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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第19話 定演前夜

「テストを返却しまーす。…~くーん、佐々木玲人くーん…」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「次はもう少し頑張ってね」


っっっっっっ!!!!!!!???????



さて、中間試験も終了して1週間。

そろそろテストが返却されて結果が出揃う頃で、さらには定演まであと1週間。

テスト結果にヒヤヒヤしながらも曲や演出の練習や打ち合わせに大忙しだ。


「そーそー、そういやレイジは試験の結果どうだったの?」


「…」


「え゛っ、まさか…?」


俺のその無言の数秒でシオさんはじめペットパートメンバーに電流が走る。


「いや、再試や補修はないっす。グラマーもギリギリ免れました」


「なぁ~んだ」と安堵の表情に変わるペットメンバー。

ただしユリだけは、「ギリギリ」という言葉に敏感に反応しました。


「ギリギリ?」


「ギ、ギリギリ!」


「グラマーって確か30点以上は強制的に再試だったよね?」


「…32点…」


「おめぇホントにギリギリじゃねぇかよぉ!!!」


さっきまで安堵の表情だったシオさんが一気に鋭い表情で迫ってきた。

安堵の表情を浮かべていた他のメンバーもそれぞれ状況が状況なのでミズホさんが苦笑、ナツキさんがポカーン、カナさんがニヤニヤ、という表情に変わっていました。


「レイジ~、あんたもうチョイなんとかしなさい!高校最初の試験でそれはやばいって。来年後輩が出来たら「うわー、レイジさんってアホなんですねぇ~」って言われるぞ?」


「…やけにストレートにモノを言う後輩っすね」


「とにかく今回は引っかからなかったからまぁまだいいとして、次の大会前の期末試験は本気でやんなさいよ!うちら3年生にとっては最後の大会なんだから…」


「あ…」


そういえばもう早いもので6月、夏の地区大会が7月末で県大会が8月。

入部したばっかとはいえ、もうシオさんやミズホさんと一緒に練習できる時間はそう長くないのだ。

そう考えると、あ…なんか重めな空気に…。


「と、と、とにかく!レイジのせいで地区落ちしたら一生恨むんだからね!!」


シオさんがそう言って一応空気は元通りになりましたが、さっきの言葉で1、2年生の4人は気を引き締めなおした様子。

1日でも長く3年生と一緒にいられるには、上の大会に進むしかないのだから!


「それとあと、来週の本番も絶対気合入れてやってよね!OGも見に来るから」


「え!もしかしてアミさんたちが来るんですか?」


目をキラッと輝かせて、前に乗り出してきたカナさん。

アミさんたち?といった顔の一年生。

もちろんそうなって当然で、この3人は去年の三年生、つまりシオさんとミズホさんの一年上の先輩なのだ。

定演って他校の人も見に来て緊張するのもあるけど、引退・卒業した先輩が見に来るのも緊張や楽しみの要因だよね。


「来るよー。アミさんはカナが成長してるか厳しくチェックして、カナが指揮する曲の感想をアンケートにびっしり書いてくれるって言ってた!」


「やぁだ~!アミさん怖いー!」


カナさんはそう言ってミズホさんの後ろに隠れてしまったが、表情は明らかにワクワクしていた。

カナさんは結構こういう状況を楽しめてしまえる性格のようだ。


「ナツキも、ソロあるって言ったら「心して聴く!」って言ってたよ?」


「頑張ります」と言って苦笑いのナツキさん。

その表情は「やれやれ、アノ人は…」なのか、それとも…?


「一年生の2人も楽しみだ!って言ってたよ?」


俺とユリはきょとん、とした表情で顔を見合わせて開口一番同じ言葉を言った。


「「そのアミさんって人は、怖い人なんですか?」」


「ん~、怖いっていうか何ていうかなぁ~、ねぇミズホ?」


「そうねぇ、別に怖くはないけども、何ていうか…あぁ、キリッとしてるカナちゃんって感じかな?」


キリッとしてるカナさん…?

カナさんはニコニコしながらズバズバとものを言ってくるようなドS。

ってぇことはつまりそのアミさんって人はキリッとした表情でズバズバとものを言ってくるようなドSってこと?

「ふーん、こんなのもできないんだ」みたいな…?

俺とユリは勝手に頭の中で想像上のアミさんを作り上げていきます。

いつの間にか俺の頭の中でのアミさんは鞭を持ってボンテージを着ており、高いヒールで俺を踏みつけていた。

ん、これはこれでいけそうな気がするかも…!?

