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第17話 中間試験前試験

中間テストまであと10日、ということで今週の練習が終わったら1週間テスト休みに入ってしまうため、合奏や練習にも力が入っている。

1週間も練習を空けるとやはり1週間前の状態に戻すのに時間がかかってしまうし、注意されていたことも忘れてしまうこともあるのでできるだけ体に叩き込んでおきたいのだ。

昨日も今日も合奏、オレとかユリ達経験者1年生もだいぶ空気に慣れてきて合奏にもうまく混じり始め、未経験者の人も頑張ってついていっている。

部や各パートがようやくまとまり始めた。



「レイジちゃんと試験勉強してる?」


今日は1部でやる曲の合奏があるので、今はシオさんとマンツーマンで1曲目「僕らのコンベンション」の練習をしている。


「あ、まぁその、数日前(第16話参照)のことがあるんで一応それなりには…」


「ユリの機嫌損ねちゃったし、そのあとこっぴどく叱られてたもんね~。まるで親子みたいで面白かったよ」


「親より怖いかもしんないっす」


「そんなこと言ってるとまたユリに怒られちゃうよん」


軽いノリで言ったシオさんとは逆に、俺は必死で周りをキョロキョロし出し、ユリの存在を確認。

大丈夫、ユリは向こうでミズホさんと練習してる。

軽い安堵のため息をつき、またシオさんの方を向く。


「怖いこと言わないでくださいよ」


「んふー、もう二人の立ち位置が決まりつつあるねぇ。仲良くなってきたってことかな?」


そう言うと俺の返答を聞くまでもなく楽譜を入れてある自分のファイルをゴソゴソし始めた。

「あったあった」と言って取り出したのは何かの楽譜。


「いきなりだけどさ、急に思い出したからこれやろう!合奏までまだ時間あるし、5分くらいでできるでしょ」


そう言われてその楽譜に目を向けると、そこには「タンギング・アクセント練習」と書かれていた。

それは以前俺とユリに配られた(第7話参照)プリントと同じもので、ちなみにユリのには「テヌート・ロングトーン練習」と書かれている。


「いや~、カナとさぁ、そろそろ一回くらい見てみようか?ってね。中間テスト前にこっちも試験してみようと思って」


「は、発表とかは無いっていってたじゃないですか…」


「あぁ、それはパート全体の前での発表は無いよ、って意味だよ」


「う、ううう、また今度じゃ…心の準備が…」


「だめー!今からやりまーす。って、もしかして全く手つけてないの?」


「いや、一応毎日やってはいます…」


シオさんは一見いじわるっぽくそう言いますが、このノリのまま「そうでぇ~っす(てへっ)」でも言ってしまったらヤバイというのはさすがに感じているし、言葉通り一応毎日もらったプリントの練習はしていて、それはシオさんもちょくちょく見かけているはず。


「じゃあさっそくやってみようか!」


「え!もう今から!?」


「うん、じゃあこのメトロノーム巻き終わったらね」


「1分も時間ねぇーーーーーーーーー!!!」


急いで楽譜を取り出し、目で楽譜をさらう。

といっても練習用の楽譜でしかも別に初見ではないので今更全然譜面を見る必要なんてないんだけど。

ホントは少し練習して気を落ち着かせたいのだけども、いきなりシオさんの前で練習始める度胸や余裕は無い。

楽譜を見て無意味に「う~ん」とかつぶやいて頭をポリポリ…あっという間にシオさんはメトロノームを巻き終えた。


「んじゃあ準備はい~い?とりあえず1番の音階からやってみ」


「あ…よ、よろしくお願いします」


「は~いよろしくぅ。じゃあ1,2,3で入ってな」


ニッコニコしながらシオさんはメトロノームと俺に交互に目を配る。

緊張して手汗で楽器が若干ヌルヌルしている。


「いち、にぃ、さん…」


楽譜の1番の音階はスタンダードなB♭の音階で1小節に1つの音を4分音符で、アクセントをつけて昇降する。

経験者の人はよくコレでテヌート、スタッカートなんかもやらなかった?

テンポは60。

あまり速いテンポではないので勢いで音を出すことは出来ない。

フライングなんかもしないよう注意が必要。

集中、俺は全身の意識を唇に向け…それがいけなかったのです。


ポヘッ


ああああああああああああああああああああああああ、なんて思っている暇はない。

1秒後、正確には1秒無いですがすぐまた同じ音を出さなければいけない。

悪循環、一度した失敗はなかなかに尾を引く。

落ち着きを取り戻すのにも(メンタルの強さによって個人差はあるけど)時間がかかる。

あれ?もう、おしまい?


