、どうしたの!」
「へ?いや…その……れ、レイジが真逆すぎて頼りないんですよ!!!」
「あ、あぁそうかぁ…でもまぁこれからだよ。いい子そうだし!」
表情が暗くなった理由はあえて聞きませんでしたが、アミには元から何となく理由はわかっていました。
この子、キョウさん苦手にしてたもんなぁ…。
「…さて、そろそろ行くわ。そっちも片付けとかあるっしょ?」
そういうとOG3人が集まってペットパートの前に並びました。
「夏の大会も絶対見に来るから、頑張ってな!」
とアミが言うと、シオリの指示のもとパートメンバー6人一斉に、
「ありがとうございました!」
元気な声を聞くと3人はニッコリして帰っていきました。
「よかった、成長した姿見せられた」という思いを個々に持ち、演奏会後の同窓会みたいな楽しい時間はあっという間に終わりました。
ふぅ、と一息つくともう一仕事。
これから市民会館から撤収、学校に戻って楽器の片づけがありまだまだ今日は終わりません。
頃合いを見て部長が手をパンッと叩き、
「はい!じゃあこれから片付け始めます。グループAは学校戻って、Bは積み込みよろしく。もうトラック来てるよ!」
…
定期演奏会が終わり、なにかやり遂げた爽快感とぽっかりと穴が開いたような虚無感が入り混じっている。
ステージの装飾は剥がされ、楽器は片付けられていく。
グループAのペットパートはすぐさま自転車で学校に戻る。
高揚感と寂しさを感じながら俺はトランペットをケースにしまい、もらった花束などを背負いながら自転車に乗る。
外はもう日が落ちてきており6月なので外は涼しく、昼間の気温とは全然違うことを感じながら市民会館を後にする。
信号待ちの時間ふと振り返り市民会館を見るともう外の看板が片付けられていた。
「あぁ、もう終わっちゃったんだ」
俺たちは学校に向かって自転車をこぎ始めた。
うまくいかないこともあったけど、楽しかった。
俺、この部活入ってよかった!




