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スイソーガー~小坂県立福浦西高等学校吹奏楽部~  作者: 闇技苔薄
一年生編

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第18話 新たな決意

俺はイライラしていた。

明日から中間試験、もう1週間くらい楽器に触っていない。

正確には家に持ち帰ったマウスピースだけはたまにプープー吹いているのだが、やっぱり味気ない。

一応机には向かっているけど何となく力が入らない。


「あ゛~、トランペット吹きてぇなぁ」


今日は日曜日なので朝から自分の机に向かってはいるのだけど、全然集中できない。

昨日やる気を出すため&これから勉強頑張るであろう自分へのご褒美のためにコンビニで買ったコーラも手を付けないまま部屋で温くなっている。

先週もう部屋の片付けはしちゃったし、読んでなかったマンガも読み終えた。

ゲームもやりすぎるともし親に見つかった場合激しく怒られるし、他のやらなきゃいけないこと(今やらなくていいこと)はある程度やってしまった。

あと残っているのは、試験勉強しかない。

そう思って机に向かったけど集中できずに聴いている音楽を変えてみたり、またマンガを読み直してみたり、ノートに絵を書いてみたり…。

勉強しないといけないのはわかっている。

高校受験の時はそれなりにやった(ホントに「それなり」にやって、なんとか受かってしまった)が、やっぱ必死になれないなぁ。

高校初めての試験だからもっと必死になると思ったが、驚くくらい危機感が無い。

なぜだろう…?

と、そこにスマホにメッセージ受信。

こんなときに誰からだろうか、とスマホをを見るとシオさんからだった。


「ペットパート各位、明日から試験です。お互い頑張ろうね!いやマジでよろしく頼むよ、マジで」


あ、そうだ。

試験で悪い点取って再試なんかになったら定演前なのに大変だったんだ。

そんなことになったらメチャメチャ怒られる、ってユリに言われたっけ。

ユリ、カナさん、シオさん、ミズホさん、ナツキさん全員に「ふ~ん、レイジ再試なんだぁ~?」みたいな空気になったら…?

やばいじゃん、定演前に練習できないとか。

もちろんわかってはいて、気づかないふりをしていただけだけど…あーやべー、焦ってきた。

俺はすぐさま参考書を開くと、返信もせずに既読スルーのまま勉強を始めた。

ただその日の夜は「明日朝早く起きて勉強した方が効率もいいだろうし目も冴えるだろうから、今日は早く寝よう」ということで早めに夜10時に寝て、翌日しっかり朝7時に起きて絶望したのでした。

「やっちまった」感と「いや、よく寝たから頭すっきりしてるし意外となんとかなるんじゃないか?奇跡が起こるんじゃ」という開き直りが交じり合いながら、レイジは1年2組のクラスに入っていきました。



「あああああああっしゃああああ!試験終わったあああぁぁぁっぁ!」


部室に入ると思ったよりまだ部室に来ている人が少ない。

3年生は選択含め科目が多いので明日まで試験があるのだ。


「よーレイジ、試験どうだった?シオさんに怒られずに済みそう?」


真ん中の机に居たカナさんがこっち向いて手を振っている。

ナツキさんとユリもいっしょ。


「うーん、数学とか理系分野は大丈夫そうなんですけど、古文やグラマー(英語の)が若干しくじりましたね」


「別にしくじったのはいいけど、それって再試食らう程度?」


「いや~、それはわかんないっすけど…」


「わかんないのかー、そりゃー不安の残る回答だねー。ねぇユリ?」


「しくじったって言うか勉強してなかったんじゃないの?」


ギクッ!この女相変わらず鋭いな。


「あー、今ギクッって聞こえたー(定番ギャグ)!やっぱしてないですよコイツ」


ギクッて聞こえるのかよ…という定番ツッコミを心の中でのみ呟き、カバンを置いて机に座った。


「相変わらずユリはレイジに厳しいなぁ。でもレイジー、再試とか補講になったらシオさんに怒られるし、ミズホさんに苦笑いされちゃうよ?あ、あとユリは当然怒るだろうし、ナツキにもシカトされちゃうよ?」


「別に私レイジのことシカトとかしないし。つーかカナ自身はどうだったんだ?」


相変わらずテキトーなことを言うカナさんの発言を撤回したナツキさんが聞き返すと、みるみるカナの表情がビミョーになってきました。


「ん、大丈夫、だと、思うなー。エヘヘ…いやまぁ確実に再試とかはないよ!いい点かどうかは別にして…」


いい笑顔でごまかすカナさんを見て溜め息をついたナツキさんはユリの方を見て、「まぁアンタは大丈夫でしょう」という表情をし、次にレイジの方に目を向けて、


「まぁカナもこんな感じだから、レイジだけが心配されてるわけじゃないから」


あぁ、ナツキさんは(正直結構キツいこと言いそうな顔をしているけど…)イイ人だ!