「レイジってホントに音の出だし弱いよね」


「うー・・・」


「いろいろ意識して吹くのはいいんだけど、レイジは考えすぎなんかなぁ・・・今何意識して吹いてた?」


「えーっと、アンブシュアとか」


「うんうん、唇の状態に気を配っていい形、配置を意識したんだね、で?」


「あとは、以前教えてもらった腹筋とか全身の力を抜くとか音のイメージとか」


「他には?」


「え?」


「?」


「えぇ?」


「それだけ?レイジは考えすぎって言ったけど…それ意外と普通にみんな考えてることだよ???」


「う…」


「意識はしてるけど、「ここをこうしよう」ってことは考えられてなかったっぽいね」


ガッカリ…という表情を隠そうともせず、シオさんは肩を落とす。

う~ん、個人で練習してるときはもう少しうまくできてたハズなんだけどな。


「レイジって緊張しやすくて周り見えなくなるタイプかな。意識はしてるけど、意識してるだけで頭は真っ白。なんだろ、この練習あまり緊張しないように軽いノリで始めたつもりだったんだけど…もしかして…」


「もしかして?」


「レイジって私のことキライ?」


「…は?」


急なことで俺はぽかんと口を開けたまま呆然とした。

どういう意味?

「いや、別にキライじゃないですけど」

→「じゃあそれはスキって意味なの?」

→「あー、まぁそうなのかも・・・」

→「それは恋愛感情として?」

→「え・・・?」

→「私、レイジのこと…好き」

という妄想が一瞬頭をよぎりましたが、さすがに「この状況下でコレはないだろう」という結論に達し、


「えーっと、えーっと…どういう意味っすか?」


「あぁごめん。わかりにくかったか!そのさ、レイジって私のこと怖がってる?」


ますます意味がわかんねぇ!

え…えと・・・とオロオロする俺を見て、シオさんはイライラし始める。


「えーい!怒らないからハッキリ言いなさい!」


怒ってる怒ってる。


「いや、別に怖がってはないですけど・・・」


「本当かなぁ・・・なんかレイジ一人でやってる時はもう少しちゃんとできてた気がするんだけど・・・やっぱミズホのほうがやさしいし綺麗だし好きか~」


若干落ち込んでいる(?)感じのシオさんを見て、俺はなんだか申し訳なくなってた。


「ホントに怖がってないですよ!ちょっと、いきなりで緊張しちゃって…」


オロオロしながらそういって、シオさんの誤解を解こうとする。

全然キライとか怖いとかじゃなくて、ホントただ緊張しただけなんです。

そんな顔しないでください…。

今度は俺が落ち込んだ感じになってきたので…


「…うん、わかった。レイジは私のことが好きで好きでたまらないんだね」


「…は?」


予想外の発言にまた俺はポカンとしてしまい、全身の力が抜けてしまいました。

ニマ~っと意地悪な笑いを浮かべてシオさんは続ける。


「それじゃ、レイジ憧れの先輩である私がもう一回チャンスあげる。今度はもうちょっとリラックスしていつもやってるみたいにやってね」


腰に手を当てて胸を張ってシオさんが言った。


「力入りすぎで体が硬くなってるよ。もっと体を柔らかく楽にして吹きな」


一瞬「硬くなってる」で最低なシモネタを思いついてしまって口元が緩んだけど、なんとか口に出さずに飲み込んだ。

前回のこともあるように女の子の機嫌を損ねると男としては厄介。

福浦西高校の吹奏楽部(というか大体の吹奏楽部)は圧倒的に女子が多く女子間のネットワークが発達しているので、これを敵にまわすと大変危険。

一夜にして部全体が敵になる危険があるのだ。


「何笑ってんの?…もしかして、さっきの私のありがたい助言の断片的なワードでなんかエロいことでも考えてたのかぁ~?」


「えっ!」


俺ピンチ。


「そ、そんなわけないじゃないですか!そういうこと言うシオさんの方がエロいんじゃないですか?」


形勢逆転。

「言ってやった」とばかりに俺の顔はニヤつく。

ここらへんが子供。

あれ、シオさんの顔がみるみる真っ赤になっていく。


「な・・・な・・・なんだとぉーーー!!!レイジのバカ!最低!セクハラぁ~~~!!!」


形勢逆転。

周りで練習している他の部員が何人かこっちの様子を伺っている。

俺の顔はみるみる真っ青になっていく。

この状況は…もしかして大ピンチ?


