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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第20話 第19回定期演奏会、開演!


「むーん…」


定演前夜、自分でもびっくりするほど寝付けなかった。

あまり緊張していないぜ!的な雰囲気を周りに振りまいていたにも関わらず、家に帰って早めに寝ようとした途端にこれ。

結局0時前に布団に入ったのに、寝たのは2時くらいだった。

よってあまり寝られず最悪な目覚め。

顔を洗って朝食を軽くもそもそと食べ、着替えているとちょっと目が冴えてきて今度は本番当日の緊張感に襲われはじめた。

着替え終えると髪をセットし、バッグに本番の衣装や筆記用具、スマホ等を詰め込んで家を出て自転車で出発した。

家を出るときに親が「今日見に行くから」的なことを行っていたけど、恥ずかしいなぁ。

客席や演奏会終了後にグイグイ前に出てこなきゃいいんだけど…「レイジの母でございます」みたいなの。

6月のちょうど良い気温で、しかも結構いい天気で気持ちがいい。

日光を浴びて深呼吸するといよいよ体がシャキっとし始め、よしっ、今日は頑張るぞ!と珍しくポジティブな気持ちになった。

途中コンビニに寄って、昼食用にサンドイッチとアーモンドチョコレート(大好物)と1リットルのペットボトルのミネラルウォーターを買った。

俺は緊張しいでものすごく口が渇く体質なので、500mlのペットボトルだとすぐに終わってしまうのだ。

1リットルでも本番前に終わっちゃう可能性が大きいけど。

あとアーモンドチョコレートは俺の大好物なだけで、喉が渇くので本番前には食べない方がいいことはわかってるけども心を静めるために購入した。

ほら、GABAとかあるじゃん、GABAとか!

コンビニを出ると再び自転車をこぎ始め、学校へ向かっていった。



学校に着くと汗だく、汗と自転車を走らせることで受ける風によって髪の毛はもうクシャクシャになっていた。

うーん、汗かきやすい体質をちょっと恨む。

部室に行くと先に来ていた何人かが既に楽器搬送の準備をしていた。


「あ、レイジおはようっ!」


カナさんがものすごく元気に挨拶してきた。

テンションMAX、本番楽しみでしゃーない、といった感じ。


「おはようございます」


「テンション低っ!さては昨日緊張であまり寝られなかったんじゃ!?GABAとか摂って睡眠の質を改善しなさいっ!!」


やっぱりGABAはいいらしいです、母さん。

…と苦笑しながら荷物を置き、自分の楽器や楽譜の整理を始めた。

その後も続々と部員が登校してきて気づくともう朝9時。

全体ミーティングを始め、これからの流れの説明などを受けていよいよ今日の部活が始まった。

ペットパートのメンバー全員は先に市民会館に向かってトラックを待ち、トラックから荷物を降ろす方の係のため、部室前にペットパートの荷物をまとめて置いておくだけで出発しなければならず、急いで準備を行った。

「ミュートはまとめてこのダンボールん中入れといて!」とか「チューナー持った?」とかバタバタとしながらもなんとか荷物をまとめ、軽く確認して「よし!じゃあペットパートは急いで市民会館に向かうぞ!」というシオさんの掛け声でペットパートメンバーは部室を出発した。



先ほど1人で通った上り坂を今度は6人で自転車で下っていく。

制服姿の高校生6人が一心不乱に市民会館を目指して自転車で(もちろん一列でね!)坂を下っていく光景は若干変な感じではあるけれど、楽器積み込み係と楽器降ろし係に分かれているためしょうがない。

私立校とかだとバスとかあったりするんですかね?

作者は公立校出身なので知りません。

急いで自転車で(もちろん一列でね!)市民会館に向かってるため、「レイジ今日は頑張ろうね」とか「期待してるよ」とか「定演無事終わったら…話したいことがあるの」みたいな甘酸っぱい会話など全く無いまま市民会館に到着した。

到着したらトラックが届くまで休憩!ともいかず、トラックが来るまで市民会館の方といっしょにステージのセッティングするので、副部長を先頭に全員で「今日一日よろしくお願いします!」と挨拶をしてから雛壇をセッティングしたり会場装飾を行ったりする。


「ほれほれ、レイジ雛壇のそっち側持って!」


「はいはいっと」


シオさんに促され一番上のパーカッションが乗る雛壇を持つが、これが結構重い。

高校生や市民会館職員の方複数名で持っているのに結構重い。

何とか最上段まで持ち上げてから横の雛壇と金具で止めて、を繰り返していると雛壇が完成し、また会場係による装飾などによってステージ全体が出来上がってきた。

客席に下りて「おぉ」とちょっとだけ興奮していると、


「はーい、トラック来たんですぐに楽器降ろしてくださーい!」


という副部長の声。

休む間もなくトラック付近へ集合すると、すでに男子の先輩の数名がトラックの荷台から楽器を降ろし始めていました。


「レイジも来年先輩になったらああやって男らしく率先して指示出したり荷台から楽器降ろしたりしてね!」


「俺よりカナさんの方が力仕事は…」


「はぁあああぁあああ!!!???麗しきレディーにそれは失礼じゃないの?レイジあんた最近なかなか言うようになってきたんじゃない!最初の頃は生まれたての小鹿みたいにプルプル怯えてたのに!」