半年後ペットパート1、2年だけになったらカナさんとユリにやり込められそうになるのを想像してたけど、ナツキさんが全体のバランスを保ってくれそうだ。

変な安堵感を持ったが、結局再試への不安は残ったままだった。

それを試験が終わったという開放感の影に無理やり隠したようなもので、臭いものに蓋をしただけだ。

みんななんとなく俺のようなモヤッとした気持ちのまま楽器を出し、みんな練習の準備を始めた。

時間になるまでそれぞれ楽器を吹き始めたり試験の話をしたりしていたが、3年生がいないため何となくいつもと感覚が違う。

しまりが無いというか、親が居ない間お留守番している子供たちというか…。



「さてーーー、みなさん中間試験ごくろうさまでした。しかーし3年生は今日までが試験期間なんで、今日の練習にシオさんとミズホさんはいませーん。ということで私とナツキが今日はパートを仕切りまーす!」


部活開始のミーティングを終え、各パートに分かれた途端のカナさんのセリフ。

ちなみに今日は3年生が居ないので合奏はせずに、音出しして感覚を戻したり、パート練で一週間前までやっていたことを思い出したりする予定。


「今日はナツキさんもメインで仕切るんですか?」


「…いや、一応基本的には(小学校からトランペット吹いてるから)経験の多いカナが…」


「そだよ。なんか文句ある?」


「いえ、なんもないです。大満足です。wktkです」


とりあえず4時から5時30分までは個人練、そしてそれから終了までの30分はパート練ということを取り決めて、各自散っていった

カナさんがパートリーダー役か…。

俺の脳裏に思い浮かぶのは今までのカナさんの指揮による全体合奏。

なぜあの人は指揮棒持ったりパート練したり、と人に教える側になるとあんなにSっぽさが増幅されるのだろうか。

いや、別に普段はドMというわけではない、むしろドS。

ただしいつもは怖くないドS。

指揮棒を持ったときの目の鋭さといったら、いつもと全然違うオーラといったら…。

うーん…ちゃんと練習と見直ししとこ。

こうして全員が約一週間ぶりに楽器を触ったわけだけど、やはりマウスピースだけとは全然感覚が違う。

圧力も、重量感も、テンションも。

マウスピースだけよりも吹き込む息に抵抗や負荷がかかってくるわけで、それが心地よい。

その負荷を感じながら音が大きく広がって響いていくのが楽しい。

やっぱり楽器吹くのは楽しいわ。

この感覚をいつも持ち続けるのは正直難しく、毎日吹いてるとそれが当たり前になってしまう。

だからたまに「お預け」を食らうのはもしかしたら悪いことばかりじゃないのかもしれない。

「自分が楽器吹くのが好き」という気持ちを再認識できるから。

一人暮らしし始めてから再認識する親のありがたみと似ていますね(作者談)。

だって毎日作らなくても食事が出てくるんだもん。

毎日洗濯してくれるんだもん。

日曜の夜、孤独を感じて寂しくなっちゃう気持ちが多少軽減されるんだもん。


「んー、やっぱマウスピースだけより楽しいわ。だけど一週間も空くとすぐ唇が疲れそうだな」


ぷるるるる、と唇を振動させて久々のトランペットを味わう俺。

たまに早起きしたときの清々しさに似て、新たな気持ちや「頑張るぞ、ちゃんと練習するぞ」という新たな決意を胸に音出しを再開する。

目の前じゃなくて遠くをイメージして、遠くのSEONショッピングセンターの買い物客を包み込むような意識で。

いつもなら注意されて「むー…」と思うようなことでも、今日なら素直に受け入れられそうな感じ!

きっとこの後のカナさんによるパート練もまじめに、しっかりと取り組めそうだ(ビクビクしながらだとは思うけど)。

よし、定演まであと少し、気合入れて頑張るぞ!!



その後新たな決意を持って挑んだパート練は性格が"怖いドS"に変わったカナによってたっぷり絞られる結果となってしまったが、怒られているのにどこか笑っている(ペットが吹ける喜びに満ちているだけ)俺は、他の3人に若干気持ち悪がられ、

「勉強のし過ぎで頭おかしくなったんじゃないか?」

「慣れないことはするもんじゃないね」

「まぁそれで再試とか回避できりゃまだいいんだけどもねぇ」

「いいや、実はただのドMで、久々に女子に注意されて喜んでいるただの変態なんじゃないか?」

などと言われ、若干引かれてしまった。

次回、レイジは見事再試、補講を免れることができたのか?

お楽しみに。


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