「っていうか、セクハラってなんすかシオさん」


「セクハラじゃん、セ・ク・ハ・ラ」


「だー!セクハラセクハラってそんな大きな声で何回も言わないでくださいよ!セクハラって4文字には想像以上の破壊力があるんです!軽々しく大きな声出されたら男子は困っちゃうんです!ほら、なんかクラパートの女子がこっち見てますよ?「セクハラ?」ってな顔で!」


「…アンタが一番大きな声で連呼してんじゃん…」


「ぐっ…そ、それはともかく!軽々しくセクハラなんて言わないでください!」


「年頃の女の子に「アナタはエロいですね、淫乱ですね」って言うのはセクハラじゃないの?」


クラパートの数人が「淫乱?ヒソヒソ」と言うような会話をしている感じがが聞こえてきたんだけど…じっとりした汗をかいてきた。

終わる、このままでは俺の高校吹奏楽3年間があっさりと決終わってしまう…。


「淫乱なんて言葉、言ってないですよ…」


「そうだっけか?んー、まぁもういいや。いつまでもセクハラ談義盛り上げても時間の無駄だし、話の続きやりたかったら練習終わったらね」


「ちょ…練習終わったら絶対あそこらへんの人たち(クラパートを指差しながら)に伝えといてくださいよ?「淫乱なんて言ってません!」って!そうしないと俺この部活で完全アウェーになっちゃいますよ」


「へーいへい、わかったわかった。んじゃ、さっきの課題もう一回やってみようか?今ので力は抜けたっしょ?」


「絶対言っといてくださいよ。てか変に力使ってただ疲労感しか残ってないっすけど」


「いいじゃんいいじゃん。ユリやカナに聞かれたわけじゃないんだし!あいつらに聞かれたほうが地獄でしょ?」


「それは…地獄だ」


ユリに聞かれた場合に想定できうる修羅場

「レイジ!何シオさんにセクハラしてんの!サイテー」

→「変態男、サイテー。プイッ」というセリフで会話が無くなる。

→「ユリどうしたの?最近レイジと仲悪いじゃん」「実は…」でジワジワ広がる。

→ヒャッハー!フク西吹奏楽部三年間は地獄だぜ。


カナに聞かれた場合に想定できうる修羅場

「にゃははははは、レイジ、シオさんにセクハラ発言したの?や~だ~」

→カナ生徒指揮中全体の前などで言われ、いっぺんに広がる。

→ヒャッハー!フク西吹奏楽部三年間は地獄だぜ。


…まぁ、2人に聞かれていなかっただけ良しとしよう。

クラパートの誰かが2人に言わなきゃいいけど。


「じゃあさっきのこともうもう一回思い出して、レイジの頭ん中整理できたら言って。まぁ合奏まであんま時間ないからパパッとね」


「さっきのこと…」


個人練習ではいろいろ意識して、まあまあさっきよりは出来てた。

それがシオさんの前でやるってことで全部吹っ飛んだ、そりゃまぁ見事に真っ白に。

落ち着け、落ち着くんだ。絶対に、絶対におおお落ち着くんだ!!!


「あのねぇ、別に上手く出来なかったくらいで定演や大会に出られなかったり半殺しにされたり女子全員にシカトされたりするわけじゃないんだから、そんなに難しく考えないでよ。む、やっぱ私が怖かったりキライだったりが原因なのか…?」