「怯えてねぇ!」


「おーいペットパート!ダベってないでここの銅鑼とティンパニ運べー!」


カナさんと話していたらトラック荷台の先輩に怒られてしまった。

俺も3~4往復くらい楽器を運び、積み下ろしは終了。

降ろしたものからパーカスメンバーが雛壇の上でパーカッションの楽器をセッティングしているのでそれを手伝っていると後発部隊(学校に残ってトラックに楽器を乗せていたメンバー)が市民会館に到着、いよいよ楽器を持っての準備に入る。

雛壇で全体揃って先生や部長からこの後の流れをざっと説明され、各個人で音出し。

もう既に10時半だ。

バタバタとしてみんな本番前にすでに疲れて見えていたが、やはり楽器を持つと緊張感が戻ってきてピリッとする。

朝の眠気は吹っ飛んでいた。

結局午前中は本番前なので音出しも全体合奏も、本番前にバテないように軽く流す程度で終わった。



昼食の時間、本番は14時なので本番まで残り2時間。

緊張のせいか1リットルの水はもう半分以上消費されていた。

たぶん半分はアーモンドチョコレートのせいだけど、食べたのに全然精神安定しない、GABAが効かねぇ…。

みんな普通に話してはいるけれど、どこかソワソワしてたり緊張してたり…いつもよりちょっとピリッとした雰囲気の昼の時間だった。

カナさんは相変わらずよく通る声でしゃべりまくってるけど、なんかやっぱどこかいつもとは違う感じ。

あの人もやっぱ人間なんだな!!!

昼食を済ませると各々楽譜を見て確認したり、演出の確認を軽く行ったりと程よい緊張感に包まれた光景が広がり、あっという間に昼食時間が終わってしまった。



時が流れるのが早い。

ついこの間入部したばっかだと思っていたら、もう定期演奏会開場まであと30分。

控え室で音出しをしたりパート内で軽く合わせたりしているのだが、もうホントあっという間に時間が過ぎていく。

口が渇いてしょうがない。

でも水飲みすぎてしまって本番中トイレ行きたくなったらやばいし。

あぁやばい、緊張してきた。

中3のコンクール以来久々に味わうこの本番直前独特の緊張感。

深呼吸だ、深呼吸。

スゥー、ハァー、スゥーハァ、ハァ、ハァハァハァハァ !!!←レイジ君は緊張しているだけで別に変態ではないので気をつけてくださいね。


「レイジ緊張してんの?」


「シオさん、んー…まぁ、そのそれなりに」


「顔が引きつってるし。しっかりやろうと思うのはいいことだと思うけど、力入れすぎてもいいことないよ」


「そうだよレイジ君。私も楽器始めて3年目で未だにこの緊張は慣れないけど、本番前はリラックスした方がいいよ」


そういってミズホはレイジの楽器の持っていない方の右手を両手でやさしく包んだ。


「!!!!!!!???」


突然のことに俺や周りもビックリ。

当の本人は「ふふ、緊張で手に汗かいて冷たくなってるね~」なんてのほほんと笑いながら言ってます。

天然は怖い、あぁ天然は怖い…あなたイケメンな彼氏いるんでしょうが!!!

「あんたホント、気づいてないだろうけどいろんなとこで男を勘違いさせてるよ」「??」なんて会話をしながらシオさんとミズホさんは今度はユリのほうに向かっていました。

俺はというと、さっきのことでビックリして一気に力が入ってしまったせいか今度は力が抜けてヘナヘナとしてしまい、いい具合にリラックスできた(若干力抜けすぎな感じもしますが)。

うーん、もし狙ってやってるとしたらそれはそれで怖いぞ、ミズホさん。


「ユリ…緊張してない?」


「大丈夫でっす!頑張ります!絶対に!ムフー!」


「…気合入りまくってんなぁ、鼻息荒いし。空回りしないように気をつけな」


「はい!ムフー!」


「大丈夫かなぁ…?」


「ユリちゃん、気合いれるのも良いけど本番前は落ち着いた気持ちで望んだ方が普段どおりできると思うよ」


そういってミズホさんはユリの楽器の持っていない方の右手を両手でやさしく包んだ。


「!!!!!!!???」


先ほどの俺と同じようにユリもビックリ、ぷしゅ~っと一気に余分な力が抜けて「はい、お姉さま」なんて言いながらうっとりした目になった。

やや力抜けすぎな気もするが、ユリはトローンとした表情で「あぁお姉さま」と呟きながらミズホさんと手を繋ぎあう。

後ろでカナさんが「かわええのぅ、かわええのぅ」なんて言いながらニヤニヤしつつ涎を垂らしており、ナツキさんが若干引いていた。


「お前顔ヤバイぞ。なんちゅう表情でユリ見てんだ?」


「いいじゃん、ユリは表情がコロコロ変わってかわいいんだもん。もちろんナツキもかわいいよ~。あんたの照れた表情なんて最高だぁね。あ、そういや今日はかわいい猫のパンツ履いてきたの?あのかわいい勝負パンt…」