恍惚の表情でホワーンとしていたが、次の瞬間視線に何か怪しいものでも見るような目でこっちを見ているユリが入ってきたので我に返ることができた。


「あー!ミズホさん、それって私がいつも緩みっぱなしってことですかぁ!?」


失礼しちゃいます!と言いながらミズホさんに背後から抱きつき、じゃれ始めた。

「そういうことじゃないよぅ」とミズホさんが言ってもカナさんはお構い無しにじゃれ続ける。


「んまぁとにかく!OGも来るんだから来週はみんな頑張って成功させてよね!ていうか、頑張ろう!」


痺れを切らし、シオさんが流れをぶった切った。

みんなそれぞれ表情が変わり、全員ニコッと笑って声をそろえて、


「「「「「はいっ!」」」」」


「よしっ!」



それから一週間。

パートや全体での曲の練習、ステージでの装飾やダンスや出し物の練習、そしてそれらを含め通し練習やゲネプロを経て、今日は本番前夜。

最後の合奏練習を終えて、明日の市民会館への搬送の準備をし終え、帰りの支度もして全員で外に出ました。

近くのお寺にみんなでお参りに行くのだ(そのまま直帰)。

外はもう日が落ちて真っ暗。

6月中旬、もう夜は全然寒くなく、ちょうどいいくらいの気温。

全員で固まってお寺まで下り坂を降りていき、お寺に着くと階段を上って部長がお賽銭を投げ、それぞれが思い思いに手を合わせた。

全員でいい音楽が出来ますように。

OGに成長した姿を見せられますように。

ソロがうまくできますように。

うまい演奏をして他校の人をびっくりさせられますように。

失敗して足を引っ張りませんように。

無事に全員で、いい演奏会ができますように。


「明日は早いから今日は寄り道せずにすぐ帰って、夜更かしせずにちゃんと寝ること。それじゃ、今日はここで解散!」


そう顧問の井口先生が言って今日は終了。

みんなそれぞれ散らばっていく。


「レイジー!もう暗いからさ、ユリを家まで送ってってよ。アンタユリと家近かったっしょ?」


「いいですよシオさん。一人で帰れますって」


「だめー!なんかあったら困るでしょ?」


「むー、何かあってもレイジじゃ頼りないです」


「多分大丈夫ですよシオさん。ユリなら男2~3人くらいなら平気で戦えますよ。で、勝てますよ」


「レイジうるさい!」


「とりあえず!レイジはユリを送り届けること!以上!」


そんなこんなで結局ユリといっしょに帰ることになってしまった。

シオさんの後ろで面白がって見てたカナさん含め数人に、明日何を聞かれるのか等を考えながら2人で帰る。

ユリを先頭にしてその後ろをレイジが追いかけるように自転車を下り坂で走らせる(自転車の並列走行はやめましょう)。

ときめく様なムードも何もないね。

直列で自転車を走らせているため特に会話も無く、淡々とした帰路。

読んでる方からしたら何の面白みも無い状況が打開されたのは、下り坂を終えて中心街を走り、上り坂に差し掛かった時のこと(ちなみに俺とユリの家は中心街から少しだけ登ったところにある。といっても中心街まで徒歩15分くらいなので、山奥ってわけじゃないです)。

上り坂になったため自転車を降り、道もが広いため並んで歩く。

俺は話題を探しながら夜空を見上げている。

ユリは何か考えているように俯いている。

そんな時間が少し経ったあと俺のほうからやっと口を開き、


「なんかこの状況ってさ、入部してすぐにパート全員でハンバーガー食べにいった時の帰りみたいだな」


「うん」


「お前まだあの時は初々しくて可愛げがあったんだが…」


「だが…何よ」


「(ニヤニヤ)」


「バカにして…もう知らない」


怒ったのか、ユリはちょっと歩幅を大きくしてスタスタと先に行ってしまった。


「2ヶ月経ってこういう会話できるようになったんだな!お前も俺に手ぇ出すようになったし!」


「何?手ぇ出されて喜んでんの?変態!」


「別に喜んではないよ。そんな趣味は無いし」


「そう?カナさんにちょっかい出されてるとき、嬉しそうだけど?」


「お、何?嫉妬してんの?」


「はぁ~?嫉妬?なワケないじゃん!嫉妬するならもっと優しい言葉をかけてくれて頼れる男がいいし」


そんな中身の無い会話を繰り返していると、いつの間にかもうユリの家の近くまできてしまった。


「ここまででいい…」


「おう、わかった。じゃな」


手を振って、ユリに背中を向けようとすると、


「明日!」


急にユリの声がして、俺はユリの方に再度顔を向けた。


「明日、頑張ろうね」


あまりに急なことでびっくりして数秒口をポカンと開けたままだった。


「な…何よ」


「いや、さっき言ったハンバーガー食べにいった時の帰りの時以来の前向きな言葉だな、と」


「なにそれ。私ってそんなにネガティブ女?」


「いやぁ、そういうわけじゃなくてさ、俺にそんな言葉かけてくれるなんて久々だなぁと。もしかしてお前…」


「残念ながら別にレイジが期待しているような特別な意味なんてないし。ただ明日の定演を成功させたいだけだし」


ユリはレイジから目を逸らし、プイッと向こうを向いてしまった。

俺はまた数秒してから苦笑しながら、


「そっか。うん、頑張ろうな!」


ちょっと声を張ってユリに言った。

ユリはちょっとモゴモゴしながらも、結局笑顔になって「うん、じゃ、オヤスミ」と言って帰っていった。

ユリの後姿をちょっとだけ見届けて、俺もまた自転車を引き始めた。

ユリって俺のことどう思ってるんだろ?別に嫌われてはないと思うけど、好かれてるんかな?どうなんだろ?とか思いながら。

一方のユリは、一心不乱に自転車を引いて走って家まで帰っていった。

そんなこんなで、明日は俺とユリのデビュー戦です。


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