「いやいやいや、キライでも怖がってたりもないですってば!これじゃさっきの繰り返しだよ!」


「まぁとりあえず軽い気持ちでやってみな、むしろ出来ないことよりこんなんで時間が過ぎていくのでキレそうだよ」


「は、はいぃぃぃ!すみませんでしたっ!」


「結局気持ちが楽になってないし…」


どことなく私はレイジとまだ気持ちが打ち解けきれていないのではないか、「あの人」に比べれば全然マシだとは思うけども…

まぁそんな2ヶ月程度で年違いの男女が完全に打ち解けあうのも難しい話なんだけど…ていうかむしろレイジは私とそこそこ打ち解けてるほうだと思うんですけど、どうかねぇ。


「OKっす!」


「あの人」のことをぼうっと考えながら、ポカンと口を開け遠くのSEONショッピングセンターを見ていたので不意をつかれ「へっ?」と変な声を出してしまいました。


「あ、あぁ…んじゃいくよ。ってメトロノームが…あははは」


「どうしたんですかー。急にボーっとして?」


そっか、レイジは「あの人」知らないもんね。

ってかレイジには関係ないし。

性別だけで一括りにしちゃまずいよね。

レイジと「あの人」は、違う人間なんだし。

でも絶対打ち解けさせる、ユリもレイジもみんな仲良くさせるんだ。

言いたいこと言えて、一緒に笑って泣いてを共有できて…

ジーコジーコとメトロノームを巻き終わり、柵の上に置き、先ほどと同じようにテンポ60でコチコチ動き始める。

もっと楽にレイジが出来る空間を作ってあげなきゃ、あの時みたくは…しない。


「じゃあ準備はいい?もう一回1番の音階からやってみて」


アイコンタクト、レイジはいい集中している。

今度はもうちょいうまくいきそうだ。


「いち、にぃ、さん…」


楽譜の1番の音階はスタンダードなB♭の音階で1小節に1つの音を4分音符で、アクセントをつけて昇降する。

うん、さっきよりイイ感じ。

ところどころアラはあるけども、言ったことは意識してくれてる。

後半ちょっとバテてきてる?

アクセントなんかがニガテってことは、舌の使い方もうまくないわけだから普段使えてない分バテて当然。

後は顔だな。

余裕ない必死な顔。

ベッドの上でこんな顔されたら引いちゃうわ、ってくらい必死。

もっと余裕持って出来るように、私が引退するまでにはさせたいな。



「ふぅ…ど、どうでしたか!?」


フンフン鼻息荒く、レイジが聞いてくる。

興奮してるけどちょっと笑ってるから、自分的にもさっきよりはいい感じだったんかな。

いいよ、そのちょっとした自信が積み重なって上手くなってくんだわ。


「その前に、レイジはさっきのと比べて今のを自分でどう思った?」


質問を質問で返しちゃ意地悪かな?


「えと…そうですね。ホント初めの出だしがまたミスりました。そのあとちょっと掴めてきたんすけど後半の音階下りでバテちゃいましてポヘポヘいってしまいました。あと音程もあまり注意できずにいまいちでした。あとそれから…」


失笑しながらシオリは


「んまぁ間違ってないけど…じゃあレイジはさっきのよりもダメだったってこと?」


「いや、んと、さっきよりは…」


「よりは…?」


「う、うまくできたと思います」


恥ずかしそうに、申し訳なさそうにレイジはハニカミながら言います。

おお、ハニカミ王子だ、ハニカミ王子。

ってZ世代は知らねーかw

でも本物のハニカミ王子はもっと自分に自信持ってはにかんでるよ。

レイジは自信持たなすぎだよ。


「うん、私もさっきよりいいと思うし、まだまだ荒いけどもちゃんと前言ったこと考えてるのわかったよ。うんうん、とりあえずまた怒らずにすんだわ」


二コッと笑うと、レイジはホッとしたみたい。

多少は自信になったかな?


「んじゃー、次はコレをスタッカートでやってみて!」


「は、はい!」



練習終了後の下校中、今日のレイジとの練習のことを考えていた。

そりゃまぁ結果から言えば、決してすごいうまいわけじゃなかった。

でも確実にレイジは前に進んでてくれた。

そういや昨日、今日の私と同様にカナがユリにテヌートの抜き打ち検査をしたみたい。

ユリも必死に頑張っててそれなりに前に進んでたみたいで、カナも嬉しそうだった。

ユリもあまり自分に自信を持ってるタイプじゃないけど、カナに少し認められてすごく嬉しそうだったらしい。

2人とも少しだけ自信ついたかな?

後輩が前に進むのって嬉しいな。

しかもそれを共有できるのって嬉しいな。

こんなの後輩からしたらウザがられるかもしれないけど、先輩の醍醐味だね。

あ、偉そうにできる!ってのとは違うよ。

誰かといっしょに先に進めるって楽しい。

絶対私はみんなでいっしょに進むんだ。

あの時みたいな思いはレイジやユリにはさせないんだ!

私は、誰も置いていかないんだ。

「あの人」みたいには、しない。



その頃レイジとクラパート。


「佐々木君ってさっきシオちゃんにセクハラしてたの~?(ニヤニヤ)」


「…シ・オ・さ~~~~~~~~ん!この状態のまま帰らないで~~~~!!!説明はーーーーー!!!???」


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