バキッ!ゴシャッ!スパパーーーーン!


「うわぁ~ん、ナツキが楽譜のファイルで殴ったぁ~、2回目は角ですよ角、ミズホさぁ~ん」


心地よい緊張感台無し、カナさんはシオさんにこっ酷く注意されてしまった。

カナさんはカナさんなりに緊張して舞い上がってるのかもしれない、今日はカナさんが指揮する曲もあるし。

まぁただ単にパンツが気になった可能性もかなりあるけど。


「はぁー。それはともかく、もうすぐ本番だからチューニングするよ、チューニング」


とシオさんが言い、ペットパートが集まってチューニングを開始。

深呼吸と一緒で、落ち着いてチューニングすると落ち着く。

ただ緊張のせいか若干音程が高かった。


「本番前だしあまり言い過ぎるのも逆効果だけど、今日はちょっと自分の音程高いって意識しといて」とシオリに言われ、若干へこむ。

でもここまで来たらただ単にへこんでもいられない。

「今日は音程高め」とちょっと意識だけして気持ちを切り替える。

今日の俺、珍しく切り替えうまくいってるな!いい感じ!

その後パートでチューニングし、全体でも合わせ、2回程1曲目の出だしを練習した。


「間もなく開演です。ロビーのお客様はホールにお集まりください」


開演5分前のアナウンスが流れ、いよいよ本番。

控室から舞台袖に向かう直前、シオさんがペットパートみんなを集めた。


「レイジとユリにはまだ言ってなかったけど、ウチのペットパートには昔から本番前舞台袖で小声で行う伝統的な儀式があるの。今回はコンクールみたいに舞台袖待機ないからここでやっちゃうけど。6人で手をかざして、私が「楽しもう。ウィーアー」っていうから、「トランぺッターズ」って言いながら手を挙げてね」


「マジっすか」


「いいからやるよ」


「やー、やっぱこれやらないと本番前って感じしないっすよね~、シオさん。シオさんのすべすべ柔らかい手に手を重ねt」


「うるせー!早く!時間ないよ!」


シオさんが手の甲を差し出す。

それにみんなが手を重ねていく。

俺は女子の手に手を重ねるのが恥ずかしかったのでモジモジしてたが、「早く!」とのシオさんの言葉にあわてて手をナツキさんの手の甲の上に乗せた。


「それじゃいくよ。みんな今日は楽しんでいこう、ウィーアー?」


「「「「「「トランぺッターズ!」」」」」」


6人の手はまっすぐ天井に伸びた。

何となくだけど本番前に気合も入ったし、いい意味で力も抜けた。

よし!



控室を出て舞台袖へ向かい、舞台の幕は降りているのでそのままステージに入っていった。

全員が揃うと、一曲目の指揮をするカナさんは指揮台に乗り、軽くチューニング。

少し高めなことを意識しながらなんとか合わせようとする。

幕の向こう側にはお客さんがいる、多少ざわざわしている。

多分他校の人もいるだろうし、その中には知っている人もいるだろう。

ナギサやリコピンさんもいるのかな?

ああ、もう本番なんだ。

まだ2ヶ月しかやってないけど、今までの練習風景なんかが思い出されてきて…。

ぼんやりと斜め上の天井のライトを見上げる。

こういうライトってやたら眩しいし、そして何より汗かくくらい暑い。

ヤバイ、もう一口水飲んできたほうが良かったかな?

もう口が渇いてる気もする。

あー、緊張してきた。

あー、あー、あー。


「そんじゃペットパート、今日は楽しみつつ頑張ろうね!」


突然シオさんがペットパートに方に向いて聞こえるか聞こえないかくらいの小声でささやきました。

何となくその一言で落ち着いたというか、安心したというか。

ミズホさん、ナツキさん、俺、ユリ、そして最後に指揮台に目を向けたシオさんに気づいたカナさんは全員同じような笑顔になって小声で


「はい!」


ブーーーーーーーーーーーーーッ。

暗闇の中、開演の合図の音と共にゆっくりとステージの幕が上がり始めた。

レイジとユリにとっては初めての、カナとナツキにとっては2回目の、シオリとミズホにとっては最後の定演、開演です。


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